私、待ってるから

「そっか、私の生き返りか、考えたこと無かったなあ」


 僕はこれからどうしたらいいだろうか。明日も同じ時間に教室に来れば、千秋と会えるだろうか? それとも今だけは神様がくれた僕へのプレゼントなのだろうか?


「明日も同じ時間に来たら、また会える?」

「うーん、どうだろうね。そもそも、こんな時間に人来たことないし」


 真っ当な指摘だった。教室にある時計の短針は8を刺そうとしている。

「じゃあ、明日も僕はここに来るよ」

「うん、わかった。私もしゃべり相手が誰も居なくて、暇だったんだよね~」

 千秋は「はあ」と大きなため息を吐きながら、机に突っ伏した。


「そもそもの疑問なんだけど、千秋は昼、どうしてるの?」

「私は、ずっとここに居るよ。ただ、昼間は誰にも認知されてないみたい。多分だけど何か条件みたいなものがあるんじゃないかな。そう言えば、私昼間もいるから、毎日陽介が花瓶の水換えてくれてることも知ってるよ。ありがとね」


 千秋は腕の上に顔を置き、顔だけこちらに向けている。僕は水の交換を見られていたことが恥ずかしくて、千秋から視線を外した。


「いいよ、別に。自己満でやってるだけだし」


 階段を誰かが上ってくる音がした。巡回の先生が見に来たのかもしれない。

「陽介、誰か来たみたいだよ。そろそろ、帰った方がいいかもね」

「え、ああ、うん、じゃあ、帰るね」


 僕は自分のバッグと忘れていた定期券を持って、教室のドアを開けた。千秋と離れたくないという恋心より、千秋の事を他人に知られたくないという独占欲を取った。僕は卑怯だ。


「あのさ!」

 後ろから千秋の声がした。僕はふと我に返って、驚きながら振り向く。

 千秋は姿勢を正し、真剣なまなざしを僕に送りながら、言った。


「さっき言ってた、私を生き返らせるってやつ、出来ると思う」


「本当に⁉ 方法は?」

「それは明日ね。ちゃんとここにきて、私、待ってるから」


 千秋は大きな瞳に雫をいっぱい貯めながら、僕に手を振った。


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