屋上観測部と、その日常。

深みのあるプリン

第1話

ここはA市の暁星学園ぎょうせいがくえん

A市の中でも群を抜くマンモス高校である。

進学・就職率も市でナンバーワン、数々の有名人も輩出している。もちろん体育会系・文化系の部活動の生徒たちも実績を残し続けている。

『自由な校風』がスローガンのこの学校だが、あまりにも自由すぎる生徒たちがいた。


ある晴れた日の屋上。

屋上は本来立ち入り禁止であるが、校則自体が割と緩いので、常時開放されている。

その屋上の扉を、一人の女子生徒が開いた。

髪はひとつ結びにして、眼鏡をかけている。たれ目でいかにも文化系の、気が弱そうな少女だった。少女は意を決して扉を開けたが、そこには先客が居た。

「なんだ夢子ゆめこか」肩までの髪をぼんやりと切り揃えてある少女が振り向いて言った。その雰囲気は明るいが何処か人間離れしていて、手には本を持っていた。

「ギギ、早いね!?美苑みおん桃子ももこは?」「あいつらは友達と話しているみたいだったからな、遅いので置いてきた」眼鏡の少女―夢子が問うと、先客の少女―ギギはなんてことないように返した。

「そこは普通待ってあげるんだよ…」「断る。帰りの時間帯は込むからな、おれは一刻も早くここに来たいんだよ。それにおれには友達なんて無価値な物、必要ない」バッサリと切り捨てるギギに、夢子は少し不安を覚えて尋ねた。


「…ギギは、夢子達のことも、無価値な物と思っているの…?」


「まさか!」途端にギギは笑い出す。「お前たちとは話す『価値』があるからな!他の奴らと絡むより何万倍も有意義で楽しいぞ!」「…そっか!」いつもと変わらない、しかし確かな優しさを秘めたギギの言葉に、夢子はほっと安堵したような表情を見せて。「そういえば他のメンバーは…?」

ガチャ

「ごめんね〜、SHRショートホームルームが長引いちゃった〜」「あ、紡衣つむぎ!」屋上に3人目の少女が入ってきた。2人よりもすらっとして背が高く、顔整いで微笑みを浮かべている。所謂「美人」と呼ばれる少女だ。「紡衣!見てくれ!新作の詩集が出たんだ!」「あら〜よかったね〜」ギギが紡衣にボディアタックを仕掛けながら、手に持っている本をぐいぐい見せつける。紡衣はそれでも笑顔だ。いつもの光景に夢子が笑っていると、「あれ」と紡衣がふと不思議そうな顔をする。「美苑ちゃんと桃子ちゃんは?」「まだ来てないみたいなの。遅いね…?」「まだ話が長引いているとでもいうのか?まさか忘れてるわけじゃ無いだろうな…?」ギギが眉をひそめると。


「ごめーん!遅れたー!」「遅くなっちゃった〜」ボーイッシュな少女と小柄な少女が勢いよく、一緒に屋上に入ってきた。

「遅いぞ2人とも!忘れていたんじゃないだろうな!」ギギが怒ると、「ごめ、補習受けたくなくて先生から必死に逃げてた★」とボーイッシュな少女―桃子がお茶目に舌を出す。「僕はそれを見てたよ〜」と小柄な少女―美苑が言った。

「美苑はなんで桃子を見てたの…?」「面白かったから〜!」「よーし美苑、ちょっと来い」暗黒微笑を浮かべた桃子が美苑を追いかけ回そうとすると、

「桃子〜、まずはいつもの挨拶をしたら?」と紡衣が言う。

「それもそうだね」と桃子は改まって、宣言した。


「これより、『屋上観測部』の活動を執り行う!気をつけ、礼!」「「「「お願いしまーす!」」」」

その声は高らかに、青空に響いた。

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