twinkling 6|神崎★★★★★★
*
カウントダウンの表示はゼロを示した。打ち上げられた船がどこへ行き着くのか神崎自身にも分からない。神崎に与えられた任務、それは、四層からなる大気圏を突破して彼女たちをその先へと送り届けることに他ならない。
「ひかりさん」
「はい」
「ありがとう」
「え?」
「正直、僕が勝手に仮定しただけの話をお伝えしていいかどうか迷っていました。今の今まで、迷っていました。迷っていたんだと感じました。けれど、ひかりさんに、そう、言っていただけたことで迷いはなくなりました。だからの、ありがとうです」
「あ、いや、そんなそんな、ありがとうはこちらこそです。いつもも、いまも、今回のことも」
「はい」
「はい」
神崎とひかりの視線が合う。
ニャー。
きみの合図が聞こえる。
勇敢な声だ。
神崎は声の主を見据えて、小さく頷く。
「ひかりさん」
「はい」
「ひかりさんの姓は『星野』ですね。これは、母方の?」
「ええ、そうです、祖父母の姓です。それが何か?」
「もしかしたら、占星術に関係する家系というはありませんか?そういう話を聞いたことは?」
「ああ、たしか、
「くぅ〜」
神崎が惜しみない声を出す。
「え?」
ひかりは驚きの声を出す。
「失礼しました。おもわず声が漏れてしまいました」
「や、神崎さんもそんな声を出すんですね、なんか、うれしい感じです」
「出しますとも、今の僕に児相の仮面はありません。それに大事な任務がありますからね!」
「大事な任務??」
「気にしないでください。ええ、それでですね、ええ、日本に占星術が伝わったのは平安時代と言われています」
「あっ、ムシゴハンのやつですね!」
「……違います、それは大化の改新で飛鳥時代です」
「あ…あは、あはは。わ、わたし、歴史がどうも苦手でして、あのう、そのう、年号とか数字とかちょっと……すみません」
「逆に、国語以外の何が得意ですか?」
「逆に?」
「あ、いや、すみません。ええとですね、平安時代は百五十年ほど後です。鳴くよ鶯、です」
「ああ、そっちか!鳴くようぐいすホーホケキョ!」
「……ふざけてます?」
「え、違いましたか??」
「話を、進めます」
「おねがいします」
「その時代の占星術が
「分かります!いやぁ〜、あれって、そんな昔からあったんですね、ふぇ〜」
「はい、ひかりさんやお兄さんの姓名から、もしかしたらと推測していましたが、ビンゴでした。少なくとも、何らかの形で、おふたりは
「あの、それで、思い出したんですけど……」
「何をですか?」
「お兄ちゃんが亡くなったとき、わたしは四歳でした」
「ええ」
「さっき、わたし、きらきら星を勝手に北極星にしてたって話しましたよね?」
「そうでしたね」
「でも、お手洗いでおもったんです。というか、思い出したんです」
「何を思い出したんです?」
「はい、たぶんですけど、わたしはお兄ちゃんが亡くなるときにその場にいなかった。それって、別のどこかに行ってたってことだよな、でも、わたしがおばあちゃんのとこの預けられたのはその後だって言われたから、どこか別の場所だって」
「なるほど、当時暮らしてた部屋ではなく、おばあちゃんの家でもない、別の場所があったということですね」
「はい」
「その場所に心あたりはありますか?」
「はい」
「それは…どこですか?」
「ええと、正確な場所は分からないんですけど、たぶん、どこかの託児所、かな。あの、そこでは、おねしょしないように寝る前にトイレに行かされてたんです。なんでそんなこと思い出したのかと言うとですね、この喫茶店のトイレ、便器の上蓋にレトロな花柄のカバーがしてあったんです。そのカバーを見たとき、あれ?なんか見たことあるかもって。そしたら、ハッと、いま話した場面が浮かんだんです」
「ええと、つまり、お兄さんが亡くなったとき、ひかりさんは託児所のような場所に連れて行かれていたと言うことですか?」
「…だとおもいます。それで、」
「はい」
「四歳の子どもって、普通だったら遅くまで起きてませんよね?うちの系列施設では、乳幼児さんは19時半までには寝かしつけます。だから、ほかの夜間保育だって同じくらいの時間には寝かしつけているはずです」
「僕の把握している範囲でも、そうです」
「ですよね。そしたら、わたしがきらきら星だとおもってた北極星は、お兄ちゃんの教えてくれたきらきら星じゃないですよね」
「ええ、その可能性は大きいですね」
「だって、わたしが見てきた北極星、ポラリスですか?が一番輝いてみえるのって、もっと、ずっと遅い時間です!」
「ひかりさんの言う通りです。ポラリスが最も輝いてみえるのは、日本では、どの時期も、0時前後のはずです。もちろん、観る場所や月の状態や天気にもよりますが」
「だとしたら、わたしがお兄ちゃんと見たきらきら星は、ポラリスじゃない…」
「ひかりさん、そのきらきら星は動いてましたか?つまり、流れ星やほうき星だった可能性は?」
「そこまでは覚えてないんです…でも、流れ星やほうき星だったら、偶然じゃないと見つからないですよね?」
「はい、そうです。天体に関するよほどの知識がお兄さんにない限り」
店のカウンターの向こうから、ソーサーにカップを乗せる小気味良い音が聞こえる。追いかけるようにジンジャーが鳴く。
「でね、閃いたんです」
「はい」
「お兄ちゃんの教えてくれたきらきら星は、一番星だったんじゃないかって」
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます