第1話 現人星の一日

東京都郊外にある、ごく普通の中規模アパート。その一棟をまるごと借り切って暮らしているのが、惑星や恒星の分身──現人星たちである。


朝。まだ日が昇りきらない時間、アパートの一室から豪快な声が響いた。


「起きろー! もう朝だぞ!」


声の主は太陽。褐色の肌にオレンジのロングヘアー、200センチの高身長。太陽系組の総括であり、みんなのお母さんポジション。彼女の声に、アパートのあちこちで小さな騒ぎが起きる。


「ママ〜! おはよー!」

最初に飛び出してきたのは水星。白い肌に銀色の髪、水色の瞳を輝かせながら、太陽に抱きつく。まだ幼い知能しか持たない彼女は、今日も太陽にべったりである。


「……まだ寝かせてよ〜」

布団から顔だけ出しているのは金星。金髪ショートに金色の瞳、ギャル風の服装で、完全に人間の女子高生にしか見えない。だが怠け癖が強く、朝はとにかく弱い。


「ほら金星、起きて!」

地球が布団を引っ張る。青と緑のポニーテールを揺らしながら、常識人らしく声を張り上げる。

「ほら、朝ごはんだよ!」

「え〜、あと5分……」

「ダメ!」

結局、地球に強引に引っ張り出され、金星は渋々リビングへ。


一方、火星はすでに外に出ていた。庭先で何やら準備をしている。

「よし、今日も焚き火だ!」

「おい火星! 朝からやめろ!」

太陽が慌てて止めに入る。そこへ大家が顔を出し、「火気厳禁だって言ってるだろ!」と怒鳴る。火星は「すみません!」と頭を下げるが、全く懲りていない。


木星と土星はのんびりと朝の支度をしていた。木星は色とりどりの髪を揺らしながら笑顔で「まあまあ、今日もいい天気だね」と呟き、土星は輪っかを光らせながら「タイタン、起きてるか?」と衛星を気遣っている。二人はいつも通り、穏やかな朝を過ごしていた。


天王星と海王星はというと…

「この後、河川敷行こう?」

「…うん」

海王星が陽気に誘い、天王星は静かに返事をする。二人は外縁組らしく、朝から川へ遊びに行くのが日課だ。朝食後、河川敷に行く約束をした。


こうして、全員がなんとかリビングに集まり、朝食の時間となった。テーブルにはパンとサラダ、簡単な朝ごはんが並ぶ。

「いただきまーす!」

水星が元気よく声を上げ、全員が食べ始める。

ふと見ると、太陽がしれっとパンを四枚も平らげていた。

「おい太陽! 食べすぎ!」

そう地球がツッコむと、太陽は

「え、普通だろ?」

と返事をする。

「普通じゃない!」

火星などは笑っているが、その食事量に少し引いている衛星達。


朝食後、それぞれの時間が始まる。

水星は太陽にべったりとくっつき、積み木を持って「ママ、遊ぼ!」とせがむ。

金星は地球を誘ってゲーム機を起動。「朝からスマブラやろ!」と盛り上がる。地球は呆れながらも付き合う。

火星は再び庭に出て焚き火を始めようとするが、またしても大家に止められる。

木星と土星は部屋に戻り、衛星たちと団欒。木星は「イオ、元気だなぁ」と笑い、土星は「タイタン、お前歯磨きはやったか?」と声をかける。

天王星と海王星は河川敷で川遊び。海王星が水を跳ね上げ、天王星は静かに微笑む。二人だけの穏やかな時間が流れている様だ。


昼になると、全員がアパートに戻ってきた。昼食は味噌ラーメン。

「いただきます!」

ずるずると麺をすする音が響く。

ふと見ると、太陽が大盛りを二杯も平らげていた。

「おい太陽! また食べすぎでしょ!」

そう地球がツッコミを入れると、

「え、これくらい普通だろ?」

と平然と返す太陽。

「普通じゃない!」

再びツッコミが飛び、またしても引いている衛星達。


昼食後、水星は金星と地球に誘われて積み木遊び。

火星は「昼間から花火だ!」と打ち上げ花火を準備するが、大家に全力で止められる。

木星と土星は衛星たちを連れて散歩へ。のんびりとした時間を楽しむ。

天王星と海王星は部屋に戻り、仲良くお昼寝。静かな寝息が聞こえる。


そうして夕方。夕食は日本食。炊き立ての米、焼き魚、野菜、味噌汁が並ぶ。

「いただきます!」

全員が箸を動かす中、太陽は魚を三匹も平らげていた。

「太陽! 食べすぎだよ!」

また地球が指摘する。

「え、普通だろ?」

「普通じゃない!」

 三度目のツッコミに、流石に火星も失笑している。衛星達は相変わらず引いている。


食後、それぞれの時間。

太陽は水星の遊び相手になり、積み木を一緒に積む。

金星と地球は再びゲームに熱中。

火星は庭で焚き火を始め、大家に叱られ、太陽が頭を下げる羽目になる。

その隙に水星が姿を消し、慌てて探すと、天王星の部屋でくつろいでいた。

「ここ、落ち着く〜」

水星がごろりと寝転がり、天王星は「…そう」とだけ答える。隣では海王星が「ねぇ、明日はどこ行こうか」と楽しそうに話しかけていた。

木星と土星は衛星たちとテレビを見ながら団欒。笑い声が絶えない。


夜の22時。

「もう遅いから寝るぞ!」

太陽の声で、現人星たちはそれぞれの部屋に戻っていく。

こうして、にぎやかで騒がしい一日が終わった。


そしてまた、明日がやってくる。

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