第6話


「ごめんください。」


 おじさんが挨拶しているのは普通の家のおばさんだった。


「今年もお世話になります。

 このところ毎年巣食ってしまって。

 危ないのよね。」


「そうですね。

 奥さんは以前、刺されたことがあるんですよね。」


「そうなのよ、あの時は危なかったわ。

 医師からも次は死んでしまう危険があるって言われて、もう怖くて。」


「大丈夫ですよ、ちゃんと討伐しておきます。」


「よろしくお願いします。」



 僕たちは、その家の裏にある大きな木を見ていた。


「坊主、ここが奴らの住処、これが出入り口だ。まずはここを攻撃する。」


 おじさんは懐から棒を取り出し、煙を出した。

 その煙が巣穴に充満していく。


「ほら、構えろ。

 奴らが混乱して出てきたところを一気に吸い込め。」


 僕は夢中になって巣穴に掃除機の先端を当てた。

 みるみる吸い込まれている奴ら、キイロスズメバチだ!


「手を緩めるな、襲ってくるぞ!」


 おじさんは網を振って、空中を飛んでいる奴らを次々と捕獲していた。

 正確に奴らをとらえている。

 その技はもはや達人だった。


 やがて空中戦が落ち着くと、おじさんはのこぎりを取り出した。


「さて、女王様とのご対面だ。

 くれぐれも失礼のないようにな。」


 おじさんは木のうろを切り出し、穴を広げた。

 そこに現れたのは、整然とした居城だった。


 おじさんは白いゴム手袋を出して、慎重に根元から取り出して、ビニール袋へおさめた。

 その時、一回り大きな蜂が僕たちをめがけて飛んできた。


「よくも我が子らを……。」


 そう言っているようだった。

 おじさんは白い服の袖にしがみついた女王をそっとつまみ、試験管に入れた。


「女王様専用の特別室だ。

 こいつを捕まえれば、この勝負は終わりだ。

 坊主、よくやった。」



 おじさんはそう言うと、笑顔で握手を求めてきた。

 人のために危険を顧みず、戦っているんだな。

 この戦いを制したおじさんが最後に見せたこの笑顔、最高じゃないか!


「おい、次はオオスズメだ。

 あいつらは凶暴だぞ。

 気を引き締めてかかれよ。」


「はいっす。」


 僕の中にたぎる高揚感。

 ここは中世でもファンタジーでもない、僕らが住む世界。

 ここに勇者は、確かにいた。

 白い服は、勇者の証ってね。

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白いおじさん 竹笛パンダ @Masaki14

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