『双子の塔』 二層目 『二つの左腕』後編

「『魔具 再生ノ囁キ』動け」

 光を持たない魔力が、ケヴの周囲で吹き上がる。両耳の小さな少女らは黒と白の光を放ちながら奇声を上げる。

 音と魔力が混ざりあった見えない力が、俺達の身体に叩きつけられる。

 衝撃の中、先程のケヴが口にしたこの世界を呪う言葉が、少女らの声で何度も繰り返し聞こえ、拒絶をすればするほどに言葉が繰り返される。


「バ……バルトロ……」

 苦悶の声を漏らしながら膝から崩れ落ちるフェリカ。


 膝から崩れ落ちそうに身体を右腕で支える。

 野郎の攻撃はフェリカの魔具じゃ防ぎきれねぇな――

 魔具『喰ラウ蛇』に魔力を注ぐ。

 手甲、足甲、蛇腹剣を変化させた魔具。紺色の本体、蛇腹部分が金色で装飾され、そこには不規則に蛇の目が存在している。俺の魔力に反応し、目が虹色に変化。魔力が意思を持った様に動き始める。

 四肢から筋骨隆々の身体を覆っていく黒の魔力光。

 黒煙が輪郭を持ち始め、蛇の形に変化。魔力が俺達を包み、ケヴの魔力とぶつかり合う。細かく響く魔力同士の激突音。しばらくすると、フェリカが目を覚ました。


「気分はどうだ?」


「ごめん……バルトロ。私……」


「気にするな。あの野郎の魔具はお前の魔具とは相性が悪すぎる。それにしても、俺の予想とは真逆の力だ。こうなると作戦の立て直しだな」

 俺の言葉に反応したケヴの魔力が、波紋を作りながら『喰ラウ蛇』から放たれる魔力光を相殺してくる。



「アイツは耳もいいのか、ったく……色々と才能があって羨ましいもんだ」

 溜息を一つ。しかし、それは諦めではなく、寧ろ、これから起きることに興奮が止まらない感情だった。

 

 両目が限界まで開き、広角がゆっくりと上がった。戦闘狂である自分を抑えられない表情が強く刻まれる。

「だがな、お前は勝てない。俺達にな」


『喰ラウ蛇』に魔力が注がれ、複数の蛇が竜巻の様に変化し、ケヴが放つ魔力を破壊していく。

 ケヴの両耳で小さな少女らの黒と白の光が明滅し、奇声を発する。

 その声に比例して膨れ上がり、一気に放たれる。

 二人の魔力が激しくぶつかり合い、相殺。

 一瞬の静寂。


「お前は殺す!!」

 フェリカの殺意の言葉と共に、バルトロの後方で薄緑色の魔力光が光柱を作る。

 魔具名『権利ヲ奪ウ腕』。小柄な身体では到底支えられるはずがない巨大な腕が両腕を覆う様にして浮いている。それらを構築するのは大小様々な黒のブロック。

 強力な魔力で描かれた魔力文字で繋げ合わされている。魔力で制御された腕は、契約者の意思に併せて、形を変え、手の平から白い炎を噴き出す。


 ケヴに向けて放たれた火炎放射は、聖地に存在する数多の墓標が瞬間移動して造られた壁によって防がれる。

 周囲が溶解と再生を繰り返す中、炎を突き破り、バルトロがケヴに向かって右拳を叩き込む。

 凄まじい衝撃音と共に巨大な槍を握った左腕が乱暴に振り抜かれる。

 互いの一撃が予想通りと言いたいかの様に、連撃が始まる。

 バルトロの頭部を破砕する鋭い横振り。それを掻い潜り、懐で『喰ラウ蛇』の連撃を放つ。

 ケヴの鎧に亀裂が入るが瞬時に修復。

 槍を握る左腕と反対の左腕が、バルトロの顔面を撃ち抜く。顎を上げた状態で吹き飛ばされる彼の横から、腕を巨大ハンマーに変化させたフェリカの一撃が落とされる。

 超反応でそれを槍で防いだケヴの鳩尾に、身体がくの字に曲がってしまうほどの強烈な前蹴りが撃ち込まれる。同時、バルトロの魔力が放出。

 先程までの再生が消え、鎧が砕ける。

 苦悶の声を上げながら吹き飛ばされるケヴ。その身体を守るように墓標が移動し、身体を受け止める。続くように、両耳で囁く小さな少女達が黒と白の魔力を放出。

 奇声と共に、周囲に広がっていたフェリカとバルトロの魔力が消えていく。


 バルトロの傍に移動してきたフェリカが言う。

「この聖地のせいでアイツを追い詰めても回復しちゃう……」


「そうだな、フェリカならこの状況を打破するにはどう考える? 『聖天翼教』の力を全て使って考えてもいいぞ」


 お前なら、俺の期待に応える答えを出せるはずだろ――


 フェリカが小声で話した内容は、俺が期待した答えと一字一句間違っていなかった。

 思わず笑みを浮かべてしまう。

 頭を撫でながら、「流石だ。それでこそ『塵芥戦闘』だ」

 目を細め、気持ち良さそうにしているフェリカの後方、エメルリンダに合図を出す。

 互いの魔力を放出することで、これからの作戦を再確認。


「フェリカ! 俺達は俺達の戦いで行くぞ!」


「うん!! こういう時間がずっと続けばいいのに!」


「ははっ! それは最高だ」


 俺とフェリカは魔力を放出しながら飛び出す。

 視線の先には、完全に回復したケヴが槍を構え直している。

 耳元で少女達が囁きながら魔力を噴き出す。奴が苦悶と悦楽を混ぜた表情をすると、聖地に存在している墓標が少し浮き上がり、全てが俺達に向かって射出された。



『喰ラウ蛇』にバルトロの魔力が注ぎ込まれる。

 手甲、足甲から黒の魔力光が吹き上がり、本体に不規則に並ぶ蛇の目が虹色に輝き獲物を狙う様に高速に動く。

 視界を防ぐ様に飛翔してくる墓標を一つ残らず撃ち落とす。同時に魔具の特殊能力である、『使用者の意思の付加』を使い、墓標に蛇の顔を刻み、再度投擲する。

 小高い丘の頂点に立つケヴ。その周囲の魔力が飛翔物に反応し、強制的に吸収。

 ケヴの叫び声に反応し、耳元の少女らも魔力を放出。

 墓標を再生させるための力が空に現れ、三つの魔力が渦を作り始めた時、次の攻撃までの間隙を狙っていたフェリカが突撃。

 槍に変化させた巨大な腕がケヴを破砕しようとする。

 舌打ちと共に、少女らがフェリカに向けて魔力を放つと同時に、聖地に存在する墓標の全てが投擲される。


 俺とフェリカは心の中で笑った。

 前の二回はしっかりとフェイントになってた――


 すばやく腕を戻し、手の平から白い炎を放出。

 空で燃やされながらも再生を繰り返す、存在を見ながら聖地から墓標が消えた瞬間、俺はエメルリンダに合図を送る。

 次の瞬間、エメルリンダの言葉が響く。


「聖なる土地よ、全てを放棄しなさい。そこに救いはありません。救いよ、更なる救いよ、私はエメルリンダ。『聖天翼教』のエメルリンダ」


 後方で感じる彼女の光は心地良い。

 助かるぜ、教主様――


 視線の先、ケヴは何が起きたのか理解出来ていないようだった。一早く今の状況が非常に危険と感じた少女らは何か出来ないかと狼狽していた。

 その間に距離を潰したバルトロ。二人の間にあるわずかな空間に黒い魔力の塊が生まれ、爆発。

 手甲、足甲が乱舞。

 一瞬の静寂後、バルトロが放った打撃がケヴの身体を襲い、鎧、槍を破壊。耳元の少女らも逃走は許されず、所有者同様に粉砕された。

 吹き飛ばされる敵の姿から視線を外さない。

 予想している落下位置から一瞬視線を外し、周囲を見渡す。

 十字と太陽を重ねた墓標が消えていた。聖地に存在する墓標がケヴを守るように移動した。

 ――この世界から一瞬でもいいから消失させる。

 エメルリンダの言葉を思い出す。

 作戦は上手くいった――

 世界に変化が起きる。エメルリンダの全身が魔力で輝く、その光が消失。

 聖地に巨大な地震。

 地を這う魔力。亀裂がケヴに向かって走っていく。本来なら空から地へ落ちる稲妻の様に。

 ケヴを守る墓標が再度移動し、エメルリンダの魔力と激突。

 それらは一瞬にして消滅。男の身体が魔力で貫かれた。

 ケヴの『魔具 再生ノ囁キ』である少女らが奇声を上げながら、落下していく。地面に落ちると同時に小さな身体は崩れていった。

 エメルリンダが聖地の支配権を奪うことで、ケヴの再生力とこの土地の力を失う。

 そして――

 最後は俺とフェリカの拳を叩き込む。

 巨大な拳と凶悪な拳がもう一度地震を起こした。




『聖天翼教』全員でケヴを見下ろしている。

 戦意を失い、破壊された鎧の上で寝ている。肉体は残っている魔力でなんとか維持している程度。二本の左腕の片側だけが無傷だった。


 ケヴの顔がエメルリンダの方を向く。

「人の聖地を奪ってまでも『塔』を攻略したいのか……」


「貴方は此処で何を守っていたのですか?」

 冷徹な言葉で問う。


「……この左腕は、此処で処刑された英雄のものだ。彼は親友。だから俺は……彼が永遠に英雄であることを守らないといけない。理由はそれだけだ」


「死が近づいて来る。逃れることができない死がな。」

 ケヴが無表情になる。


「殺せ、お前を恨むだけの権利を最後にくれ。勝手な理由にまみれた俺の魂が、永遠にお前達を呪う権利と救いを」

 

 エメルリンダの右足が男の首に落とされる。

 首が折れる音が短く響く。その行為に対し、誰も嫌悪感を抱いていない。

 教主の笑みに続き、彼らも笑みを浮かべた。


 


 次の層へ移動するにはと考えている最中、近くで空間が歪み、そこからラウルとエルが現れた。深い溜息をする二人。


「バルトロの方も片付いたのか」


 俺は、疲れ切った奴の顔が気になり、「珍しいな、お前がそんなに怠そうな顔をするなんて。そっちの『魔具使い』は厄介だったのか?」


「ああ……違う意味で厄介だったな」

 ラウルが言葉を続ける。


「なんであんな野郎にあれほどの『魔具』が契約したのか全く分からねぇ……」


「やめましょう、ラウル様。思い出すだけで気分が悪くなります……」


 俺としては、この二人がここまで言う相手が気になってしかたなかった。

 相手の気持ちが拒絶に変わらないギリギリの会話を繰り返し、なんとか聞き出せた。

 内容は、自分に異常なほど酔っているタイプで、容姿は悪くない。ただ、それが限度を超えているためイライラが募っていく。

 ワギという魔具使いは、『魔具 疾風ノ剣』を振るい、全身を白の衣装で揃えていた。教会の礼拝堂は彼の世界で、二人の少女を愛でながら粘着質な話し方。

 細い剣で顔を見ながらナルシストを全力で見せつける。

 聞いたのは俺だが、気分が悪くなってきた。

 最終的には俺も、二人と同じ様な溜息をついて終わった。

 

 エメルリンダがゲートを作る詠唱を始める。

 俺達は次の層へ移動する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『魔具使いは世界に何を望む』 青月-闇 @10987

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ