twinkling 4|なぎさ★★★★
*
私史上初の出来事(わたしはそれを『ティッシュ事変』と名付けた)のあと、わたしは、ぽつりぽつりと、ひかりさんに確かめたことがあった。わたしは、ばらばらじゃないかということについてだ。一度でもばらばらになってしまえば、もう二度と、もとに戻れないという恐怖と不安がずっとあった。目を閉じていないときも、あった。すご技を持った職人でさえも修復不可能なほど、ばらばらになってしまったんじゃないかと。でも、ひかりさんは言った。
「わたしも、ばらばらだよ」と。
「嫌なことがあるたびに、つらいことがあるたびに、耐えられないことがあるたびに、ばらばらになってる」と。
ひかりさんは教えてくれた。
人間のからだは四十億個もの細胞から出来ていて、細胞ひとつのなかには、百兆個以上の物質が入っていて、さらに、百兆以上の目に見えない小さな細菌たちが、からだのあちこちに住んでいるというのだ。そして、それらひとつひとつは、ばらばらだというのだ。
「だから、わたしたち、本当は最初からばらばらなのかもしれないね」と、ひかりさんは笑いながら言った。なんて、あたたかい笑顔なんだろうかと、わたしは見惚れた。そして、その日、最後に、ひかりさんが言ったこと、
「でもさ、その、もう、考えただけで目が数字になるくらいの、たくさんのばらばらのひとつひとつがさ、何かの力で引き寄せられて、ひとつの場所で、からだで、みんなで暮らしてることが生きてるってことなのかもしれないね、いや、これ、受け売りなんだけどね」
ひかりさんのこの言葉は、私史上初の出来事(わたしはそれを『ばらばら事変』と名付けた)をもたらした。わたしは、ばらばらになったんじゃない。最初から、ばらばらだったんだ。たくさんのばらばらたちと一緒に生きていたんだ。ばらばらたちと、みんなで、生きているんだ。
その夜、わたしは、嘘みたいに、ぐっすりと眠った。もちろん、ばらばらたちと一緒に。
*
わたしは、もう、無敵じゃなくなっていた。
わたしは、もう、スターをゲットできなくなっていた。でも、いいのだ。ポコポコポコとやっつける敵は、わたしの中にも外にもいないのだ。
本音をいうと、夜は、まだ、すこしだけ怖い。でも、ずいぶんマシになった。目を閉じれば、わたしは感じることができる。ひかりさんのあたたかい手を。あたたかい声を。ぬくとめられた背中や解けた心の氷塊を。
涙と鼻水が止まった後、今度は、わたしのなかから、ぽこぽこぽこと湧き出すものがあった。
それは、やさしく、あたたかい泡だった。
泡は膜のなかを満たして、わたしに触れては跳ね返り、また、わたしに触れた。ぽこぽこぽこ。ぽこぽこぽこ。
わたしは、蝶にはなれない。
わたしは、ひかりさんのようにもなれない。
わたしは、真っ白にはなれないし、
わたしは、ひかりさんの色にもなれない。
だけど、わたしは、わたしになることはできる。つながりを引きちぎられて離れ離れになっていたわたしのかけらを集めるのだ。それらは、わたしがわたしをまもった証だ。一体、いくつあるだろう。見るも無惨なかけらたち。不恰好なかけらたち。くすんだ色のかけらたち。
けれど、愛しいかけらたち。
わたしの、わたしだけの、かけらたち。
何年かかっても、見つける。見つけてやるんだ。だって、どれも、わたしなんだから。
もう、わたしは、わたしを手離したりしない。わたしのかけらはわたしのものだ。わたしには見える。その、ひとつひとつのかけらたちが輝いている。ひかりさんや、ジンジャーや、ここで出逢った人たちが教えてくれた。言葉じゃない、もっと、もっと、伝わる別の何かで。
だから、わたしは、わたしになる。なるよ。
きっと、なれる。いや、なる。
そのための旅が始まる。
このGHが、わたしのスタート地点だ。
わたしの名前はなぎさ、十四歳、LV.1。
ばらばらだけど、ばらばらじゃないわたし。
四十億の細胞と百兆の仲間たちがいるわたし。
最弱だけど最強のわたしよ、
さあ、出発しよう。
いま、わたしの手の中にある地図は、
真っ白だ。
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