第12話 ロシアの空 2
『今は加盟国であろうと、救援をしている場合ではない!』
『しかし、それでは、何のための組織なのですか!? 我々は彼らを助けます!』
激しい口調で交わされる国家間の極秘通信。
これは、半世紀以上にわたる国際秩序の重みを背負った決断だった。
ロシアを中心とする集団安全保障条約機構(CSTO)加盟国。 その中心たるロシアが壊滅的な打撃を受けた今、加盟国は最後の決断を迫られていた。
アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン―― 彼らもまたノクティス第三帝国による無差別核攻撃の被害に苦しんでいた。それでもなお、戦場に残るロシアの生存者たちを見捨てることはできなかった。
ロシア極東・ヴィリュチンスク海軍基地
「地上部隊は時間を稼ぐだけでいい、無理はするな」
極寒の海風が吹き荒ぶ滑走路。
ウラジミール・ベアード少佐は、改修型ステルス戦闘機Su-57改のコックピットに乗り込みながら、地上部隊へ指示を飛ばした。
「ウラジミール・ベアード、Su-57改、発進する!」
エンジンの咆哮が基地全体に響き渡る。推力偏向ノズルが稼働し、戦闘機は一気に加速。冷たい空へと舞い上がった。
彼に続き、残存部隊の戦闘機も次々と飛び立っていく。
だが、その眼前には巨大な影――第三帝国の大型飛空戦艦ヴィマナが、威圧的に浮かんでいた。
ヴィマナの主力戦闘機群も次々と発艦を開始する。
「作戦は伝えた通りだ。幸運を祈るぞ、同志たち」
ベアードは僚機のパイロットたちへ、コックピット越しに敬礼を送る。
そして、編隊は四手に分かれた。
第一・第二小隊は、ヴィマナの護衛戦闘機との交戦・制圧。
第三小隊は、チャフ(電波撹乱弾)とフレアを散布、敵レーダーを妨害。
第四小隊は、ヴィマナの電磁妨害システムをかいくぐり、致命的な一撃を狙う作戦だ。
「無駄なあがきを……」
その様子をヴィマナの管制室から見下ろしていた男がいた。
ヘルマン・ゲーリング―― ノクティス第三帝国の高級将校であり、ヴィマナの指揮官。
彼は冷笑を浮かべながら報告を受ける。
「地上部隊、撤退完了しました」
電測員の報告に、ゲーリングは即座に命令を下した。
「よし、地上に集中砲火を浴びせろ」
次の瞬間、ヴィマナの下腹部に装備された多連装砲台が一斉に火を吹いた。
弾丸の雨が降り注ぎ、基地周辺の地形が爆炎と土煙に包まれる。
ロシアの残存勢力である地上部隊は、一斉に退避を開始した。急ごしらえながらも、綿密に設計された地下シェルターへと次々に逃げ込んでいく。
ヴィマナが地上砲撃に集中したことで、地上の戦闘は一時的に沈静化した。それこそが、ベアードたちの狙い――わずかでも時間を稼ぐことだった。
その光景を見下ろしながら、ベアードは不敵に笑う。
「貴様等は自ら戦場を狭めたんだ。首を差し出したな、ノクティス!!」
Su-57改のエンジンが唸りを上げる。彼は機体を大きく傾け、一気にヴィマナの脇腹へと突進した。
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