不完全な報告書

『未完成のガラクタ?実におもしろい!』



 某廃マンション505号室にて


「なあ、これ見てくれよ。さっきの見回り中、道端で見つけたんだ」

「手帳?それにしては、随分しっかり残ってるな」

「見た目だけな。中身を少し確認したが、内容はよく分からない。それに、読めそうにないページがいくつもある。乱暴に破られていたり、インクで塗り潰されていたりな…あとは空白か、焦げ跡が残ったページがあるくらいだ」

「焦げ跡?」

「下の方から炙ったような。これだけ見た目が綺麗だから、手帳をそのまま火の中に放り込んで出来た跡とは考えにくい」

「そのページに、何か不都合なことでも書かれていたんじゃないか?」

「それならページを破るか、インクで黒く塗り潰した方が楽だ。それに、焦げたページは数枚あるんだが、前後のページは焦げ跡一つ付いていない。特定のページだけが焦がされている」

「面倒な事をする人間もいるんだな。燃やさないといけない理由でもあったのか?」

「一応、報告書に書いておくつもりだが、いいか?」

「その前に、俺にも手帳の内容を見せてくれ」

「ああ、一緒に確認するか」


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【危機的状況に陥った人間の行動について】

 廃病院オルタナクローより

 

これは■■■を用いた結果である。

 

 人間は危機的状況に陥ると、まず現実を否定をする。打開策があると思い込む。逃げる姿勢を示す。その時、これは自分の事ではないと言い聞かせる人間もいた。

 次に、周囲を攻撃する。出鱈目だ、それは嘘の話だろう、と。また、回避方法を提案、懇願する。逃げる手立てを闇雲に探し始める。希望を掴むためならば、手段を選ばないようだ。

 その後、三日間放置し経過を見る。すると、人間は超越的な存在に縋り始め、意識が曖昧になっていく。ほとんどの人間は壁に向かって、神と呼ばれるものに話しかけていた。誰でもいい、どうか助けてくれ、と。

 最終段階になると、どの人間も半狂乱となり、意思疎通は不可能となった。

 中でも、被■■である「■■■」は他の人間とは異なる行動をとった。■■■を投与してから十四時間後、首を吊った状態で発見された。

 彼は回復傾向にあったが、自らが壊れることよりも、自殺を選んだ。

 また、彼に対する調査報告書から、六つ下の妹がいることを確認した。妹の死因については、現在調査中である。

 これらの詳細な情報が送られて来たのは、彼の死後である。

 

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「これは人間の話か?」

「そもそも、人間を物珍しそうに見る俺たちにとっては、どうでもいい話だな」

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