夜の『なんでも屋』にて
家の最寄り駅まで電車で揺られること40分。
時刻は8時30分。
僕は駅の近くの商店街にある「なんでも屋」へ向かった。黒文字で大きく「なんでもや」と書かれた緑色の看板は商店街の中でも異質なオーラを放っている。
その看板の下には、昭和を感じるレトロな木造の引き戸。
中の様子が見えない不気味さと看板の異質なオーラから、新規の客は増えないだろうなと思いつつ、僕は引き戸を動かす。引き戸はガラガラと音を立てながら、僕を招き入れるように、大きく開いた。
店の中には、置物や機械類、そして古本が、足の踏み場も無いほど置かれており、壮大な光景が広がっている。
「おっちゃん、居るー?」
「はいよー、お、陽介か、どないした?」
僕の声を聞いて、店の一番奥のカウンターから髭のはやした白髪のおじさんが、嬉しそうに顔を出す。おっちゃんとは昔からの知り合いだ。ただ本名は知らない。小さい頃からずっと「おっちゃん」と読んでいるうちに忘れてしまった。僕は店の中をかき分けながら進む。
「頼みたいことがあるんだ」
僕はカウンターに鍵を置いた。
「これの合鍵を作って欲しい」
おっちゃんは、鍵を手に取って「うーん」と唸りながら、鍵を様々な角度から観察している。
「陽介、これは学校のもんか?」
素直にさすがだと思った。「2-6」書いてあった名札は外しておいたし、鍵だけではわからないだろうと思っていた。しかし、僕はおっちゃんが必ず仕事を受けることをわかっているから、強気な口調で言う。
「学校のものだとダメ?」
「いや、大丈夫やで、ただ、報酬は弾んでな?」
店の奥には紙に『合鍵作成 500円』と書かれている。
「……わかった。いくら出せばいい?」
おっちゃんはニヤッと笑って、右手の手のひらを見せてきた。5倍、ということだろう。僕は諦めて財布から二千五百円を出す。
「まいど。大体十五分ぐらいで出来るから、ちっと待っとって。これからも贔屓に頼むで~」
おっちゃんはそう言って、店の奥へと消えて聞く。僕はその間に、店の中をみて回る。いかにも怪しそうな置物に、誰が興味あるのかわからない機械。店の中にある物はどれもゴミに見えた。
しかし、本棚にあった一冊の古本にだけは興味が沸いた。背表紙には「死人を生き返らす! 奇跡の力」と書かれている。
――さっき言ってた、私を生き返らせるってやつ、出来ると思う――
思い出されるのは千秋の言葉。本当に彼女は生き返るのだろうか。
僕はその古本に向かって、手を伸ばした。
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