リサ先輩!秘密の合図…です……

 放課後、私と先輩は一緒に駅前のショッピングビルの中に来ていた。

 普通に歩いてるだけなのに、すでに心臓が忙しい。

 だって隣には、私の憧れの……いや、とっても好きな人。

 しかも、その好きな人と、手をつないでる。


 ……これだけで容量オーバーなのに、行き先が下着屋さんって、どういう試練?


「ルリちゃん、緊張してる?」

 先輩はケロッとして私の顔を覗き込んでくる。

 やめて! ドキドキが顔に出るから!


「べ、べつに……!」

 声が裏返る。ああもう、これでバレバレ。


「かわいいなぁ」

 笑いながら、ぎゅっと手を握ってきて。

 ――ダメだ、駅ビルの床に吸い込まれたい。


 店の前に着くと、ガラス越しに見えるマネキンたちが、色んな下着を着て並んでる。

 見ただけで目がチカチカする。

 中には、布の面積、狭すぎません?ってのもある。

 いやもうこれ、布で作られた、わな。……挑発の域。

 こんなの着たら私、秒で昇天即死コース、確定なんですけど!?


 私は思わず足を止めてしまった。


「やっぱやめ――」

「ほら行こ」


 手を引かれる。けど、必死で足を踏ん張った。


「ま、待ってください! ここ、絶対ムリです!!」

 声が裏返る。通行人に二度見されてる気がする。

 ……やだもう、この場で蒸発して水蒸気になりたい。


「なんで? ただのお店じゃん」

「ただのお店って……っ、あんなの、展示されてるのからして無理です!!」

 私がガラスの向こうのマネキンを指差すと、先輩はケロッと笑った。


「ふーん。でもさ、ルリちゃん」

「な、なんですか……」


「アタシにしか見せないんだから、別にいいんじゃない?」


 ……ぐはっ。

 ちょ、ちょっと待ってください。

 なにその一言。

 ここ駅前の人通りバリバリある場所ですよ!?

 そんな爆弾、街中で投げないでほしい!


「そ、それが一番、恥ずかしいんですーっ!!」

 顔から火が出そうになりながら全力で否定する。

 リサ先輩はにやにや。余裕の笑み。


「どうして? アタシはルリちゃんのかわいい姿、もっとみたいのに」

「で、でも、それは下着姿……じゃなくても……」


 ここでリサ先輩の表情は、すっと、悲しそうなものに変わる。


「ふぅん。……じゃあ、さっきの“大好き”ってやつ、やっぱりウソだったの?」

「――っ!」

 それ持ち出す!? 今ここで!?


「ウソじゃ、ないです!!」

 即答。反射。

 そりゃそうだ、あれは本気で言ったんだから。


 すると、リサ先輩は、私にぐっと近づいてきて、ささやいた。


「じゃあ、もう一回言って?」

「な、なにを?」


「ダ・イ・ス・キ、って」

「む、無理です!! こんな街中で!!」

 周りには普通に人が行き交ってる。視線が痛い。

 ここで告白なんて声に出したら、恥ずかしすぎて消える!


「んー。じゃあさ」

 先輩が私の手をひらひらさせながら言った。


「じゃあ、秘密の合図つくろ?二人だけの」

「ひ、秘密の? な、なんですか、それ……」


「例えばさ……ルリちゃんの指で、私の手にトントントントンって、四回して?」

「……は?」


 何それ。意味不明すぎて固まる私。

 先輩は楽しそうに続けた。


「これからはね、アタシの手を四回、指でつついたら……“大好き”って意味にしよ?」


 ぐはぁああ。

 なにその甘々秘密ルール。

 え、え、そんなの恥ずかしすぎて、ムリに決まってる……!

 心臓が撃ち抜かれて、もう立ち直れない……。


「で、でもそんなの……」

「嫌なの?」


「い、嫌とかじゃなくて!」

「じゃあ、やって?」

 にやり。完全に詰ませにきてる顔。


「~~~~っ!!!」

 私はもう限界。

 顔が真っ赤になってるのが自分でもわかる。

 でも、先輩がじっと待っている……。

 仕方なく、リサ先輩の手を握り、震える指先で。


 トン。トン。トン。トン。


 四回。


 ――あああああ!やっちゃったあああ!!

 頭の中で自爆警報が鳴り響く。


「ふふっ」

 先輩は満足そうに笑って、私の手をぎゅっと握り返してきた。

「やっぱルリちゃんってかわいい」


「~~~~っ!!!」

 叫びたいのを必死でこらえる。

 でももう体温が爆発してる。

 床に倒れ込んでバタバタしたい。


 その間に。

 リサ先輩は、ほんとにさりげなく。

 私の混乱をいいことに、そのまま私の手を引いて、お店の自動ドアの中へ。


 気づいたときには。

 ――もう、店内にいた。



 ……恋ってやつは、気を抜いたらマジでとんでもないことになるもの、らしい。

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