2🗡 瓢箪からSSR



 ――聖なる儀式【ガチャ】。

 それはハイランドを始め諸国で伝統となった通過儀礼である。

 それがいつの時代、誰がどうやって始めたのかは定かではない。


 この世界には魔力があり、魔法の力があり、魔物の存在があり、そして――ダンジョンなるものが実在する。


 異空間へと繋がる魔物の巣窟。

 無欲強欲問わずに人々を無限の如く湧きだす資源と宝物で誘い込み、そして餌に釣られた愚かな簒奪者たちを喰らう魔性の迷宮群。

 時代・勢力・宗教によってどうとでも呼ばれ、扱われ、そして利用され、もしくはダンジョンそのものに利用されているとも多くの哲学者が語る代物。


 その数多の冒険者を魅了しては飲み込む、恐るべきダンジョンではあるが、中には特殊な形成な仕方をしたものが僅かに存在している。

 人ひとりが通れるほどの入口のある単なる小さな丘に開いた洞穴や古木の洞(うろ)のような外見をしていることが多く、他のダンジョンのように拡張されず、迷宮層を形成することもない。


 人々はそこを小さな神々の在所、もしくは神像を置いて聖なる祠として奉り、そして国の管理下となる。


 種族を問わず、十五を迎えた者はそんな異様なダンジョンの雛型のようなロケーションで行われる儀式に参加することができる。

 そして、最も重要で人々が神聖視までする理由。


 それは――生涯で一度だけその中に入り、そして戻ってきた者にはランダムな物品が与えられるというもの。

 その多くは武器類や手に持って使う諸道具であるとされる。


 手に入る品は様々で当たり外れが大きい。

 だが、多くの者が無償で手に入るそれに期待をせずにはいられない。

 幸運な者は魔法が付与された大変珍しく貴重な武器などを手に入れることすらある。

 

 これから冒険者にならんとするレオンハルトにとってはタダで手に入る武器はまさに渡りに船である。

 例え、大した品が手に入らなくとも良い。

 自身が扱えぬものであれば売って金に換えれば良い。

 その金で自身の腹を満たすなり、装備を整えたり、幾らか家に送れればなお良い。

 決して損にはならないはずなのである。


 遂に儀式は開始され、名を呼ばれた少年貴族が恐る恐る祠へと身を投じる。

 そして、戻ってきた少年の手には槍が握られており、当人を含めてそれを目撃した周囲が声を上げ、興奮を爆発させていた。



(これが噂の武器ガチャ…! 凄いぞ、コレで僕もワンチャンあるやも――)

 


 レオンハルトもその光景に夢中になっていた。



「おぅレオンよぅ! 今日は草むしりはいいのかよぉ~? えぇ?」


「うっ…ザ、ザネリ…」



 そんな期待に胸を膨らませるレオンハルトの背中が馬鹿力で叩かれる。

 それをやってレオンハルトに絡んできたのは学術院の同級生。

 ザネリ・ホードックであった。

 

 赤い髪を角刈りにしたガタイの良い、実に暑苦しい見事なジャイアンである。

 

 ザネリ自身は貴族籍には含まれない騎士爵であり、男爵よりも身分は下である。

 幾らリバーサイド家が貧乏とはいえ、男爵の嫡子である彼にこのような態度は本来ならば拙い。

 だが、ザネリは学術院を出たあと男爵位へ陞爵される事が確約されているし、王都最寄りの勢いのある男爵家などは色々と他の貴族からしても軽く扱いかねるものだ。


 加えてガサツでガキ大将な性格のザネリはこうして及び腰のレオンハルトにちょっかいをかける絵に描いたようないじめっ子であった。


 因みにザネリが言う草むしりとは、実際にレオンハルトが学術院の敷地内で使用人に混じってやっていた仕事で、給料は日当でパン1個である。

 

 

「次の者。ザネリ・ホードック。前へ…」


「おお!遂に俺様の番かよ。待ちかねたぜっ!」



 名を呼ばれたザネリが腕置きにしていたザネリを背後から押し退けて前へと駆ける。

 薄幸なレオンハルトは顔面から地面へと押し付けれ「ぶへゅ」という悲鳴とも奇声もつかない声が漏れる。

 それを見ていた他の在学生たちからも失笑が漏れる。



「…………」



 そこへ無言で近づいてきた人物が草と土で汚れた顔を拭うレオンハルトに手を差し伸べる。

 水色の短髪と中性的な顔立ちが特徴的な人物、カンパネルラである。



「あ、ありがとう…」


「邪魔。情けない男。それでも貴族?」



 何を勘違いしているんだ?と言わんばかりの怪訝な表情で無理矢理立たされるレオンハルトであった。

 優しくされたと勘違いしてしまった彼の気持ちは再度沈むようであった。


 そんなカンパネルラも澄まし顔で自身の名を神官から呼ばれてレオンハルトの前から姿を消した。

 その人物もまたザネリほどではないがレオンハルトを手厳しく扱う輩であり、ザネリと共に学術院に在籍するある大物の取り巻きの様なことをしていた。


 次々と祠に出入りしては一喜一憂していく在学生たち。


 中には満足な品を手に入れて喜び、従者に見せびらかして持て囃される者。

 逆に、持って帰ってきたものが単なる石コロであったと嘆き、泣き崩れる者。

 様々である。


 だが、レオンハルトの眼にはもはや何も映らなかった。


 ただただ、自分の名前が呼ばれるのを待った…。



「次の者。レオンハルト・リバーサイド。ふむ。此度の儀は貴殿で最後となるな。心して望むが良い」



🗡



 祠? いや正確にはダンジョンの中は異様な空間であった。

 視界全てを虹色の霧に包まれており、何やら五感そのものすら覚束なかった。



(不思議な感覚だ…はて? 不思議だな。どこかで経験したような気がする…)



 事前に受けた神官のレクチャー通りに真っ直ぐと歩を進めるレオンハルト。

 不思議と恐怖は感じず、寧ろ安らぎに似たものすら感じていた。


 すると、レオンハルトは何やら人の…ようなものの気配を感じて立ち止まる。



「え? 女の子…か?」



 姿は確認できないが何故かそう確信できるのだ。

 自身の目の前に立つ人物がそうではないかと。


 その不可思議な気配は、まるで言い当てられてしまったことに酷く動揺したかね様子で――何か長い柄のようなものを無警戒のレオンハルトに勢いよく押し付けてきたのだ。

 無論、それをされたレオンハルトには認識できず、強かに顔面をぶつけるや「痛っ!?」という悲鳴を上げてしまう。



 だが、その両手には確かに何かが握られており、先程まで感じていたはずの気配は溶けるように消え去っていた。


 

『何か手に触れ、手にした感覚があればそのまま引き返しなさい』



 神官の言葉に従いレオンハルトは素直に道を引き返すことにした。



🗡



 レオンハルトの視界が晴れると、そこは松明に火が灯された夕闇の雑木林であった。

 最後のレオンハルトに対して周囲の視線が集中する。



「おう!おぅ!? レオン、何だよそりゃ!」


「…へ?」



 ザネリの興奮した声で我に返ったレオンハルトが自身が手にしていたものを検める。


 それは鞘に収まった片刃の刀剣であった。

 その見た目だけで十分な価値があると素人目でも判る代物。

 思わず同様で過呼吸になるレオンハルト。


 そして、ザネリ他に急かされて鞘から刀身を抜き放つと――その刃は世にも珍しい美しい赤紫色の刃を持つそれは見事な黒刀の一振りであった…!



「こ、こりゃあ…瓢箪から駒。い、いや! 瓢箪からSSR(スーパースペシャルレア)じゃあないかっ!? ウヒャヒャヒャヒャ!!」


「きゅ、急に何言ってんだおめぇー。遂に壊れやがったのかぁ?」



 レオンハルトが引き当てた本日一番であろう刀剣に皆が湧きたつ中、それらから距離をとりつつ冷静に眺めていたカンパネルラが整った容姿をクシャリと歪めて「厄介なことになる」と忌々し気に独り言ちたのであった。


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武頼王~生き延びたければ、擬人化する武器に頼ればいいじゃない!~ 森山沼島 @sanosuke0018

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