終幕・剣凜妖爛

 それは毒煙が破裂するように吹き飛ぶと同時に放たれる。青き閃光の如き刃の照り返しと共に濡烏の髪が舞い散り、戦乙女ローズが拘束を脱するとすぐにバロンを拘束する機巧アゲハの髪を切り裂く。


「イスカ、あの子どないして抜け出たん!?」


(クレスの霊剣、どうやって……?)


 マツリと共に目を大きくしつつもイスカは機巧アゲハの左腕のアクアチェーンが解けたのを察し、すぐに操作し左腕の裾から鉄の網を放って捕らえにかかる。それは容易く避けられはするものの距離を取らせる事はでき、その間にアースバインドの木の根を左手の爪先から伸ばす刃で切り裂き拘束を外す。


「……武装召令、か」


「武装召令はアセスの装備を召喚するっちゅう術やろ? せやけど……」


「アセスが武具そのものなら話は別、もっとも意志を持つ武具自体が限られてるし、それをアセスにするような酔狂な奴もいない……でもだからこそ、面白いね」


 イスカが導き出す答えは高等術の一つ武装召令だ。本来はアセスが装備するものだけを召喚するというものだが、意思を持つ武器そのものである霊剣アビスはそのまま召喚されると。


 通常アセスの召喚中に別のアセスを召喚する場合、魔力の供給量が数に比例し減衰し能力を発揮できなくなる。その為に同時召喚し供給量の減衰のないデュオサモンという高等術がある訳であるが、仕様の穴をつくような武装召令の使い方には見守るエルクリッド達も驚きを隠せない。


「あんな使い方ができるなんて……シェダさんも武装召令は使えますが知ってましたか?」


「流石に知らなかったな、考えようともしなかったってのもあるけどさ……だがもし武装召令のままに出してるなら力が減る事もねぇから、そのまま使えるとは思う」


 ノヴァに答えながらシェダも高等術の使い方や見方を改め、それはエルクリッドも手を握り締めながら思い考えていた。ツールカードを主として使うイスカと、アセスそのものを武器とし自ら戦う術を応用したリオ、どちらも素晴らしい才覚を持ち負けられないとも。


(あたしも負けられないな。頑張らなきゃ……!)


 仲間が強くなることが自分を頑張らせる動機になる、そして自分もまた誰かをそうさせる。そう感じるエルクリッドの横顔を微笑ましくタラゼドが見守りつつ、舞台へ目を向け直し戦いの終わりが近い事を感じながら結界をより強めておく。


「武装召令による実質的な召喚はデミトリア様が発見したもの……ご令嬢たるミリアさんこと、ローズさんが知っていても不思議ではありませんが、さて……」


 ローズの本当の名はミリア、その父は十二星召筆頭のデミトリアであり彼が見つけた高等術の仕様についてはタラゼドも聞き及んでいた。無論それらを実際に使う場面があるかは別であるし、やれるかというのもまた別の話である。


 いずれにせよ聖剣と霊剣の二刀流となったローズが状況を切り抜けたのは変わりなく、同時に、凄まじい速さで魔力が消耗されてくのをリオは感じ取り深く息を吐きカードを引き抜く。


(何とかやれましたが、次で終わらせないと維持できそうにありませんね)


(そりゃ本来の使い方じゃないからね、魔力はきっちり貰うよ)


(そういう事ですのでリオ、一撃で終わらせる為に力をお借りします)


 アビス、ローズと声をかけられリオの目に光が灯る。刹那、機巧アゲハがふわっと浮き上がり、足下からばらばらと火のついた玉を撒き散らす。

 それが爆弾と気づくと同時にローズは高く飛翔し、バロンも舞台の石畳を引き剥がして盾とし爆発から逃れる。


「スペル発動ホーリーフォース、シリウス殿、援護をお願いします」


「引き受けた。スペル発動、アセスガード」


 白き光を纏うローズへシリウスがさらなるスペルを発動し、柔らかな光がローズを覆う。アセス一体をダウンさせる代わりにその能力を反映した結界を展開するアセスガードに対し、イスカはマツリと共に同じ指の動きを取り機巧アゲハが着物をずらし、胸部に開いた穴とそこから黒い糸が放たれローズを縛りつける。


「毒は効かないな……なら、演目・奈落抱擁」


 胸の穴に見える幾重もの刃が回転しながら黒い糸を巻き取り始め、ローズを一気に引き込みにかかる。が、穴に入る寸前で剣を逆手に持ったローズが糸を切断して脱出し、そのまま飛翔し機巧アゲハの右目を切り裂く。


 オーダーツールを使ってる事もあってイスカの右まぶたが切れて血が流れ、だが怯むことなく糸を操って右手でローズを掴むとぐっと力を込め骨を折ってやり返す。


「ぐっ……まだ、ですっ!」


 力なく手放した聖剣ヴェロニカと霊剣アビスをローズが蹴り飛ばし、それぞれ喉と右肩とに刺さりイスカも反射を受け血を流し右手の力が抜ける。


「イスカ!」


「まだ終わってない、来るよマツリ」


 咄嗟にイスカの腕をマツリが支えた事で操作に影響し、ほんの少し機巧アゲハの高度が下がった。その瞬間を地上にいたバロンは逃さず助走をつけて跳躍し、雪駄に爪を引っ掛け機巧アゲハに掴まるとそこから一気に駆け上りに行く。

 すぐにイスカ、マツリ両名が糸を引いて機巧アゲハの足を振って落としにかかるがそれよりも速くバロンは帯へ届き、次いで帯から噴き出す高熱の蒸気は耐え切り構わず向かうのは機巧アゲハの喉元。その狙いに気づいたイスカがすぐに左手でバロンを捕まえようと操作するも、避けられて逆に左手に乗られそのまま接近を許してしまう。


「あまり使いたくはないけど、負けるよりはいいね……! 演目・四肢累々」

 

 咄嗟にイスカがとった行動は糸を大きく引きつつそれを消し、その瞬間バロンは足下が揺らぐ感覚から機巧アゲハがその身を分解したのを察し立ち止まる。


 空中で自ら身体の接合を離す事で力を抜いた状態とするその演目は、ローズを解放する事にもなるがバロンも狙いを失う事となり、それでも跳び移ろうとするバロンだが足を貫く刃に動きを封じられてしまい、シリウスも手足の甲から血を流しながら冷静に状況把握に努めた。


(着物の下に隠し武器か……だがこれで……!)


 バロンが動きを封じられた状態で左腕が落下する中、再び糸を放つイスカに合わせマツリが糸を引き分離しかけた機巧アゲハの身体が繋がる。もちろん左腕だけはそのまま落としてバロンを離して飛ぶ形となる。


 その刹那、喉に刺さったままの聖剣ヴェロニカの持ち手をローズが口に咥え、全身を使い一気に縦に振り抜き機巧アゲハを両断してみせた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る