私と星々

煮干しの悩み

第1話 私

「君は何故、普通の事が出来ない。さっき、君に指示したばかりじゃないか。それに、また端末を失くしただと?これで始末書八枚目だぞ。毎回同じようなミスしあがって。だらしない」

私は今、上司に怒られている。

何故なら、シンプルなミスを頻繁にくり返しているからだ。

何度、治そうとしても、意識しても、同じミスを繰り返してしまう。

今回で何度目だろうか。

私は頭を深々と下げた。

何度謝罪しても治らないならその場しのぎ。

そんな事は十分に承知している。

上司の怒った顔も見慣れてきた頃に、上司からの最後通告を受けた。

「これ以上のミスは許さん。もう失くすなよ。お前が失す度に店の経費で前回買ってんだからな」

「すみませんでした」

いつから謝罪の言葉が口癖の様にすんなり出てくる様になったのか。

そんな事を思いながら時計を見ると退勤時間の二十時になっていた。

私はそそくさと店を出る準備して、退勤ボタンのある休憩室へ向かう。

休憩室の扉に手をかけた時、中から同僚達の話し声が微かに聞こえてきた。

「また、飯島さん端末失くしたの?やばくない?」

「それな、今回で八個目だって」

「マジ?倉庫の整理も出来ないし、失くし物は多いし、指示された事も出来ないし。あの人は何なら出来るの?」

私はドアノブを強く握りしめた。

部屋の中からを聞こえた話は傷心した私にとどめを刺すには十分すぎる威力があった。

全て本当の話しだからだ。

幼い頃から、物忘れや遅刻、提出物の遅延が普通の人よりも大分多かった私は、よく先生から怒られていた。

高校の卒業式で担任の先生から言われた最後の言葉。

「これからは、あなたを守る人が少なくなる。成績も単位も自分の力で取りに行かないといけない。その事を心に留めておきなさい」

あれから二十年以上経った今でも鮮明に思い出す。

結局、私は大学の単位を取れず、卒業出来なかった。

何故、今、昔の事を思い出しているのだろう。

私は退勤ボタンを押さずに逃げる様にお店を出た。

今日も最悪な一日だった。

三十代半ばの女が涙を流しながら外を歩く訳には行かない。

恥ずかしい。

私は必死に堪え、下を向いて早歩きをした。

どのくらい歩いただろうか。

下を向いて歩いていたからどこへ向かって歩いていたのか私にも分からない。

気がつくと星川と書かれた川の欄干の前にいた。

何故、私は知らない川にきたのだろうか。

私はその欄干の前で立ちてくした。

ここはどこなのだろうか。

しばらくして、この上況を飲み込めていない私は、不思議に思いながら暗闇に目を凝らし周りを見渡す。

すると、標識の横に下へ降りる階段があるのに気づいた。

私はなんとなく、その階段を降りてみる事にした。


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