第4話 vs.魔物
魔物が出現するのはメイドカフェ……わかるのは、その、場所だけ。それがどのタイミングで現れるのかもわからないとなると、かなり厄介でもある。
︎︎だけどそれ以上のことは何もわからないまま、朝霞・伊月・眞城の三人は本部を後にした。
……
本部を出て少ししたところで、漸く伊月が口を開く。
「うわー……緊張した」
「俺もよ。じゃけど伊月くん、よぉあの本部長に『SFか何かですか?』なんて言えたよなぁ」
「いやぁ、だって……人が消えるなんてSF以外に思いつかんし……なぁ、眞城くんもそう思わん?」
それまで何か考え事をしていたような眞城は「ん?」と言いながら振り返る。
「ごめん、話聞いてなかった」
「ええよ。なぁ、眞城くんのお兄さんっていつもあんな感じなん?」
「んー……まぁ、あんな感じかな」
なんてことないように言う眞城は涼しい顔をしているが、なんとなくずっと考え事をしているようでもある。そんな眞城を放っておいて、朝霞と伊月は任務について話をしている。
「それにしても、低級の魔物が何らかの影響で神並みの力を得るなんて、怖いよなぁ」
「しかも、それで周りの空間や磁場を歪めとるなんて、意味わからんやん」
「それ、ゆがんだ空間に巻き込まれたらどうなるん?」
「うーん……もう二度と帰ってこれんなったりして。冥途だけに」
やいやい言いながら、眞城を含んだ三人は、刀袋に入れた太刀を携えたままどこかへ向かっている。
……どこへ?
「あれ、眞城くん。今もしかして僕らが向かいよるのって……」
「あぁ、メイドカフェだよ」
「でっ、」
「 「出たぁ!」 」
「……!?」
「出たぁ」と声がそろったのは、当然、伊月と朝霞である。その反応にややびっくりする眞城。
「めいどかふぇ、気になるとは思よったけど、まさかそこが任務の目的地になるとは」
「朝霞くん、その空間の歪み……ほんまに冥途へ繋がっとったらどうしよ」
「そん時はおむらいす食っとる場合じゃないな」
朝霞と伊月は大まじめでしゃべっているが、メイドカフェの認識がややずれているようでもある。そんな二人に眞城は「多分……行ったら君たち、びっくりすると思うよ」と言うも、その言葉は二人には今一つピンとこないらしい。
そうこうするうちに目的地のメイドカフェについてしまったのだ。
「ほら、ここだよ」
「……普通の建物と見た目は変わりなさそうじゃけど」
「僕も実際に入るのは初めてだからなんとなくのことしかわからないけど……メイドさんの恰好をした女の子がたくさんいるんだよ」
「め、冥途の恰好???」
「死装束か???」
同時にそんな素っ頓狂な受け答えをする朝霞と伊月を見ながら、やれやれと言わんばかりに「その冥途じゃなくて……」と言いながら眞城はメイドカフェの扉を開ける。
そんなちぐはぐな三人を迎え入れてくれたのは、膝下丈の黒いクラシックワンピースに、フリフリが沢山ついた白エプロンを身に着け、頭にこれまたたっぷりフリルのホワイトブリムを装着した、大変美人な女の子だった。年の頃は高校生程か、眞城や伊月よりも背が高い。
「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
そのような愛らしい出迎えに三人は一瞬固まり……朝霞と伊月はお互いに顔を見合わせて口をぱくぱくとさせている。
「どうされました? さぁ、お席の準備はできておりますよ♡ 三名様、ご帰宅で~す♡」
朝霞と伊月はやや顔面を紅潮させ、眞城はいつもの如く飄々とした様子でついていく。が、その時……眞城は、先ほどの不穏な蠢きに近い……誰かに見られているような視線を感じてはっとする。
彼は素早く店内に目配せするが、特に変わったものは見当たらない。……いや、でも確かに何か、いる。
歩みを落とした眞城の静かな……だけどただならぬその様子に気が付いたメイドさんは、眞城の耳元で声を落としてそっと囁く。
「ご主人様、随分と可愛らしくていらっしゃいますね♡ ……最近変わった事象が起きているので、何卒……お気を付け下さい」
「……!」
そのささやきに眞城は目を見開き彼女を見るも、彼女は何事もなかったかのようににこにことした笑顔で眞城を見るだけである。
三人が可愛らしくリボンなどで装飾された席に案内されると、どこか夢見心地な朝霞と伊月に、眞城は声を落として呼びかける。
「ちょっと……しっかりしてよ。今、何も感じなかった?」
「いや、何か感じなかったって……あの、その……すんごい美人じゃなぁとしか」
「……そうじゃなくて。さっき案内してくれたメイドさんもそうだけど、何かさっきの駅の構内でも感じたような、不穏な蠢きみたいな気配だよ」
「 「……!」 」
眞城の言葉に二人は我に返る。
そうだった……今回はその任務でここ、メイドカフェにきているのだ。
「メニューをお持ちしました♡ ごゆっくりどうぞ♡」
そう言ってメイドさんが眞城にメニューを手渡そうとした……その時。
伊月は怪しげな視線が此方を向いているのを見逃さない。
「っ、眞城くんっ、危ないっ!!」
「!?」
「きゃあっ!!」
伊月の声に合わせて黒い影のようなものが眞城を襲う。……が、それよりも早く、伊月が眞城の肩を掴んでぐっと自分の方に引き寄せ、寸でのところでその影を避けた。
伊月たちのいたテーブルはガシャン!と派手な音を立てて倒れ、辺りは騒然となる。
「っ、なんだあれ!?」
「今黒い影が見えなかったか……!?」
「最近噂になっている神隠しの正体か……!?」
「わああああっ、逃げろおぉっ!!」
客たちは我先に逃げ出そうとするその時……「しくじりましたわね」と、先のメイドがにこにことしながらも、やや顔を歪めて呟いたのを伊月は耳にする。
「伊月くんっ、今の影がもしかしたら人が消える原因かも……っ!」
「眞城くん……っ、ほぉかもな、テーブルに飾られとったリボンが消えとる」
「……! やっぱり」
伊月と眞城はその短いやりとりの後、持ってきていた刀袋からそれぞれ太刀を取り出す。……だが、肝心の魔物は見当たらない。
朝霞もそれに続き「なんなんじゃぁ、ここはぁっ!」と言いながら太刀を手にし、臨戦態勢をとる。
周りの客がばたばたと一斉に出口へ向かおうとする中、三人は太刀を佩刀し、鯉口を切るような姿勢で先の視線の元を探る。
「あっちじゃ!」
黒い影からの視線を見抜いた伊月のその言葉に、朝霞が続く。
眞城の背後にいた先のメイドは動き出そうとする眞城を取り抑えようと、音もなく眞城の腕に手を伸ばす。……が、その動きに気づいた眞城はすかさずそのメイドの手をパシっと払い、尚も捕らえようとする彼女の手を逆手にとって彼女を押し倒す。同時に、「きゃっ!」と短く叫んだメイドを組み伏せ、眞城は問う。
「……なんのつもりなんですか」
「っ、ふふっ、思いの外力が強いのね……やっぱりメイド服はかわいい子が着なくっちゃ」
「……!?」
「人形みたいに愛らしくて、きめ細やかな白い肌。あなた、きっとメイド服が似合うわよ……♡」
「……っ、何を言って……」
「うっ、わああああっ!!!」
叫ぶ声の主は……伊月。眞城がそちらに目を遣れば、それは今にも黒い影に飲み込まれる伊月の姿だった。
「伊月くんっ!!」
伊月のすぐ後ろを駆けて行った朝霞が伊月の腕を捕らえるも、その黒い影は朝霞までをも飲み込んでゆく。
「っ、……くっそぉおおおおっ!!!」
伊月は既に太刀を手放し、朝霞の太刀もその黒い影には意味を為さない。
「ほら、貴方も早く行かないと、あの二人……あちらの世界に飲み込まれてしまうわよ……あなたが行かないとあの子たち……二度と帰ってこられないかも……♡」
「……っ!」
︎︎組み伏せられたはずのメイドは、なおも余裕の笑みをたたえたまま眞城を見上げる。眞城は彼女の言うことがややわからないまま……彼女を抑えるよりも、伊月と朝霞の元へと向かう。……が、間に合うか微妙なところでもある。
黒い影はみるみる小さくなり、伊月の姿は既に見えず、朝霞も体の半分以上が呑み込まれていた。
「眞城ォっ、来ちゃいけんっ!」
「……っ、君たち二人だけでどうするんだよっ」
「……っだと」
この期に及んでも喧嘩腰になるのは朝霞と眞城らしくもあるが、今はそんな場合ではない。朝霞が見えなくなった直後、小さくなりつつある影に眞城も太刀を手にしたまま走り込んでいく。
「ふふふ……っ、可愛らしい子が三名、そちらに向かいましたわよ……浅間様……♡」
メイドがそうつぶやいた言葉を、誰一人として聞く者はいない。
伊月・朝霞・眞城を飲み込んだ真っ黒い影は、この時既に、消えてしまっていたのだ。
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