『魔導書』編 『逆様ノ性』
薄暗い路地。不潔な匂いと、所有者を失った衣服が埃っぽい風に吹かれて動いている。垢で汚れた白のワンピースには血が沁み込み、酸化で鈍い色に変化していた。この路地で売春をしていた少女の物。
短い人生の中で失ったモノが大きければ大きいほど、この『願望ヲ叶エル路地』に引き寄せられる。地獄の様な日常で失ったモノを取り戻し、過去へ、望む時間へ戻る力を得られる此処に――
重い足取りで僕は汚れたワンピース近づく。所々ほつれた服と泥と汗で汚れた僕。わずかに残っているプライドで服を見下ろす。
少女は――望んだ過去に戻れたのだろうか?
無駄に命を失い、変態らに死体を奪われたのかもしれない――
分からない、誰かに聞いたとしても知っている可能性は無いに等しい。唯一知っているとしたら、このワンピースの持ち主のみ。
僕は――このワンピースを着てみようと思った。
紐で一つ纏めていた髪を解く。男にしては長すぎた髪はこの瞬間、役に立った。
着ていた服と下着を脱ぎ、素肌に着る。その最中に感じた生地が肌を滑る感覚、見た目の汚れからは想像出来ないほどの心地良さがあった。
鏡で自分の姿を見てみたい――
周囲を見渡すと、丁度良く路地の隅に汚れた姿見が立て掛けてあった。
ゆっくりと近づき、自分の姿を映す。そこには少女が居た。僕の面影は多少あったが、違う存在になってしまった様だった。
身体が熱い。鼓動に合わせてその熱は心の奥底から淫らな考えを引き上げてくる。
少女と僕――どちらが可愛いのだろうか?
路地の入口が気になり、視線を向けると屈強な男達が私を見ていた。嘗め回す様な視線は遠くに居ても分かった。
「お兄さん達、私を買ってくれませんか?」
少女の声で、相手からの欲望を全て受け止める娼婦の様な声を出した。裾を手で持ち上げ、白い太腿を見せる。
意識の乖離。
僕は一体――?
疑問は少女の意識に飲み込まれ、消える。
下品な言葉と笑み、男達は私の身体を犯していく。汗と体液が皮膚に落ち、ワンピースに落ちた物は全て白に飲み込まれていく。
少女の肉体になった僕の意識。それは快楽のみを流し込まれ、心の形を保てなくなっていく。
ああああ――
あああ―――
少女の身体を犯し続ける男達の身体が本のページに変化する。それらが白のワンピースと重なり合い、消えていく。少女の身体も次第にページと変化していき、ワンピースに吸収されていった。
静かになった薄暗い路地には垢で汚れ、血の染みがある白いワンピースのみになった。
左右の建物で切り取られた空は人間の目の形に似ていた。
見下ろす視線の先、地上で揺れるワンピースが形を変える。
全裸の少女と少年に、人間の顔を複数持つ魔物が地面に膝をついて、頭を下げている像が現れた。少女と少年の身体の中心に存在する魔導書。
『逆様ノ性』 純白で統一され、文字は血液で書かれている。純白の底からはガスが生まれ続け、新鮮な体液の匂いと腐敗した体液の匂いを交互にページから放っている。
少女の身体に少年の魂。
少年の身体に少女の魂。
その存在を求め、この路地に存在し続ける。
魔導書の力。とある世界に存在する異形を使役出来る力を得る。同時に異形の王へ資格を得る。
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