第3話 風のささやき

翌朝、目が覚めると窓の外に薄い霧がかかっていた。

空気はひんやりとして、桜の木の枝先に小さな露が光っている。

ぼくはしばらくその景色を眺めていた。

まるで世界が静かに息をしているみたいだ。


登校途中、友達の悠人と二人で歩いた。

「昨日の宿題、終わった?」

「うん、まあね」

悠人はにやりと笑った。

「でも、やっぱり数学の問題、意味あるのかなって思うんだよな」


その言葉に、ぼくは心が軽くなった。

他の人も同じように迷いながら努力しているのだと知ると、問いは孤独じゃなくなる。

ぼくの胸の中で、小さな風が吹いたような気がした。


教室に入ると、窓際の席に座った。

カーテンがそよぎ、風がわずかに教室の空気を揺らす。

ぼくは机にひじをつき、外の景色を見ながら思った。

「人生って、風のように流れていくのかな…?」

答えはまだ見えない。でも問いを持つことで、少しずつ道ができる気がした。


放課後、図書室で古いノートを開いた。

そこには以前の先輩が残した落書きがあった。

「人生は一瞬の風にすぎない。でも、その風をどう受け止めるかが大切」

ぼくはその言葉をそっとノートに写した。

まるで、自分の問いが誰かの問いとつながった瞬間のようだった。


家に帰ると、母が笑顔で迎えてくれた。

「今日も学校はどうだった?」

「うん…なんだか、少しだけわかった気がする」

ぼくは言葉にしてみることで、問いが少し軽くなったように感じた。


その夜、寝る前にもう一度窓の外を見る。

風はまだ静かに桜の枝を揺らしている。

ぼくは思った――問いは消えない。でも、その問いがぼくを少しずつ前に進ませる。

まだ見ぬ日々の中で、人生の答えを追い求め続けるのだと。

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