14.やはり俺の恋愛相談は地獄難易度
俺の部屋。
ベッドに座る俺と、その前に立つペルフィ。
「……」
「……」
沈黙が支配する空間。
これは何の展開だ?伝説の「異世界ハーレム展開」か?相手は超絶可愛いエルフの美少女だぞ!さっきまであんなに近くて、酒の香りと彼女の甘い香りが……
いや待て。
でも、こいつ最近俺に吐いたじゃないか!
くそ、心臓がバクバクいってる。前世三十何年、こんな展開一度もなかったのに!
そもそも、なんでこうなったかというと——
さっきペルフィが「部屋に……来ない?」と言った後、俺は反射的に小声で「……俺の部屋に?」と聞き返した。
すると、なぜかペルフィはそれを同意と受け取ったらしく、「じゃ、行きましょ」と俺の手を掴んで、有無を言わさず部屋まで引っ張ってきた。
そして——
「きゃっ」
俺をベッドに押し倒した。
いや、なんで俺が「きゃっ」なんだよ!でも実際、そんな感じの声が出た。まるで俺が襲われる側の少女みたいじゃないか。
でも、その後ペルフィは急に冷静になったのか、俺の隣にちょこんと座って、じっと俺を見つめている。
俺も慌てて起き上がり、正座した。なんか急に真面目な雰囲気になって、逆に緊張する。
酔いが少し残っている頭で、必死に状況を整理しようとした。
そして——
「……やろ?」
ペルフィが口を開いた。
「え?」
聞き取れなかった。
「だから……」
彼女の頬が真っ赤になる。酒のせいか、恥ずかしさのせいか。
「ヤろう?」
……
……
マジか!
俺の脳内が大パニックになった。
これマジの展開!?いや、でも待て、冷静に考えろ丹波但馬!
前世、俺は独身だった(たぶん)。
前世、俺はこんな経験なかった(たぶん)。
俺は童貞だ(確実に)。
……なんで最後だけ記憶がクリアなんだよ!忘れさせてくれ!
「じゃ、脱ぐから」
「は!?」
ペルフィが立ち上がり、ローブのボタンに手をかけた。
待て待て待て!
俺の脳内が高速回転し始めた。
ストップ!丹波但馬、考えろ!
俺は心理カウンセラーだ——偽物だけど
彼女は俺のクライアントだ——金払ってないけど
彼女はずっとレオンのことで悩んでて、今日も泣いてたじゃないか!
なのに、酒飲んだらいきなり俺を誘うって、明らかにおかしいだろ!
「待って、ペルフィ!落ち着いて!」
俺は慌てて彼女の手を掴んだ。
「なんで?」
ペルフィが不思議そうに俺を見る。
「いや、なんでって……」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
減る減らないの問題じゃない!
「ダメだ!絶対ダメ!」
俺は必死にペルフィの両手首を掴んで、彼女がローブを脱げないように押さえた。
そして、そのまま力を入れて押し倒——
あ。
気づいたら、俺がペルフィを押し倒す形になっていた。
「……」
「……」
ペルフィの顔が、さらに赤くなった。
「や、やっぱり……そういうのが好きなのね」
「違う!これは事故!」
でも、ペルフィは俺の言葉を聞いていない。
彼女は目を閉じた。
唇を少し突き出して、待っている。
完全に誤解してる!
俺の理性と本能が激しくせめぎ合った。
いや、でも……
俺の脳内の悪魔が囁く。
この恋愛相談、どうせ失敗するだろ?
それに、俺はこんなに不幸な目に遭ってきたんだ。
たまにはご褒美があってもいいじゃないか。
確かに、ペルフィは美人だ。エルフ特有の整った顔立ち、エメラルドグリーンの瞳、金髪——
そういえば、このまえ、レオンが店を出る時に言った言葉を思い出した。
「彼女を……よろしく頼む」
あの時は、ペルフィがいつも迷惑かけるから言った社交辞令だと思ったけど……
いや、でも考えてみれば、これも「世話」の一環では……
ダメだ!何を都合よく解釈してるんだ!
でも、ペルフィの顔が近い。吐息がかかる。甘い香りが——
その時、俺は気づいた。
ペルフィの体が、小刻みに震えている。
そして、閉じた目の端から、涙が一筋流れていた。
……
俺の欲望が、一瞬で冷めた。
彼女は泣いている。
これは明らかに自暴自棄だ。レオンとルナに刺激されて、俺を代用品にしようとしている。いや、もっと悪い。自分を傷つけることで、痛みを紛らわそうとしている。
もし俺がここで応じたら?
明日、酒が覚めた彼女は絶対に後悔する。自己嫌悪に陥る。もっと苦しくなる。
俺という偽物カウンセラーが、彼女の症状を悪化させることになる。
それは、たとえ偽物でも、最低限の職業倫理に反する
まあ、そもそも俺に職業倫理なんてないけど。
ただ……
人の弱みに付け込むは俺の趣味じゃない。
はぁ、めんどくさい。異世界の恋愛相談、難易度高すぎだろ。
でも、引き受けた以上、最後まで責任持たないとな。
俺はゆっくりとペルフィから離れた。
「ごめん、俺……できない」
「……え?」
ペルフィが目を開けた。涙で濡れた瞳が、俺を見つめる。
「なんで?なんでよ!」
彼女が叫んだ。泣きながら。
「あなたが応じてくれたら、私は諦められる!レオンとルナを祝福できる!もうパーティーにいる理由もなくなる!それでいいじゃない!」
ああ、やっぱりそういうことか。
俺は必死に頭を回転させた。どう答えれば彼女を傷つけずに済むか——
よし、まずは優しく断る言葉を……
『ペルフィは素敵だけど、でもペルフィの心にはレオンがいるだろう?』
いや待て、それ言ったら「もういいの!」って泣かれそうだ。却下。
じゃあ理性的に……
『クライアントと関係を持つのは職業倫理に反する』
でも俺、偽物カウンセラーだし、そもそも金もらってないし。説得力ゼロだ。却下。
責任転嫁作戦!
『エルスが怒るから』
いや、それ俺が情けなさすぎるだろ。男として終わってる。却下。
身体的な理由!
『実は俺、そっちの機能が』
それ言ったら同情されて余計面倒なことになりそう。却下。
趣味の問題!
『俺、実は男の方がもっと…』
違う!全然違う!むしろ女の子大好きだ!却下!
もういっそ正直に!
『初めてだから怖い』
童貞カミングアウトは恥ずかしすぎる!却下!
逆に経験豊富なふり!
『お前の程度じゃ満足できない』
殴られる。確実に殴られる。いや、魔法で消し炭にされる。却下。
もう何も思いつかない!パニックだ!口が勝手に動く!
結局、口から出たのは——
「……だって、このまえ、俺に吐いたじゃん。そういう気分になれない」
「……」
「……」
ペルフィの顔が、見る見るうちに変化した。
悲しみから、困惑へ。
困惑から、怒りへ。
「はあ!?」
彼女が立ち上がった。
「それが理由!?私が告白してるのに、そんな理由で断るの!?」
いや、告白じゃないだろ。自暴自棄だろ。
「メテオストライク!」
「ちょ、待て!」
ペルフィの手に魔力が集まり始めた。
やばい、このままじゃ店が吹っ飛ぶ!
俺は咄嗟に叫んだ。
「スリープ!」
ポテッ。
ペルフィが急に脱力して、ベッドに倒れ込んだ。
「すぅ……すぅ……」
寝息が聞こえる。魔法が効いたらしい。
でも、服が乱れたままだ。ローブのボタンが半分外れて、肩が露出している。
俺は慌てて毛布をかけようとしたが——
「あ……」
急激な疲労感に襲われた。
今日は魔法使いすぎた。朝の「キュートになれ」も、今の「スリープ」も、俺の限界を超えている。
膝から力が抜けて、俺もベッドに倒れ込んだ。
「くそ……異世界……めんどくさ……」
意識が遠のいていく。
最後に見えたのは、ペルフィの寝顔だった。
涙の跡が残っているけど、なぜか安らかな表情をしていた。
……
……
……
俺は目を覚ました。
まだ朝早い。窓から差し込む光が柔らかくて、時計を見ると6時半だった。
体を起こそうとして——
「ん?」
何か柔らかい。
下を見ると——
なぜか俺が、ペルフィの上に覆いかぶさっていた。
は!?
ローブのボタンが半分外れて、肩が露出したペルフィ。その上に、四つん這いのような格好で俺が乗っている。
どうしてこうなった!?昨日は確実に離れて寝たはず!
寝返り?いや、寝返りでこんな体勢になるか?
しかも、なぜか俺たちの間には——
「にゃ〜」
タコちゃんが挟まって、ぺしゃんこになりながらも幸せそうに寝ていた。
いつの間に!?
昨日は確か一階にいたはずだが、夜中に上がってきたのか?しかも、なんで俺たちの間に?
いや、それより問題は——
この状況、完全にアウトだ。
衣服が乱れたペルフィ。
その上に乗っている俺。
間に挟まれているタコちゃんすら、状況を悪化させている。
早く離れて、ペルフィの服を直して——
ガチャ。
「但馬さ〜ん、起きてますか〜?」
エルスの声と共に、ドアが開いた。
「…昨日は飲みすぎちゃって……あれ?」
彼女の声が止まった。
お、おしまえーー
「…な、なん、なん、なんでだああああああああああ!!」
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