ガールズバンド「anymore」

@11ko-ki

プロローグ 出会い



 四月の校門前は、まだ新入生たちの熱気でざわめいていた。

 軽音部のビラを片手に立ち尽くしていた少女――美羽は、胸の奥でひとつの決意を固めていた。


(今度こそ、バンドをやる。誰に何を言われても)


 中学時代、バンドを組もうと誘った友達に「夢みたいなこと言ってないで現実見なよ」と笑われたことがあった。その言葉は美羽の心に深く刺さり、ギターを握るたびに頭をよぎった。

 だからこそ、今度はすべてを否定するところから始めると決めた。


 放課後、部活動説明会の軽音部のステージを見た。轟音と歌声に包まれた瞬間、心が震えた。

(私も、ここで音を鳴らしたい)


 その日の夕方、軽音部の部室で出会ったのが――


 ドラムスティックを握る紗菜。

 人前で歌うのは苦手だけれど歌が大好きな結衣。

 そして「やってみたい」と軽い気持ちでベースを選んだ莉子。


 美羽は迷わず口にした。

「バンドをやろう。名前は――anymore」


「え? なんで?」

「“これ以上はない”“もうたくさん”。全部否定するって意味。大人の期待とか、誰かの決めつけとか。私たちは全部壊して、自分たちの音を作るんだ」


 一瞬の沈黙のあと、紗菜がふっと笑った。

「……悪くないね」

 莉子が「カッコいい!」と声を上げ、結衣も小さく「歌うしかないね」と呟いた。


 こうして、四人の女子高生バンド anymore が誕生した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る