第一幕

「帽子、鞄、相方獏、相方眠り猫。スゥインスは、大丈夫なの」

「帳面、筆記用具、大丈夫だよ。シルディアちゃん」

『ふにゃ』

子ども達は、猫耳多重空間鞄を背負い、外套の猫耳頭巾に代えて、猫耳帽子を被る。

「スゥインス、シルディア。何処かに出かけるの」

『学校』

「ん。王侯関係者だと、協会学校には、行かないのよ。スゥインスは、代輔総司協長で。シルディアは、協皇でしょう。貴女達が生徒では、教師担当の協会職員等が、困るわよ」

『んん。学校、行けないの』

『ふにゃあ』

「普通は、そうよ」

「シルンサスは、女帝で協皇なのなら。子どもである我々のために、制度を改めるべき」

「だめよ。考えても見なさい。王侯の子女を集めるなんて、毎日国家式典級の状態になって、警備が大変でしょう。生徒皆々が、龍、竜たる貴女達のように単純強固ではないのだから。それに加えて、教育にはどうしても、何かしら思想か絡んでくるのなら。多数の王侯が子女の思想に、多大な影響を与えるような教師等の存在は、許容できはしないのよ」

 白龍皇女スゥインス、白竜皇載子シルディアは、帝配黒龍アハトゥスと女帝黒竜シルンサスとの間に生まれし、双子姫の龍、竜である。立場上、親族等間であれ、名前で呼ぶ。

「ん。では。五箇国聚成帝国の女帝シルンサスが、教師役等をすれば、問題ないのでは」

「そう。だから、娘である貴女達は、私と一緒に行動して、学ぶの。生まれたのだから、現世等における記憶の残滓が、あるのでしょう。「眷属」等には、言語補正が備わるし。委任行政とはいえ。帝国は、郡県的家産職員制なのなら。制限世襲制の代官たる貴族家等に、帝室の力を示すことは、余り大切ではない。加えて、西北南東四箇国が王室は、五箇国正統たる央の国が帝王室の藩屏なのなら。有力な独立勢力は、存在できないのだから」

『白黒の二竜は、現世世界竜と同種の「眷属」であり。白黒の二龍は「眷属」として、それに準ずる。全てを外れ全てを支える現世世界竜が「眷属」には、龍人、龍、竜がおり。その臣下等として、精霊がいる。きれいな場所において、特殊な精霊である天使等に、人間が至ることがあると、されるように。辺獄・冥界において、人間は、最上級精霊と同質の力等を持つ、霊仝人に至ることがあり。現世世界竜の「眷属」等と、呼称されている』

「学ぶ」

「五箇国の枠組みは、一応、残っているとはいえ。この世界、辺獄・冥界には、帝国一つしか残っていないのなら。偏った考えから、皆が失敗してしまっては、困るでしょうね」

「ええ。ん。スゥインス。作戦会議に、行くわよ」

「作戦会議」

『ふにゃあ』

『それでは』

『ふにゃ』

「ええ。それでは」

(ん。シルンサスの相方で、経験豊富な相方獏リスイルガ、相方翼猫アルットゥが一緒なのなら。問題行動の類は、問題があると具申してくれるのだろうから、大丈夫なのかな)

姉シルディアは、妹スゥインス等を連れて、離宮内の自室へと向かう。

相方獏達三体は、半島獏様の白黒で、子どもが抱えられるくらいの歪形となっているけれども。本来の姿は、肩高四尺前後、頭胴長八尺三寸強に及ぶ巨体であり。より大きな翼猫達三体は、頭胴長一丈八寸前後、肩高五尺三寸前後に及ぶ。子ども達が生まれる前に、この世界に転移してきたリスイルガ、白恙アルットゥは、当初から歪形で生活していたのなら。子ども達に寄り添うための歪形というよりは、人形の相方「眷属」等に、寄り添うための歪形なのだろう。「眷属」等とはいえ。人形を取り、人間の子孫ではあり、人間の霊性を備え、人々と共にあり。人間の君主等としてあるようなことが、出来るのだから。


「ん。大きな問題は、警備面と、思想面となのかな」

「シルディアちゃん。どうにか出来るの」

『ふにゃ』

「警備面は、仮想現実等を用いれば、問題ないのかな。我々の側には、獏と眠り猫とが、居るのだからね。それに、就寝等に用いられる自室は、流石に、幾らか安全だろうから。没入型仮想現実が問題なのなら。人形遠隔操作端末の類を、用いることが出来るのかな」

「うん。仮想迷宮探索が出来るのなら。仮想学校通学が出来るよね」

妹白龍スゥインスが、相方半島獏はストフレンで、相方翼猫・眠り猫は白黒縞窮奇レユルフェ。姉白竜シルディアが、相方半島獏はリガレトプで、相方翼猫は黒恙プレヴァル。

「ええ。とはいえ、思想面での問題があるのなら。初等教育、前期中等教育、後期中等教育等が学習指導要領等における教育課程を満たすことが困難なのなら。私塾等なのかな」

「私塾」

『ふにゃ』

「教科書等は、帝国統一以前の外国人向けのものを、参照することで、読み書き算は、どうにかなりそうなのかな。流石に、編者等の著作権は、存続してはいないだろうからね」

「うん。百数十年以上、昔だからね。そんなに長生な方々は、親戚以外に、いないよね」

外国人向けの教科書等には、目的や対象、段階等に合わせて。思想教育向けの物と、国際問題、思想に配慮して、自然言語を幾分機械的に扱った物とが、あるのかもしれない。帝国は、婚姻政策による五箇国君主正統聚成により、平和的に統合されたのだけれども。

「ええ。スゥインス。見た目は老けていないのなら。年寄とか言っては、駄目だからね。我々も、現世等の分を足すと、何歳なのかわからないのだから。余り人格的ではない残滓だけれども。そして、仮想私塾通塾とはいえ。宣伝を兼ねて、塾舎等は、設置しようね」

「うん。でも、塾舎を何処に、設置するの」

「皇王室領がある。ん。とはいえ、港湾都市等には、利用予定のない空き地がないわね」

「ないよね。皇王室領は、重要拠点を押さえているのだって、シルンサスが言っていた」

「まあ。とはいえ。協会領。いや、央の国領は空き地だらけなのなら、大丈夫なのかな」

「うん。中央第一協会堂とか以外には、誰も来ないけれども」

「そうなのなら。司協館の庭や協皇宮殿の庭でも、足りるかもしれないと。まあ。意匠権の関係で、塾舎は、帝国統一期に多く設置された協会学校向けの校舎型に、するのかな」

「協会学校向けの校舎型」

「小協区協会の規模は、それぞれだから。どこでも小協区協会には、余裕大部屋の類がある訳ではなかったのなら。新規に校舎を設置するようなことが、あったようね。敷地は」

「森に飲み込まれそうなくらい、幾らでもある」

「そうね」

『ふにゃ』

「それでは。仲間を、増やしに行こう」

「恰好は、このまま行くの」

「ええ。その方が、説得力が増すのかもしれないのなら、このままで」

「先ずは、ルアンサスのところ」

「そうね。ストゥングとルアディアとを、仲間に引き入れることが出来れば。アハトゥスも、シルンサスも、障害とはならない筈なのだから」

『ふにゃ』

『ふにゃあ』

シルディア一行は、西の国離宮へと向かう。


『おはよう』

『ふにゃ』

『おはよう』

『ふにゃ』

「ルアンサス」

「スゥインス、シルディア。その恰好は」

二体とは異なり。ルアンサスは何時ものように、猫耳多重空間鞄に相方半島獏ラジャリガを入れて、相方翼猫窮奇リゲイルガを抱えている。自室から、出てきたばかりのよう。

『協会学校に行こうと思ったのだけれども。行けないようなの』

「そうなの」

『ん。そうなの。だから仲間を集めているから。ルアンサスも、一緒に来て』

「うん。わかった」

「あら。皆、どこかに行くのかしら」

「スゥインス、シルディアは、通学のような恰好だが。ルアンサス。恰好は良いのか」

『うん。ストゥング、ルアディア。通学ではないの』

「ああ。そうか。シルンサスらしい」

「そうね。皇王室は、学校に、行かないわね」

ストゥングは、ルアディア、アハトゥス、シルンサスの代表討伐騎士団における師匠であり。親兄弟姉妹のような関係である。また。遠縁でもあり、「眷属」は、現世等においても、そうであったのか。多生児が多くいて、遠縁とはいえ、幾らか近くも、あるよう。

スゥインスとルアンサスとは、互いに手を握り。シルディアは、ルアディアに抱き付いていた。「眷属」等は、この辺獄・冥界を離れ、この世界が龍の世界へと移る時に、子が生まれるようなことが多いことを、別としても。大切な祖父や叔母代わり、なのだろう。

『それでは』

『ふにゃ』

『では。気を付けて』

(ん。南の国離宮に行けば、フエイニス等だけではなくて、アッヒュルも、居るのかな)

「シルディアちゃん。次は、何処に行くの」

「そうね。南の国離宮よ」

シルディア一行は、南の国離宮へと向かう。


『おはよう』

『ふにゃ』

『おはよう』

「なんだ。お前たちも、アッヒュルと同じような恰好をしているのか」

『学校。一緒、黄色い猫耳帽子』

『ふにゃあ』

「で。協会学校には、行けないのだろう」

『だから、私塾を設置するの』

『ふにゃ』

『私塾』

『ふにゃあ』

『そのための作戦会議をするの』

『作戦会議』

『ふにゃあ』

「央の国領が空き地に、塾舎を設置するため、作戦会議をするの」

「央の国領か。あそこなら、空き地だらけだな。で、基本、四箇国臣民は、進入禁止だ」

「そう。とはいえ。仮想塾舎通塾なのなら。飾りのようなものだけれども」

『仮想塾舎通塾』

『ふにゃ』

「ん。まあ。没入型では、問題があるのなら。人形遠隔操作端末等を、用いるけれども」

「我々が居るのなら。魔王軍の類が干渉してきたところで、警備面では問題がないがな」

「とはいえ。略毎日一日中、「眷属」等が誰か居続けることは、難しいのだろうからね」

『うん。私達は、基本、一緒に行動するから』

『ふにゃ』

「それでも。何かを常駐させることは、好ましいのなら。鳥か兎で、中位以上の精霊を」

「ああ。物化因子の影響による混乱を、避けるためだな」

『無知万能な「眷属」が、人間としてから生まれ得る「眷属」等のために、この世界リュノンヨトスに、つくりし星アステルにおいて。「眷属」等以外の人間が生まれ、産まれるようになり、この世界は、辺獄・冥界となった。真空容量区切・境界設定、容量等、人間を受け入れるうえで、真空崩壊等を起こさないために、極めて基本的な環境設定は、現世世界竜の「眷属」として備えている全てを外れ全てを支えるための器・(特殊な)『何かではない』か何かの「ものことの成り行き」に沿って、好ましく成されているとはいえ』

『星の資源分布等、詳細環境設定は、単純強固さの代わりとしてなのか。緻密さを欠き。環境恒常性循環・自浄作用の類は、低位を中心とする数多精霊の存在、行動による。そのため精霊を脅かすことにより、間接的に人間の生存を脅かし。精霊と人間との不和を生じさせ、「眷属」への不信を増勢させる等の目的から。堕天使は、物化因子を拡散させた』

『中位以上の兎精霊』

「ええ。兎は、角兎や玉兎。鳥は、金烏なのかな」

「角兎、大丈夫」

「多重空間真空相転移絶対熱で、掠り傷一つ負わない龍が。硫黄、鉄鉤、加熱真鍮玉等で倒せる訳が、ないだろう。鬣蜥蜴、大蜥蜴、鰐の類か。牛を食べるのならば、鬣蜥蜴ではなく、大蜥蜴や鰐等か。そもそも。大蜥蜴や鰐の類を倒した返礼品として、黒角黄兎を送られたのだから。大蜥蜴や鰐の類には、勝てないのだろうよ。まあ。どんな獣にも、恐れられるということを考えると。単なる大蜥蜴や鰐の類ではないのか。角兎が、野放しになることを恐れたのか。角兎を統御できるのは、大蜥蜴や鰐の類を倒せる英傑の類なのか」

「まあ。角兎は、旧大陸南の国が何処に関係するのかわからないから。居場所が分かり易そうで、昼夜一組に出来る。金烏、玉兎にするのかな。この世界が陽は、白龍竜領なのなら。金烏は、問題ない。アハトゥスも、シルンサスも、玉兎ぐらいで、文句は言うまい」

『ふにゃ』

「とはいえ。どのような家塾等にするのか。もう少しは、考えなければいけないのかな。ん。まあ。王侯の基本は、軍役奉仕なのなら。討伐騎士等育成課程の類に、なるのかな」

「ええ。予算は付かないだろうから。運営等がための資金稼ぎになるのは、良いのかな」

「ああ。ん。予算は付かないのねえ」

「今までと、大して変わらないが。放課後の課外活動等を、中心に出来そうではあるな」

『ふにゃ』

「ん。教科書の類を工夫して。協会学校に馴染めない児童生徒の居場所となることが、出来るのなら。予算が付くことも、あるかもしれないけれども。未だ、無理だろうからね」

有爵者の内、帯剣・領主貴族の基本的な役目は、戦時の戦奉行であることから。年齢を考慮して、二十年、二代毎の制限世襲制度となっている。「眷属」等は、その力から人間の争いに、故郷や領地防衛を除いて参加することが出来ないけれども。独立勢力なき聚成帝国の仮想敵は、異世界から干渉して来る堕天使等(矮)魔王軍なのなら。問題がない。

預言ありし現世と異なり。辺獄・冥界において、皇帝権・協皇権のもとに服さない組織等は、存在を許されないのだけれども。それに加えて、「眷属」は司協であっても、協会学校とは幾らか性質の異なる教育施設等を、設置運営することが、叶うのかもしれない。

(預言なきこの世界、辺獄・冥界リュノンヨトスにおいては。記憶の残滓等から、教典は断片的に伝わるのみであり。協会は、単なる福祉団体の類に、過ぎないのだけれどもね)

「それでは、央の国離宮へ、向かおうか」

『ええ』

『ふにゃ』

シルディア一行は、シルンサスを訪ねに、央の国離宮へと向かう。

再従姉妹北の国王女水龍アッヒュルが、相方獏はシュトイプ、相方翼猫はレルトゥト。従姉妹南の国王女火龍フエイニスが、相方獏はトレプリス、相方翼猫はフォゴユル。獏達は、半島獏様の白黒で、レルトゥトは黒サン猊、フォゴユルは灰サン猊と、なっている。


『ただいま』

『おはようございます』

『ふにゃ』

『おはよう。おかえり』

「陽の金烏と交代制で、塾舎に居て、閉じた系の優位性・優先権を、確保して貰いたいから。月の玉兎、連れて行って良いのかな」

「ええ。私塾等を設置すると。ただし、玉兎が、来てくれるのならね」

「うん。そうだね」

(んん。まあ。シルンサスが応なのなら。基本的に、アハトゥスに否は、ないからなあ)

「とはいえ。塾舎ね。央の国には、嘗て、集落があったのなら。廃校校舎が、あるわよ」

『廃校校舎』

「百年以上前の廃校。お化けが、居るかもしれない」

「お、お、お化け。この世界は、辺獄・冥界なのなら。我々も、お化けのようなのなら」

『関係ないの。問題ないの』

「ああ。そうなのだろう。お化けとやらが、金烏、玉兎の代わりにでも、なるだろうよ」

「んん。お化けはね。お化けなのよ」

『ふにゃあ』

「仕方がないから。東の国に行って、応援を頼もう」

『始めから、呼べば良かったのに』

「ん。順番か何かが、関係あるのか」

「ええ。東の国と央の国との繋がりは、強すぎるからよ。結果的に、情報が伝わっても、問題がなさそうだったとはいえ。準備が上手くいったかどうかは、わからないのならね」

『そうだね』

(いきなり、玉兎を連れだすような相談になったとしてもね。大したことがないからか)

シルディア一行は、東の国離宮へと向かう


『おはよう』

『ふにゃ』

『おはよう』

『ふにゃ』

『ヴュリレンちゃん』

「「ちゃん」と呼ぶではない。子ども達」

「スゥインス、シルディアは、ヴュリレンが、大好きだね」

『うん』

木龍ヴュリレンは、賢者・魔術師として、聖騎士・武僧の兄木龍レンドロンと共に、聖女(女性勇者代替、聖者)・錬金術士シルンサス率いる旧勇者一党が、構成員(七人目)だった。ちなみに、アハトゥスは、剣聖・武僧である。そして、騎士レンドロンと東の国女王木龍アルヴェリとの娘が、木龍ヴェルレアであり。シルディアと仲が良い。

フエイニス、アッヒュ達の母等も、旧勇者一党構成員であり。旧勇者一党内で特に年少だったヴュリレンは、ルアディアと交代のように、シルディア達の子守を、担っていた。

(ん。ヴュリレンちゃんは、流石に、協会学校に通うような年齢では、ないのかな。とはいえ、現世等においては、おそらく、今ほどには、年齢が離れては、いなかったのかな)

「ヴェルレア。居るかもしれないお化け退治に、一緒に来て」

「ええ。そのように」

「お化け退治だと。子ども達よ。危ないことを、するではないぞ」

「まあ。お化けなど、いないのだろうから。大丈夫だ」

「うむ。そうかの。まあ。気を付けるのだぞ」

『ええ。それでは』

『ふにゃ』

「うむ。それではな」

シルディア一党は、再び、央の国離宮へと向かう。

スゥインス、シルディア等央の国帝室の遠縁、東の国王女木龍ヴェルレアが、相方半島獏はルライフリで、相方翼猫窮奇はストラユル。


「それで、お化けとやらは、何処に居るのかもしれないのかな」

『央の国が廃校校舎に、居るのかもしれないの』

「そう。閉じた系にある「眷属」等関係施設なのなら。明るさ調整は、問題ないとして。先に、陽の金烏を、連れ出すのかな」

「ええ。調査の方が、一度で終わらないかもしれないのなら。そのように、しようかな」

「ん。陽の金烏か。長年陽で野放しとはいえ。鬼・魔霊級なのなら。物化因子の影響を受けて混乱するようなことは、ないのだろうな」

「獏達は別として、翼猫達が居れば大丈夫じゃないかな」

「ん。とはいえ。好ましくはない夢・ことを喰らう獏達は、お化けの類に対して、有利なのかもしれないわよ。魂・精神体、思いというのは、どこかしら夢に近いのだろうから。仮に、多元空間共有・こころか何かが座との繋がりは、保たれていたとして、優位性・優先権確保における重要な補助を担う器を、欠くのだからね。リガレトプ、プレヴァルよ」

『ふにゃ』

「そんなに、恐いのか」

『お化けだからね』

(アハトゥスやシルンサスに、お化けの話を用い、躾けられた覚えはないのだけれども)

「陽の転移所は、登録されているのか」

「白竜たる私の認識票には、登録されているのなら。大丈夫」

『陽は暖かいのかな』

『いや、凄く熱いのかな。範囲境界を展開するように。器の調整より、気軽だろうから』「ん。まあ。とはいえ、放射線の類や重力に比べると。光環の温度、百万度とかは、凄いけれども。百数十里毎秒の速度を出さないと、陽の引力圏からは、抜け出せないからね」

『百万度、百数十里毎秒』

「物理攻撃が効かない「眷属」等にとっては、多重空間真空崩壊絶対熱であっても、暑いという情報が、伝わるだけでも。人間の感覚上限となると、多少不快なのかもしれない」

『そうなのかな』

『範囲境界は、人間が、安全に迷宮等探索を行えるように、全身等を覆い物理的外力により変形損傷しない防御がための境界であり。共有空間に瓦斯交換地点や代謝物処理地点を設置し。有毒物質等を遮断するために、長年掛けて、ものことの流入対流出対象、流入流出速度・量を、調整し。迷宮等探索において、長時間、位相的欠陥・空間環境設定の異なる閉じた系・異空間等で、複雑軟弱・繊細な人間が、活動するために設計された仮の器であり。抗力を含め調整し、推進力の出力を設定できる。とはいえ、討伐対象である擬似怪物等の耐久力や場の占有力・位置自由度相互制約、運動量等は、選手権競技・訓練という性質上設定されることから。身体内部の損傷防止は、可動範囲制限等によることになる』

「それでは。転位しようか」

『ええ』

『ふにゃ』

『「眷属」等は、複雑軟弱・繊細なものことに干渉する場合を除き、基本的に、共有空間に対しては、重なるようにしていることから。その場で、転移・転移を行ったとしても、空間占有状態の変化等に関する問題が生じない。加えて。感覚器官等により感知される情報の類は増加等されたことであり。本来の情報等は、変質せずにそのまま伝播している』

シルディア一行は、陽へと向かう。

『ん。範囲境界で、眩しくも、暑くもないね』

『ええ。そのようだね』

『ふにゃ』

「それで、金烏は、居ないのかな」

『こちらに』

『しゃ、しゃべった』

『ふにゃあ』

『獏達も、翼猫達も、人語を喋られるよ。翼猫に合わせて、獏の鳴き声が「ふにゃ」に、なっているように。そうでなければ、言語制約があっても。意思疎通が、困難なのかな』

『そうなの』

『ふにゃ』

『ん。「ふにゃ」が、可愛いからね』

『ええ。まあ。そうだね』

「金烏には、玉兎等との交代制で。旧協会学校廃校校舎等がある別空間の閉じた系において、昼間等の優位性・優先権の確保を、担わせたいのだけれども。どうなのかな。誰か」

「では。私が。一応、鳴き声の方は、「かぁー」等に、しましょうか」

「ええ」

『ん。そのように』

『ふにゃあ』

(ん。流石に、「ふにゃ」ではないのかな。ん。玉兎は、「ぴょん」等に、なるのかな)

「かぁー」

『金烏レイゾユネ』

『シルディアちゃんの相方金烏にするの』

「ん。相方金烏だと、塾舎がある閉じた系の優位性・優先権確保を、担わせられないわ。とはいえ、最後の霊性・人間の霊性を備え、精霊の君主でもある「眷属」の命令で、役目を課すのなら。他の人間が命令に拘束されることを、避けることは、可能になるのかな」

『ふにゃ』

『ふわふわ相方玉兎、可愛いのになあ』

「ふわふわ。かぁー」

金烏レイゾユネは、歪形となり、太ったようなのか、羽毛等が膨らんだのか。丸く、子どもにとって、一抱えの鳥形へと、仮の姿容を変化させる。

『可愛い。ふわふわ』

「次は、月の玉兎だね」

『月は寒いのかな』

『陽に当たるかどうかで。熱かったり、寒かったり。岩石で、陽と同じ大きさなのなら。重力が凄そうだけれども。大きさ同様、陽との兼ね合いで、調整等されてはいるのかな』

「では。転位しようか」

『ええ』

『ふにゃ』

シルディア一行は、月へと向かう。

『ん。今回も、範囲境界で、大丈夫』

『ええ。まあ。そうだね』

『ふにゃ』

「それで、玉兎は、居るのかな」

『こちらに』

『ん。今回は、喋っても、驚かない』

『ふにゃあ』

「玉兎等には、金烏との交代制で。旧協会学校廃校校舎等がある別空間の閉じた系において、夜間等の優位性・優先権の確保を、担わせたいのだけれども。どうなのかな。誰か。大丈夫。一応、父黒龍アハトゥス、母黒竜シルンサスの方には、話を通してあるからね」

「では。私が。それで、鳴き声の方は、「ぴょん」等にしましょうか」

『ええ。そのように』

『ふにゃあ』

「ぴょん」

『玉兎マルナレネ』

『可愛い、ふわふわ』

ルアンサスは、歪形を取ったマルナレネを、抱える。

「それでは。シルンサスに見せに、帰ろうか」

『ええ』

『ふにゃ』

シルディア一行は、央の国離宮へと向かう。


『ただいま』

『こんにちは』

『ふにゃ』

『おかえり』

「この仔が、玉兎マルナレネで。この仔は、金烏レイゾユネ」

「ぴょん」

「かぁー」

「ん。子ども達に、幾らか慣れているようね。話の方は、子ども達から聞いているのね」

「ぴょん」

「かぁー」

「そのようだね」

「ええ。そうなのなら。大丈夫そうね。廃校校舎を転移・転位先として、登録するわね」

「はい。こちらに」

「ええ。これで」

『それでは。行ってきます』

『ふにゃ』

『ええ。行ってらっしゃい』

シルディア一行は、央の国旧協会学校廃校へと向かう。


『到着。明るい』

「そうだね。獏達、眠り猫達、夢魔の類は、居ないのかな」

『ふにゃ』

「ん。そうなると。仮に、お化けが居るとして。お化けは、夢魔の類ではないのかな。夢魔くらいで済むのは、好ましいのか好ましくはないのか。どちらなのだろうか。加えて。転移所以外には、危険物等のある給湯室、視聴覚室、図書室・図書準備室、図画工作室・技術教室・技術科準備室、美術室・美術準備室、音楽室・音楽科準備室、家庭教室・家庭科準備室や理科教室・理科準備室の類を含め、内部において更なる閉じた系は、ないのかな。ん。転移所ね。侵入者撃退がための潜伏場所としては、好ましいのか。とはいえ、居住環境的に、常駐するようなところでは、ないのかな。まあ。入場等に配慮しなければ」

『ん。そう。お化け』

「この空間に、一応、昼夜の設定があるのかな。ん。マルナレネ、レイゾユネは、様子を見て。昼夜の長さ等が、均等になるように。擬似陽月が運行等、調整の方をするのかな」

「ぴょん」

「かぁー」

(ん。守衛待機所を設置することになるような時期以前の施設なのかな)

「ん。北と南とに、一か所ずつ待機場所を、設置するのかな」

『辺獄・冥界リュノンヨトスにおいては、重力や曲率等が調整された巨大岩石惑星が表面状の大陸を持つ星アステルを中心に。陽月が、北から昇り南に沈む。季節により、西中、東中し。白夜、極夜に、陽ソレイル、月リュンネ等が、星アステルから、一度に見える』

「ぴょん」

「かぁー」

(陽月に居ることが出来たのだから。特に設備は、大切ではないのかな。人形でないし。ん。一応、寝床や止まり木を、設置するのかな。兎、烏、地下や上空へ、行けるように。とはいえ。先ずは、お化けのことがあるのなら、一緒に、廃校校舎を探索しないとなあ)

「……。ん。ああ。後程、討伐者組合に討伐者として登録するための認識票を、発行するから。何か調達したいものがあれば、迷宮等探索で、報酬を得るようにね」

「ぴょん」

「かぁー」

『ふにゃ』

「獏は、回復能力持ちの木属性で、最上位層とはいえ、妖霊級だからね。鬼・魔霊級の金烏、玉兎とは、異なるのかな。とはいえ。没入型仮想迷宮等探索において、夢魔対策を担うのなら。皇・王霊級、龍霊級の翼猫達が報酬を参考に、報酬等の方を、算定しないと」

『ふにゃ』

こと寄りである精霊、龍人、龍、竜であっても、素材によっては擬似食物を、摂取することが可能であり。獏は、竹木、金属等を喰らわないけれども。翼猫同様、果物を好む。

「では。お化けとやらを見付けるために、探索に向かうとするか」

『お化け、居るの』

『ん。居るのではないのか。お化けとやら』

『ふにゃあ』

「ん。まあ。居るとは限らない。廃校校舎という廃墟における雰囲気の問題であってね」

『ん。「眷属」等が設置した公用物・建築物なのなら。老朽化することは、ないのだが』

「そうだね」

『「眷属」等が設置した公物・建築物は、基本的に、精霊の器と同等の単純強固さを持つ純雑質、精霊質製を基本に、それに準ずる妖精金属等で、構成されており。物理的に損なわれることは避けられている。「眷属」等でなければ、除去が困難な面はあるとはいえ』

『じゃあ。お化け、居ないのかな』

『さあ。それは。一応、古い施設ではあるのだから。中位以上が精霊の一体くらいはね』

「ぴょん」

「かぁー」

『お化け』

(施設だけでなく、基本的な設備・備品・教具も含めて、純雑質製だと好ましいのかな。複雑軟弱・繊細なものは、流石に運び出されていて。停止保管庫等の方に、移されたか)

『複雑軟弱・繊細なものことは、環境設定が非常に近く、僅かに異なり少し単純な側の位相的欠陥に対しては、変質・順化してしまうのだけれども。環境設定が異なり過ぎる場合には、内部環境・関係等を含めて、相互作用等が生じることがなくなり。保存等される』

「ん。協会学校等における施設、設備ねえ。屋内競技施設・体育館、時代とか、文明水準的に、屋根付きや、柱等の位置関係的に、あるのかな。まあ。「眷属」等由来の施設か」

『体育館がどうかしたの』

「内側に柱がないのに、あれ程大きな施設に、屋根があることが。文明水準的に、少し気になってね。まあ。円形闘技場の類にも、天幕等はあったようなのなら。どうなのかな」

「まあ。常設の学校校舎があるくらいだから。気にするな」

『ええ。そうなのだろうね』

(ん。中々、広い学校であり。校庭・運動場だけでなく、中庭まで、ありそうなのかな)

『んん』

『ふにゃ』

「ん。では、校舎内に入って見ようかな」

『ああ。そうだな』

『う、うん』

『ふにゃ』

シルディア一行は、旧協会学校廃校校舎内部へと入場する。

(先ず、一階は、校長室、職員室、事務室、給湯室、特別活動室、会議室等か。幾ら学校が地域的な施設とはいえ。外部からの来客等を、施設内の奥に通すことになるようなことは、避けると。ん。やはり、中庭の類があるのか。擬似植物なのかな。極小規模生息場所が擬似再現の類なのかな。水場があるのに、何故か、両生類や爬虫類の類は、殆どいないのよね。三面張り等は余り関係なさそうだけれども、生命力とは別に、どこかしら繊細な生物なのか。苦手な子どもは、多そうだから。誰しも何かしら、出入りする機会があり)

「…………。それで、どうなのかな」

『机や椅子が、残されているようだね』

「ああ。そうだね。ん。まあ。純雑質製であり、比較的単純強固な備品のようだからね」

「ん。そのようだね」

「ああ。予算というか、初期投資の類が、幾らか少なく済みそうだな」

「ええ。仮想学校通学なのなら。場合によっては、一式で足りるけれどもね。意匠権等の存続期間が過ぎているものことが。著作権存続期間が過ぎた教科書等を、探すのは後で」

「場所によっては、精査しなくても、表面上にあるかもしれないからね」

「まあ。職員室より、準備室の方に、ありそうではあるのか」

「ええ。そうなのかな。では、二階の方へと、行こうか」

『ええ』

『うん。お化け、居ないよね』

『ふにゃあ』

(保健室の類は、児童生徒が長時間留まる可能性があるから、というより。協会へと)

皇・王霊が、対魔王軍大戦期に、導入した死亡回避・瀕死の仕組みを含む、役割、技能系統により。この世界、辺獄・冥界においては、外傷の殆どが回避されており。閉じた系として、範囲境界が展開されることと合わせて。保健室等を利用する機会は、内部損傷や疾病の場合となり。保健室ではなく、学校と深い関係の協会による担当となるのだろう。

シルディア一行は、廃校校舎二階へと続く、階段を昇る。


(ん。普通教室も。教室南面、北廊下なのかな。まあ。この星では、南中、北中が一定ではないのなら。暖かそうな印象の南を向くのかな。南の国は暖かくても、あるか所で、方角による寒暖差は、余り出ないように、精霊達の活動で、成っているのだろうけれども)

「……。精霊は少なくない。怪物等化した精霊の解放を大切にする「眷属」等関係施設である閉じた系において、順当に、精霊を閉じ込めるようなことは、避けられるとはいえ。何らかの理由から出られなくなっている訳では、ないのだよね。微細精霊の類を含めて」

「おそらく、そんな間抜けは居りませんぴょんよ」

「そうか。それは、良いことだな。望ましい」

『マルナレネではないな』

『ぴょん』

『角兎か』

「はっ、如何にもぴょん。君主方。角兎ジャプッロですぴょん」

『ふかふか丸くて、黄色い。可愛い』

「むむ。黒螺旋角は、鋭く尖っているぴょん。強力な武器ぴょん」

「ぴょん、ぴょぴょん」

「ん。ジャプッロは、昔から、「ぴょん」と言っているぴょんよ」

「ぴょん、ぴょん、ぴょん」

「何と。人語を喋るのは、可愛くないと」

「ぴょん」

「かぁー」

「ぴょん、ぴょん、ぴょん」

『うん。可愛い』

「ん。黄色くて、丸くて、可愛いのではなかったのか」

「ふふ」

「ああ」

『でも。「ぴょん」の方が、可愛い。角兎ジャプッロは、お化けさんなの』

「ぴょん、ぴょん」

「ああ。つまり、この閉じた系に、中高位精霊は、他に居ないのかな」

「ぴょん、ぴょん」

『今は、出掛けていると』

「ぴょん」

「只今、罷り越しました。るいピュルヴュに、御座います」

『お、お化け』

「鬼・魔霊級精霊なのかな。大丈夫よ」

るいは、鵲様で、赤黒く、二つ首、四つ脚と、幾らか迫力のある姿容をしている。とはいえ、脅かすのではなく、火を防ぐ力を持ち。施設火災予防には、好ましい精霊なのか。

「かち、かち」

「かぁー、かぁー」

「かぁー、かぁー」

『ん。可愛い。もう、お化けは居ない、安心安全』

ピュルヴュは、器を歪形に変形し、鳴き声を、レイゾユネに合わせる。

「それで、二体は、昼夜交代で、この空間が優位性・優先権確保を、担って来たのかな」

「ぴょん」

「かぁー」

「既に、任は解かれていると。まあ。廃校なのなら、順当なのかな。閉じ込めないよう」

「ぴょん」

「かぁー」

「るいピュルヴュ、角兎ジャプッロ。これら金烏レイゾユネ、玉兎マルナレネ等と共に。昼夜交代で、この空間が優位性・優先権確保を、再び、担うことは、出来るのだろうか」

『ぴょん』

『かぁー』

「ええ。では、そのように。嘗ては、待機場所等、どのように、していたのかな」

「ぴょん」

「かぁー」

「ああ。順当に。留まり続けないように、撤去されているのかな」

「ぴょん」

「かぁー」

「空や地下は、どのように、していたのかな。跡地は、どこなのかな」

(痕跡を調べれば、どのような構造だったのかを、場合により、感じ取れるのかな)

「ぴょん」

「かぁー」

『校庭に、在ったのね。戻る』

「ええ。行きましょうか」

『ああ』

『ふにゃ』

るい、角兎と共に、シルディア一行は、一度、廃校校舎外の校庭へと戻る。


「ぴょん」

「かぁー」

「ん。特に隠蔽等は、なされてはいないね。今回のように、何らかの施設として、再使用の可能性が、ない訳ではないからね。ん。複数体で、利用しても、大丈夫そうなのかな」

『ぴょん』

『かぁー』

「では。再建するから、少し、離れるように」

『ええ』

『ふにゃ』

『ぴょん』

『かぁー』

『出来た』

「地下へ通じる穴には、気を付けて」

『うん』

「ん。兎用なのだけれども。地下へ通じる穴に、入るのね」

『地下へ通じる穴に、異常なし』

『そうなの』

「そうらしいな」

「ぴょん」

「鳥向けの待機場所の方は、調べるようなことは、なさそうね」

「かぁー」

「それで。どちらの待機場所も、二体で利用して、広さ的には、問題なさそうなのかな」

『ぴょん』

『かぁー』

「では。廃校校舎内が探索調査の方へ、戻ろうか」

『ええ』

『ふにゃ』

(鳥達も、兎達も。獏達同様に、猫達の「ふにゃ」に合わせるのかな。まあ。そもそも、「ふにゃ」はそれ程、猫らしくはないのなら。合わせ易い面は、あるのかもしれないか)

シルディア一行は、再び、廃校校舎内へと入場する。


「理科室。机や椅子以外に、何かしらの資料が。金属塊、合金塊」

『銀、金、白金も、ある』

「ええ。とはいえ、変形変質等が出来ないよう。「眷属」等の力で、処理されているね」

「だから、設備等の一部として、残されているのだな」

「まあ。討伐活動における報酬の見本となる展示資料のようだね」

鋳鉄・銑鉄、錬鉄、鋼、鉄葉、亜鉛鉄板、銅、白銅、洋白、青銅、黄銅・丹銅、赤銅、錫、白目、鉛、亜鉛等。疑銅、安質、烏金、水鉛、蒼鉛、巨人金、コボルト金、各金、呂金、孟金、旦金、尼金、告金の類は、合金や不純物として、報酬内に幾らか含まれるとしても。流石に、文明水準的に、単体としては、展示・報酬化されては、いないようなのかな。白色金、黒色金、赤色金、淡赤色金、緑色金、紫色金の類は、変形変質等が出来ないようにして。一応、補助貨幣の類として、制定されているのだけれども。鋳潰せないことから、金貨等高級貨幣の摩滅防止用の飾りは別として以外、未だ流通はしていないよう。

(流石に、純雑質繋ぎ、妖精金属塊や物化精霊質塊は、ないのかな。仮に、此処で、怪物等に成ったとして、吸収・大幅な物化進行をされると、問題だからなあ。閉じた系に、物化因子は、殆どないけれども。精霊達の出入りはあるのなら。あり得ることだからなあ)

『物化因子は、空、火、地、水、木の属性等の多様性を組み合わせて持つ。それら性質の材料は、嵌め絵の片のように分けられ、さらに配分が揺らいでいる。そのため、空間全体からの排出にあたり一括指定するには、曖昧で範囲が広くなり過ぎて、環境の恒常的の循環・自浄作用への影響が出かねず、無作為な個別指定も現実的ではない。精霊の多くは、物化因子を多少は取り込んでいて、最も身近で単純強固な器という境界を有しているために、個々との対話や目視なしに外から物化因子を取り除くことは、難しい。加えて、そのような比較的力の弱い精霊は、物化因子を接触伝播させ続けることに限定するとしても、十分と思えるような数が居る。力は低位とはいえ器が単純強固な精霊には、複雑な人間のような異物を体内から排除する仕組みが乏しく。力の弱い低位精霊の場合、比較的力の強い堕天使によりつくられたそれ自体が単純な物化因子に、対するのは難しくなっている』

「金属器具、硝子器具が、残っていて。流石に、薬品類はなしと」

(葉長石、緑柱石、硼砂、土硫黄、黒鉛、炭酸曹達、苦土、石灰の見本はあるのか。文明水準的に、何に利用していたのか。変形変質しない展示見本等であれば、閉じた系等に停止保管することはないのに。また。順当に、器具は種類が少ない。役割、技能系統における錬金術士等が、劣化技能系統固定・錬金薬製造のために、擬似物質等純雑質を利用し。併せて、識別等を容易にするために、均質化するようなことは、あるとしても。広くは)

「…………。理科準備室の方に、行って見ようか」

『ええ』

『ふにゃ』

「ん。資料を含めて、特に珍しい物は、ないのかな。ん。次へ行こうか」

『ええ』

『ふにゃ』

(ん。何かあるとしたら、図書室や図書準備室なのかな。前科学等は別として、科学は、思想絡んでこないようにも。いや、目的からして、多大に、思想が絡んでくるようにも)

「……。家庭教室。薬品等と食品等とが、近くにあることは、好ましくはないけれども。幾らか離れてはいて、警戒する火元は纏まっていた方が、好ましいようにも。施設設備等は燃えなくても、中の物は燃える物があるのならね。ああ。被服室の類は、流石にないのかな。文明水準的に、布地の価格は、数箇月分の収入にはなるのだから。無理なのかな」

『家庭科室。食べ物』

『ふにゃ』

「「眷属」等は、変形変質防止を突破して、食べることが出来ない訳ではないけれども。流石に、百数十年前の報酬展示見本等は、擬似食物とはいえ、食べないようにしようね」

『うん。食べない』

「とはいえ。残っては、いないようなのかな。ん。もしかすると、既に、食べたのかな」

「ぴょん、ぴょん」

「かぁー、かぁー」

『流石に、食べてはいないと』

(焜炉の類は、「眷属」等向けの単純強固な器具なのか。実習の類とはいえ。基本的なことに留まるのかな。迷宮等内における安全地帯・休憩場所での調理器具と、仮定すると)

『手押し喞筒。水、出た』

『ああ。擬似飲用等水なのかな。排水の方も、出来ていると』

『ふにゃあ』

(ん。携帯可能焜炉の方も、付くか。冷蔵保管庫は、なしと。給湯室も同様なのかな)

「手押し喞筒の方は、もう、終わったのかな」

『うん。満足』

「それでは、家庭科準備室の方へ、行こうか」

『ええ』

『ふにゃ』

「ん。焜炉と手押し喞筒か。此方にも、冷蔵保管庫は、なしと。嘗ては、停止保管庫が、あったのかな。流石に、廃校時で、停止保管庫は、流石に回収するのだろうから。家庭科関係資料は、ないか。食物は、報酬交換に含まれるとはいえ。財政専売所よりだからな。ん。図書室に行ったら、今日のところは、帰ろうか。一応、帰りに、給湯室の方を見て」

『ええ』

『ふにゃ』

「図書室。しかし、図書は、運び出されているのかな。まあ。高級品だったろうからね」

『あった』

『ああ。これは、討伐者組合等に配架される擬似怪物等関係資料か』

(脅威度等は、公式に、設定できないし。迷宮等浅層で、対峙するのは、階層支配者等を除いて、殆どが、獣霊級形だけれども。肩高や頭胴長や角等武器の情報は、公開される)

「……。ああ。怪物等の防御能力や敏捷性を考えたら。小柄だったり、木属性で回復能力を備えていたりは、脅威なのだけれども。比較的対峙し易いからとはいえ、始めから、肩高八尺超で、頭胴長一丈超のアクリス形はね。ん。一般臣民は、怖気付きそうなのかな」

『うん。アクリス形は比較的弱い方だけれども。怪獣見たいに、大きい』

『旧箆鹿様なのにも関わらず、直線以外の機動力は、制限されているのだけれどもね』

「まあ。怪物等は、基本的に、討伐能力を備える討伐者等からは、逃げないから。草食動物が肉食動物を振り切るためのような左右方向等への素早い機動力は、活かさないけれどもね。とはいえ、このような資料は、討伐者活動を中心に据えるのなら。重要なのかな」

『ええ』

『ふにゃ』

『ジャプッロ、ピュルヴュは、待機場所に残るのか、シルンサス等に、会っておくのか』

「シルンサスは、我々姉妹の母で、黒竜だね。一応、父のアハトゥスは、黒龍なのかな」

「ぴょん、ぴょん」

「かぁー、かぁー」

『うん白黒龍、竜が揃うのは、珍しそうなのかな』

「まあ。異界の例が有名なだけかもしれないけれどもね」

『自らの器とは別に、双子の類として共有の器を持つ異界の二竜が、共有の器を、二つに分けそれら器に対する別々の優位性を確立する前に。共有の器に専属する竜の有無の力を以て、異界の『何かではない』か何かを保護したのなら。その力を左右し得る共有の器の再統合を避ける取決めの破棄には、その取決めに参加する異界の二竜が親族と、こころか何かを共有する数多の世界が並行存在との合意を欠かせないのなら。全員欠けはしない。そうして、「何かではない」か何かを越えるような力は、二竜の力に干渉し制約される』

(ん。対魔王大戦を知らないのか。どれ程、廃校校舎を中心に、生活していたのかしら)

給湯室の備品設備は、「眷属」等由来の手押し喞筒、焜炉等、目新しい物はなかった。

シルディア一行は、央の国離宮へと向かう。


『ただいま』

『ふにゃ』

『おかえり』

『この仔は、るいピュルヴュで、この仔は、角兎ジャプッロ』

「ぴょん、ぴょん、ぴょん」

「かぁー、かぁー、かぁー」

『ん。廃校の閉じた系に、残っていたの』

「出入りはしていたとはいえ。待機場所としての専用施設撤去後も、留まっていたよう」

『そうなの。それは』

(ん。把握されず。廃止されて、撤去されていないような閉じた系は、複数あるのかな)

「まあ。昼夜の切り替え関係者等は、それぞれ複数、居る方が、好ましくはあるのかな」

「それで、教科書等や備品の方は、見付かったのかな」

『備品はあるけれども。教科書は殆どない』

「まあ。怪物等関係資料の類なのかな。未だ、「眷属」等の力に関係するのだろう視聴覚室等には、行っていないのだけれども。ん。教科書等は、余り期待できなそうなのかな」

「ん。まあ。そうでしょうね。シルディアか言うように、帝国の価値を一応代表することになっている私が。幾つか資料を見繕って置いたから。其の内、目を通して置くからね」

『はい。よろしくおねがいします』

「ええ。そのように」

「喜んで貰えて、良かったね」

「うん。まあ。順当よ。順当。何時も、子ども達の話を、ちゃんと聴いているのだから」

『ふにゃ』

「そう。そして、視聴覚室等の調査を残して、帰ってきたということは」

『ん。御飯、食べる』

「ええ。そうね」

『ああ。一人で、行かないで』

「それでは。我々は、帰ります。帰るぞ、アッヒュル」

『どうかしたの。フエイニスちゃん』

「ん。何かしら、懸念があるようね」

『ええと。ん。まあ。調理中に、入れなくて良さそうなものを、入れることがあるよね』

「ええ。隠し味は大切だからよ」

『隠し味』

『ふにゃあ』

『いや、いや、過剰な生体反応等を、来すかもしれないから。入れない方が、良いから』

「全員が「眷属」等なのなら。大丈夫でしょう」

『過剰な生体反応等だから、等。ここ、大切ね』

「まあ。シルディアは、帰って来たばかりだから。私が付いて行くよ」

「ええ。アハトゥスが」

「アッヒュルも、フエイニスも、用事等がなければ、未だ、帰らないでよね」

『はい』

『ふにゃ』

『食事、一緒だと、楽しいよ』

『ふにゃ』

(可愛い。しかし、流石、帝室の藩屏たる東の国が王女。ヴェルレアは、動じないなあ)

シルンサスは、調理を繰り返すことで技量の向上があっても、慣れや余計な工夫の類により。順当に、好ましくはない調理結果となることが、多い。あの世ならざるものをつくり出す程、「ものことの成り行き」を外れた調理結果等ということには、成らなくとも。


「それでは。集まったことだから。昨日の廃校校舎探索調査の続きに、出発しようかな」

『ええ』

『ふにゃ』

「ああ。その前に、どのような私塾等に、するつもりなのかな」

「ん。シルンサス。はい。対象は、王侯の子女となるので。王侯の基本的役目たる軍役奉仕に資するよう。つまりは、各国代表討伐騎士団騎士団員等養成課程の類に、成ります」

「そうね。そうなるわね。それで。転移所か迷宮等を、新規に設置することになるけれども。私塾に、何かしら、取り組みとして新しいものことは、あるのかしら。こども達よ」

シルディア一行を、シルンサスが引き留める。一応、アハトゥスも居る。

『んん』

『ふにゃあ』

「はい。擬似薬草を用いた水薬様錬金薬の導入を、考えています」

「それで」

「そこは。これからじゃないのかな。シルンサス。シルディア達は、六歳なのだからね」

「はい。従来、妖精金属製防具や物化精霊質製防具の有償貸与によって、仮想体力の擬似怪物等攻撃による摩滅を、完全に遮断することが、基本となっていますが。加えて、閉じた系に残溜している擬似薬草が大量の焼却灰を、錬金薬とすることで、低廉に大量の錬金薬を確保することで。仮想体力の損耗回復を考慮しながら。この辺獄・冥界に「眷属」等が欠ける場合を考慮したより実践的な怪物等討伐訓練が、実施可能と思われます。低廉とはいえ有償ですから。使用数・金額等が、妖精金属製防具や物化精霊質製防具の有償貸与を超える等した場合、範囲境界の設定等により。仮想体力保護状態とすることとし。全損の一時的防止・自動錬金薬発動消費等にも、配慮することとするのは、どうでしょうか」

「ええ。そうね。一度の戦闘で、仮想体力を全損することが稀な段階まで、進めるのであれば。比較的容易に、錬金薬を用いる機会は確保することが、出来るのでしょうね。討伐者一党の実績等から、連戦の回避等は、考慮されてはいるのだから。錬金薬の作成に、擬似薬草を用いることから。「眷属」等以外の役割錬金術士が、役割段階成長、技能系統熟練度成長をする機会とはならないことが、気になるけれども。まあ。良さそうなのかな」

「ありがとうございます。一般錬金術士が作成した仮想体力回復薬を、討伐者組合等の方で、買取るようなことは、出来ないのでしょうか。擬似薬草を媒体等とはしないものを」

「今回の試み次第ね。対魔王において、「眷属」等を欠く場合に、役割上級勇者以上に、重要になる役割上級聖者・聖女に。組み合わせる役割として好ましい役割錬金術士が、幾らか広く選択されるようになることは、大切だから。我々母子両協皇が選択するように」

「そうですね」

「迷宮等設置については、私の方から」

「ええ。ヴェルレア」

「従来、擬似迷宮等探索においては、一党ごとに空間が形成されるため、大幅に混雑は回避されております。また。今回設置を目指す私塾における対象者は、王侯子女ですが。一般討伐者の方々からすると、意気とは異なるところで、敬遠する対象となります。資源配分総量を増やさず迷宮等を新設することは可能ですし。需要があるのでしたら、資源配分総量自体を増加させることは、行政、「眷属」等にとっては、好ましいと、思われます」

「ええ。初等中等迷宮、擬似迷宮含め、私塾を設置して問題ないわ。教科書等の方もね」

『ありがとうございます』

『ふにゃ』

「良かったね」

「百数十年間は待ち続けている者達。るいや角兎が居るのだから、今更、中止になど、出来ないでしょう。玉兎を連れて来ることを許した時点で、私塾の設置は、出来たのだし」

(大切なのは、錬金薬の価格設定なのかな。場合によっては、白黒龍、竜等の増加の力を用いて。何処かの保管倉庫に、大量に積み上がっていないものか。仮想体力回復錬金薬)

「シルディアちゃん。仮想私塾通塾は」

『仮想私塾通塾』

「ええ。我々には、相方獏達や相方眠り獏達が居るので。仮想迷宮等探索同様に、仮想私塾通塾が可能と思われます。没入型仮想現実や人形遠隔操作端末を用いて。閉じた系における空間優位性・優先権は、ピュルヴェ、ジャプッロ等が、常時、確保し続けますから」

「その場合は。廃校校舎等を再使用するのではなく、新設の方が、好ましかったのでは」

「ええ。そこで。微細精霊を除く獣霊級精霊から。過去の入場記録を元に、(再)入場許可を制限します。流石に、微細精霊と妖霊級夢魔等との識別は可能ですから。夢魔による干渉の方は、避けることが可能と思われます。夢魔等の痕跡を、獏達や眠り猫達が感知しないことから。夢魔等について過去の入場は、少なくとも近来にはないと、思われます。手始めには、獏達、眠り猫達が、常駐することを検討します。我々も、流石に、常時、全ての獏達や、翼猫達と一緒に居なければ、落ち着かないという訳ではないのですからね。それに加えて、精霊の入場許可制により、夢魔等が、塾生の相方精霊等として、紛れ込むことの防止が、出来ます。堕天使等が精霊として計画的に、王侯の子女に近づくことも」

『ふにゃ、ふにゃあ』

「そうなのなら。仮想私塾通塾に、一応、問題はなさそうだね。ん。相方精霊について調査するようなことは、何かしら切っ掛けがなければ、難しい面があるから。良いのかな」

「王侯子女等の私室の守りについては、何らかの処置が、成されているのだろうからね」

『仮想私塾通塾、出来る』

『ええ。大丈夫』

『夢魔の力を再現するような遠隔操作環境おいては。性質上、夢魔による干渉が容易であり、干渉が懸念される。とはいえ、数多の要素を精査しながら除いて、動作環境を調査するのは、作業量的に困難であり。要素間の統一的な関係性を維持するのは、夢魔に作業を担当させるにしても、その多くを意識することなく力を行使するのだから、困難となる。そうなのなら、獏や翼猫を配置することで、夢魔の干渉に備える方が、現実的なのかな。広く、導入され過ぎることにより、報酬として、鉱物資源等の供給が過多となる可能性があるのなら。導入箇所をある程度は限定できる方が、好ましいのかな。初等中等迷宮の踏破というのは、野外活動特許設置の条件なのだから。それを満たすことが大切な村落においては、野外活動特許設置の条件とは出来ない遠隔操作による探索を、導入することは、余り望ましくはないのかな。そうなのなら、初等中等迷宮探索が前段階等の訓練施設となり。都市住民向けとなる。錯覚は危険で、仮に運動効果があるとして、期待は出来ない。人間等が錯覚によって、体調等が変化することがあるにしても。継続的な運動効果において、刺激等を安全に再現できず。幾らか減殺されて、限定的なのかもしれないのだから』

「それでは、アハトゥス、シルンサス。行ってきます」

『行ってきます』

『ふにゃ』

「ええ。行ってらっしゃい」

「気を付けてね」

シルディア一行は、今日も、央の国旧協会学校廃校へと、向かう。


「ん。獏達、眠り猫達、夢魔等の介入は、ないのかな」

『ふにゃ』」

「それでは。視聴覚室等へと、向かおうか」

『ええ』

『ふにゃ』

(普通教室等が多いのは、討伐者一党用の拠点として、好ましいのかな。仮に、足りなくなったとして、部屋等を、仮想空間の方だけ増設するのか、実際に此方も増設するのか)

「お前達、未だその帽子を、被っているのか」

『黄色い猫耳帽子、可愛いよ。フエイニスも欲しい』

「いや。何故か、母から渡され、持っているから、大丈夫だ」

「ふふ。そうだね。可愛いね。とはいえ、既に、屋内なのかな」

『うん。猫耳頭巾に換える』

『ふにゃあ』

アッヒュル、ルアンサス、スゥインスは、黄色猫耳帽子を、外套の猫耳頭巾に換える。

「良し。視聴覚室に到着と。まあ。机や椅子はあるわよね。それで、これは投影機の類。ん。順当に、機械的ではなく、「眷属」等の力に由来するものなのかな。ん。隠蔽でもしなければ、特に問題なく、使える状態なのかな。それでは、皆、少し後ろに下がろうか」

『ええ』

『ふにゃ』

「アクリス形、イッペラポス形、ヒッポセルフ形、カンフュール形、ペリュトン形、エンコ形、カクジョ形と。まあ。鹿形は基本だからね。アクリス形は特に、最初に対峙する」

『それは、そうだね。一応』

『ふにゃ』

「巨山羊ウェザー形、巨原牛ウルス形、旧豪猪ゴウデイ形。鹿ではなく、武器を持っている四足獣形。猿頭鼠フスパリム形、夜巨犬グウィルギ形、犬頭豹リンクス形。俊敏性に優れた四足獣形。有脚蛇アケク形、変色牛タランドルス形、変角熊パランドゥス形、多角羊サドゥザグ形。初等中等迷宮に配置されるような特殊種類や階層支配者・迷宮支配者か」

「嘗て、央の国旧協会学校に併設等されていた初等中等迷宮に、配置されていたのかな」

「ああ。おそらく、獣霊級ばかりだからな。妖霊級形や鬼・魔霊級形が、一、二体でな」

『何が、映っているのかな』

『ふにゃ』

「それでは、映像を、再生して見ようか」

『ええ』

『ヴォオオオオオ』

『アクリス形、大きくて、迫力がある』

「十歳前後の子ども達が、この映像資料等を見て、初等中等迷宮探索を、目指すのかな」

「これ程までの威嚇は、初等中等迷宮が配置の擬似怪物ではなくて、擬似迷宮なのかな」

「ん。映像資料とはいえ、迫力がなければ、討伐対象として、興味が持てないだろうが」

「ん。一般討伐者の倍近い最大速度への対処など、討伐者と対峙する擬似怪物等が発揮する機会は殆どないのだからね。最初に見せて、考えさせるようなことでは、ないのかな」

「擬似怪物等。そう、野外において怪物等は、そのような速度で移動中の可能性がある。野外活動が可能な一般臣民にとっては、討伐より、遭遇時の退避能力が最優先だからね」

「そうね。討伐者訓練を始めるうえで、怪物等の脅威度を過小評価することは、問題ね」

「ああ。そうだろう。対象の力も、自らの力も、見誤るのは、好ましくないのだからな」

『ふにゃあ』

「ん。隣は、放送室のようだから、行って見ようか」

『どうして、放送室が』

「まあ。放送室も、「眷属」等の力由来なのかな。文明水準的に」

(ん。しかし。この映像資料等は、比較的高頻度で、校内で広く放送されていたのかな)

「まあ。順当に、「眷属」等の力由来の設備なのかな。ん。こちら側に映像資料等は、置かれていないようなのかな。備品等管理が厳重だったのか。此方では用いなかったのか」

『映像資料、宣伝』

「初等中等迷宮の宣伝でもするのか」

『新設の初等中等迷宮だけでなく、私塾全体の宣伝』

「ん。専用の新設初等中等迷宮でなく、何を宣伝するのか」

『この仔達』

『ふにゃあ』

『可愛いから、大人気になって、会いに来る子どもが、いっぱい居るかも』

『ふにゃあ』

『「眷属」等は、言語補正により、真偽判定の類が可能であり、裁断を担う補助となる。とはいえ。「眷属」等同士の会話においては、通常、発揮されることはなく、表面的翻訳の類なのか。「眷属」等の間における言語等の介在については、良くわかってはいない』

「施設設備、教科書等の宣伝もね。とはいえ、宣伝場所は、討伐者組合等という訳には」

「シルンサスを通して、対象年齢の子女が居る各貴族家に、回覧等して貰わないとだね」

「通塾に、父母等の許可が、大切とはいえ。対象の子女自体に、届けることも大切だぞ」

「貴族家の子女が、通える場所といえば、協会等、財政専売所・討伐者組合くらいかな」

『元々は、協会学校の施設だからね』

「とはいえ。通常の協会学校に比べ、課程が類の自由度が高すぎるから。難しいのかな」

『子ども達からは、子ども達に伝わるよ』

「口伝だな」

「武術が奥義の類についてでは、ないけれどもね」

「ふふ。まあ。子ども達が保護者等を説得する場合は、誰某がどうというようなことに」

「ええ。そうね。それで、次は、何処に行こうかな」

『体育館』

『ふにゃ』

シルディア一行は、央の国旧協会学校校舎に、併設されている体育館へ向かう。

『大きい、広い、線がないよ』

「線はないね。演壇、籠球の得点枠、排球、羽球等支柱用の床金具は、あるけれどもね」

「ん。閉じた系ではないのに、外観に比べ、天井が低いな。上層階の類が、があるのか」

「屋外に、水泳場がないようだから。屋内水泳場があるのではないかな」

「範囲境界を用いる閉じた系では、水泳等の練習は難しいとはいえ。一種の訓練等には」

『水泳場が、下層ではなく、上層なの』

「範囲境界を用いていて。擬似飲用水は、精製水・電解水以上に、腐食等し難いからね。まあ。屋内水泳場の類ではなく、人工芝・擬似芝の競技場なのかもしれないけれどもね」

『上層階、行く』

『ええ。そうしようか』

『ふにゃ』

シルディア一行は、央の国旧協会学校校舎併設体育館二階へと、向かう。

『草。擬似植物・擬似芝』

「ええ。そうね。特に、木属性精霊が、活性化したり、多かったりしなくても。保てているのかな。ということは、擬似薬草は、より厳しい野外とはいえ。存続し続けるのかな」

「ん。排球か庭球用が支柱受けの類があるね。それで、あれは、少人数制蹴球が類の得点枠なのかな。木質床面での競技が、一般的らしいけれども、様々であり。一応、二階とはいえ、天井の高さが、最低限は確保されているのかな。送球用の得点枠は、ないのかな」

「一階の倉庫にでも、あるのではないか。蹴球は、道具のことを考えなければ、比較的手軽であり。現世等で広く行われ、様々な規定が地域ごとに有ったことが、あるのだろう」

「ええ。そうね。闘球や野球は、校庭で行われていたのかな。擬似芝部分があるようだから。流石に、孔球の競技が、出来る程に、広くはないけれどもね」

「難しいのかな。孔球となると、高等教育機関で。それに加えて、闘球は、役割、技能系統があるとはいえ。内部損傷のことを考えると、後期中等教育学校からが、多いのかな」

「ああ。三階もありそうだな。流石に、最後で、屋内水泳場なのかな」

『次は、三階』

『ふにゃ』

シルディア一行は、央の国旧協会学校校舎併設体育館三階へと、向かう。

「ん。屋内水泳場だね。水温は暖かいから、温水水泳場だね。藻等の繁殖はないのかな」

『ふにゃ』

『獏達、どうしたの』

「獏は、水中の水草を食べることが、あるのかな。翼猫でも、窮奇なら、水中も得意で」

『ふにゃ』

土・地属性の窮奇は、金・空属性も持つとはいえ。有翼虎形で、比較的水を恐れない。

『私達は、泳げるのかな』

「水中を、泳いだ経験がなくとも、空中を足場に、空気中を泳ぐように跳躍、飛翔し、移動しているのだから。水泳競技的ではないにしても。水中での活動は、流石に、本来、人間には困難な空気中での活動に比べると、水の抵抗は別として、容易なのだろうからね」

『そうなのなら。遊べるのかな』

『ふにゃあ』

「「眷属」は、瓦斯交換を行っている訳ではないから。無知万能さから、感覚器官が、人間が観測困難な地等で、上手く機能しないようなことは、あるのだろうけれども。溺れるような危険はないのだろうから。一応、保護者等の同伴は、なくて大丈夫なのかな。そうなると、施設開放できるのかな。範囲境界で、瓦斯交換を確保し、可動範囲の制限で、内部損傷を、共有空間における場合より、大幅に低減可能で。迷宮探索同様、可能なのか」

『無知万能な「眷属」にとって、情報の不足は、力や特殊性質で補われるとはいえ。「ものことの成行き」関連の情報自体を、得ることは出来ないように。属性要素等の力で、積極的に変質・変化を起こそうとするのなら。文明水準的に破壊が困難なものことを破壊したり、到達困難な場所へと到達出来たりしてしまうからなのか。属性要素等の力で、積極的に変質・変化させるような場合に、関係の深いものことは、黒く塗り潰されるのかな』

『大人。ヴュリレンちゃん』

「ヴュリレンちゃん一人に、責任を負わせるというのは、流石に、好ましくないのかな」

『私たちは、遊べる』

『ふにゃ』

るい、金烏、玉兎、サン猊等を除く、火龍フエイニスを含むシルディアは、水中で遊び、サン猊らは、空中から相方等に、追従するように、遊ぶ。

(ん。兎は、泳ぐ場合は、上手とはいえ。好んで泳ぎはしない個体が、多いのかどうか)

「宣伝用の紹介映像資料は、どうしようか」

『鳥達と兎達が、大切』

「紹介する各場所をひとつ一つ、巡るのか」

「演壇での説明が、中心になるのでは」

『演壇』

「一階にあった講話、演説、表彰、合唱、合奏、演劇、歌舞等を、行う場所だね」

『演劇、歌舞』

『ふにゃ』

「ああ。話しながら演技をしたり、歌いながら踊ったりするのは、幾らか難しいのかな」

「だが。我々は、戦闘中に、対象の様子を窺いながら、得物を振るい、身を守り、互いに会話等しながら。代表討伐騎士団一党構成員間で、緊密に連携することに、なるのだぞ」

「ふふ。宣伝用紹介映像資料なのだから、別撮りで、合成等することが、出来るのでは」

『出来る。うまく出来たのを、繋ぎ合わせる』

『ふにゃ』

「ん。精霊達の宣伝なのだから、「ふにゃ、ふにゃ」と歌うだけよ。この閉じた系には、中位以上の精霊が少ないのなら。塾生候補等に期待させるようなことは、避けたいのに」

『ふにゃ、ふにゃ、ふにゃにゃ』

(可愛い)

『ふにゃあ』

「では、撮影して、帰るわよ。出来のために準備するより、自然な方が好ましいからね」

『合成するのに、自然』

「ああ。舞踊を避けるのかな」

「「ふにゃ、ふにゃ」の遊戯発表会の類だからな」

「私が、るいピュルヴュを抱えるからね。スゥインスは、角兎ジャプッロを抱えるのよ」

「うん。わかった。おいで、ジャップロ」

『ふにゃ』

「私は、玉兎マルナレネを抱える」

「ん。金烏レイゾユネは、私が抱えるのか。ヴェルレアかアッヒュルか。まあ。並び的には、ヴェルレアなのかな」

「それでは、私が」

「ふにゃ」

「おいで、レルトゥト」

「フォゴユル」

『ふにゃ』

相方獏達は、子ども達の背負う猫耳多重空間鞄から、身を乗り出し、肩の上から、顔などを覗かせて、歪形で特に短い筈の首や鼻を、器用に左右に振って居る。抱えられない相方翼猫は、相方龍竜の近くで、停止飛行をしながら、首や歪形の団子尻尾を振っている。

「ん。演壇に昇ろうか。撮影装置の類は、適当に、複数台配置してと。合図はどうする」

『三、二、一、ふにゃ』

『ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ、ふにゃ』

「ええ。それなら、被っても、問題は小さそうなのかな」

「ん。そうなのか」

「ふふ。どうなのかな」

『大丈夫』

『ふにゃ』

「全員昇ったね。ああ、あの撮影装置を中心に、見るように。では。準備は良いのかな」

『ええ』

『ふにゃ』

「三、二、一、ふにゃ」

『ふにゃ』

(これは、最後に撮影するのでは。最初で良いのかどうか。所謂、出落ちの類なのかな)

 「ふにゃ、ふにゃ」と、一応、撮影は、無事に終了する。

「それでは。今日のところは、帰ろうか」

『ええ』

『ふにゃ』

シルディア一行は、央の国離宮へと向かう。


『ただいま』

『おかえり』

『ふにゃ』

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