最終話 最高のささやき

「どうしても聞いてほしい話って何かな?」


「えっとね、あのね……。蒼野あおの君は私のこと、どう思ってるのかなー? なんて……」


 対面している咲宮さきみやさんは少し下を向きつつも、時々チラッと俺の顔色をうかがっているように見えた。


「いきなりだね。えっと、明るくて話をしてると楽しいなって思ってるよ」


「そ、そうなんだ……」


 なんとか冷静に答えられたけど、正直かなり焦っている。まさかそんなことを聞かれるなんて。

 いくら俺でもこう思ってしまう。それじゃまるで俺のことを……。


「あ、あのね! 聞いてほしいことっていうのは、まだあってね」


(これはまさか本当に……?)


 それはとても低い可能性。だけどもしも、もしも告白されたとして、それを受け入れるとどうなるだろう。付き合う? つまりそれは今以上に一緒にいる時間が増えるということ。


 本来なら歓喜すべきことだ。でも俺に上手くできるのか? 学校にいる時間以外でも咲宮さんに喜んでもらえるのか? それにもし嫌われてしまったら……?


 そうなるくらいなら、今の関係のほうがよっぽどいい。


 ラブコメのこと、学校のこと、相手のこと。それらを放課後に少しだけ話す。それだけで夢みたいに満足なことなんだ。


「あぁそうだ! 昨日のアニメ見た?」


 いつもみたいに他愛もない話をしようと、ついそんなことを口走った。


 だけど答えは返って来ず、咲宮さんが静かに立ち上がり、その唇が耳元に迫る。もう何度目か分からない、咲宮さんからのASMR。

 いったい今度はどんなセリフをささやいてくれるんだろう。今はただその時を待つ。そして……


「あなたが好きです」


 思わず言葉を失った。こんなにもシンプルで嬉しい言葉があるなんて……!


 ラブコメのメインヒロインが同じクラスにいる。だけど俺は「モブだから」と遠くから眺めることしかできない。

 それに咲宮さんが俺のことをどう思ってるかなんて分からない。


 そして「きっと彼氏がいる」・「イケメンじゃないと釣り合わない」・「俺のことなんて意識すらしてない」と、自分で決めつけてしまっていたんだ。そしてそれでいいんだ、と。

 チャンスはいつもすぐそばにあったのに。いったい俺は何を恐れていたんだろう。


「これでどうかな? 聞こえてないなんてこと、ないよね?」


「うん、聞こえてるよ」


「よかった」


 ここで咲宮さんが耳元から離れ、元の場所に戻った。だけど座ってこっちを見つめたまま何も話そうとしない。……そうか、咲宮さんは待っているんだ。


「ねぇ咲宮さん」


「何かな?」


「ちょっとそこに座っててくれる?」


「うん!」


 笑顔を見届けた俺は咲宮さんに近づいた。そして同じく耳元でこうささやく。


「俺も咲宮さんが好きです」


「嬉しい……!」


 そしてそっと離れ、再び向かい合う。


「咲宮さん、泣いてる……?」


「だ、だって本当に嬉しくて……。もし断られたらどうしようって……思ったの」


「断るわけないよ」


「でもっ……! 蒼野君が私のことをどう思ってるかなんて分かんないし、告白だって何日も考えてすごく勇気を出したの」


 そうか……! 俺がそうだったように咲宮さんだって、俺が咲宮さんのことをどう思ってるか分からなくて不安だったんだ。


 そこでも俺は決めつけていたのか。「俺のことを見てるわけない」って。


「そうだったんだ、ありがとう。俺がハッキリしなかったから咲宮さんにずっと不安な思いをさせていたんだね。ごめん」


「ううん、蒼野君は何も悪くないよ」



 それから咲宮さんが落ち着いたところで、改めて話をすることに。


「咲宮さん、聞いてもいい?」


「何かなー?」


「どうして俺がラブコメ好きだって知ってたの?」


「それはね、蒼野君が休み時間やお昼休みに友達と楽しそうに話してるのを見てたからだよ」


「アニメのことなんかをただ話してただけだよ。……あ、そうか、ラブコメだ」


「うん! その話をしてる時の蒼野君は声が大きくて、とっても楽しそうで普段のイメージと違ってたから、一度お話ししたいなって思ってたの」


「実は咲宮さんもラブコメ好きだしね!」


「うぅ……! だっていつも一緒にいる友達はみんなマンガやアニメとか見ないから、話す勇気がなかったの」


「だから一緒にロッカーに入った時ラブコメみたいって言ったのか。俺なら分かってくれると思ったんだね」


「えっと、あれはつい興奮しちゃって……」


「おぉぅ……」


「だって嬉しかったんだもん……! でもっ! ちゃんと話してみるつもりだったのはホントだよ。好きなものの話を周りに流されずに真っ直ぐにできる人っていうのは、私にとってはすごく魅力的なの。それにお話するようになって知らない一面が見えたりして、優しいなって感じて、気がつけば蒼野君のことを考える時間が増えていたんだよ」


「そうだったんだ、ありがとう。もう一つ聞いてもいい?」


「うん!」


「どうして告白がささやきだったの?」


「だってラブコメみたいに一番大事なところだけ聞き逃すとか、困るもんね。でもああすれば聞こえなかったなんて言えないよね? ラブコメあるあるだよ」


「そんなことラブコメでしか起こらないよ」


「ホントにー? なんだか話を逸らそうとしてるように見えたけどなぁー?」


「いやだってまさか咲宮さんが俺のこと好きだなんて思わないからさ」


「えぇー、あんなにアピールしてたのにー! それじゃダメだよ? 鈍感主人公くん」


「返す言葉もございません」


「フフッ、ねぇ蒼野君」


「何かな?」


「楽しいねっ!」


「うん、すごく楽しい!」


 そして俺達は恋人同士になった。モブとメインヒロインが付き合う。これこそ最高のラブコメ展開じゃないか。


「あのね、早速なんだけど次のお休み空いてる?」


「うん、空いてるよ」


「それじゃあさ、私の家に来る?」


「えぇっ!?」


「あっ……! ち、違うよ! 一緒にアニメを観たいなって思ったの」


「いいね! どんなアニメを観るの?」


「そんなの決まってるよー」


 それだけ言うと咲宮さんは弾む声でこう答えた。


「ラブコメだよっ!」



【了】

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ラブコメのメインヒロインみたいな美少女が同じクラスにいるけど、なぜか二人きりになろうとしてくる。 猫野 ジム @nekonojimu

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