第8話 大団円
それが何なのかというと、
「工藤のいうように、浮気相手がいるということを考えると、旦那には、奥さんであるさゆりに、後ろめたさがある」
ということになるだろう。
それを考えると、
「奥さんに、高い保険金を掛ける」
というのは、理屈としても、心情としても分からなくもない。
というのは、
「少しでも、保険金を高く掛けることで、奥さんに対してのうしろめたさを旦那として消そう」
と考えたからではないか?
しかし、そう考えると、
「さゆりは、旦那に浮気相手がいることを分かっていたのだろうか?」
と考える。
「そもそも、20歳近くも年上の爺さんと結婚する」
ということを普通に考えるなら、
「莫大な財産目当てだ」
とも考えられなくもない。
しかし、実際にそこまで財産があるわけではないが、
「遺産のかわりに、生命保険を残している」
ということで、
「旦那が死んでも、その後のことは、十分といってもいいくらいの保険金だ」
という。
ただ、殺害すれば、保険金をもらえない可能性が高い。
それを思えば、刺殺などという大胆なことをすることはないだろう。
だとすれば、殺したとしても、動機は、保険金詐欺ではないということになるのではないだろうか?
今のところ、一番怪しいのは奥さんだが、警察だって、放っておいても、旦那に浮気相手がいるということくらい分かりそうなものだ。
もし、さゆりが犯人だと考えれば、
「これは殺人だ」
ということの方がいい。
もし、自殺などといって判断されると、保険金が下りない可能性もある。殺人であれば、確実に降りるからだ。
そして、殺人事件だということになると、警察が捜査を行い、当然、浮気相手にも容疑が向くだろう。
そんな時、奥さんにアリバイでもあれば、さゆりは、容疑者から除外されることになる。
「まさか」
と、坂田は、無性に嫌な予感が襲ってきた。
それは、
「悪寒」
といってもいいだろう。
ぞくぞくとした感覚が身体に襲い掛かる。
というのは、
「さゆりという女は、この俺を目撃者に仕立てたのではないか?」
ということであった。
そこには、
「工藤も絡んでいて、どういうつながりがあるのかは分からないが、最初に、目撃者になっておいて、後になってから、思い出したかのように警察に話をすれば、警察の方でも、余計に気になるということだ」
というものであった。
そして、一つ考えられることとして、
「これは、タスキが掛かった犯罪ではないか?」
と思えた。
というのは、
「工藤と坂田」
そして、
「さゆりともう一人、そう、真犯人」
との関係の中で、練られた計画。
そして、その計画を立てたのは、
「坂田もさゆりもどっちも知っているであろうと思われる、工藤である」
ということだ、
逆にいえば、
「坂田に、何か、登場人物の中で誰かを抹殺したい」
と思った相手がいるとすれば、
「自分も、この関係を使って、殺人計画を練る」
ということになるのではないか?
と感じたのだった。
「さゆりはたぶん、共犯者」
だとすれば、
「もし、坂田が犯罪計画を立てたとしても、そこに、さゆりが共犯として参加するということも十分にありえることだろう」
と感じたのだ。
そして、考えたことは、
「さゆりと、工藤の間での、交換殺人ではないか?」
と考えた。
そして、たぶん、
「工藤は、その計画に乗って、まず、旦那を殺害したのかも知れない」
と思えた。
「だとすれば、さゆりは、誰を殺そうというのか?」
ということを考えると、
「思わずゾッとした」
と、坂田は感じたのだった。
工藤は、もちろんのこと、坂田の普段からの、
「痴漢行為」
というものを知っていた。
そして、自分でも、痴漢ということではないが、
「何かの犯罪をしていたのではないか?」
と感じた。
というのは、
「工藤が、痴漢行為のことに気づいていたとすれば、それは、自分と同じ匂いがしたからではないか?」
と感じたからだ。
だからこそ、坂田は、工藤に惹かれたのであろう。
確かに、
「不安の中に、頼もしさがある」
ということで惹かれたのだが、それだけではなかなか。
つまりは、
「もう一つ、同じ匂いを感じた」
ということからかも知れない。
「似て非なるもの」
ということで、工藤は、
「少しだけ、坂田に比べて頭がいい」
ということであり、それは、
「悪知恵」
ということなのだろう。
しかし、一種の犯罪者である坂田は、犯罪者なりの頭の良さというものを持っている。
これは、
「工藤の犯行だ」
ということに気づいた時。
「俺でないとこんなことは分からない」
と思ったことで、
「犯罪者というのは、一種の天才なのかも知れない」
と思ったのだ。
つまりは、
「どんな犯罪であっても、天才でないとできない」
ということである。
それだけ、知らず知らずのうちに、
「捕まらない」
という技術を身に着けているからなのか、
それとも、
「技術を身に着ける」
ということが天才的だということになるのか、とにかく、
「一つが分かると、すべてが、あれよあれよという間に、謎がどんどん解けてくる」
それが、
「天才肌」
というもので、工藤の場合は、
「犯罪計画」
ということでの天才。
そして、
「それを暴く」
ということでの天才というのが、坂田になるのだろう。
「では、さゆりは?」
ということで、
「坂田と工藤を操った人がいるとすれば、それは、さゆりしかいない」
ということで、
「人を操る」
ということにかけて、
「女の妖艶さ」
というものを、
「女の武器」
ということで操れる。
と考えることが、
「さゆりの天才性」
ではないか?
と感じた。
しかし、さらに冷静に考えると、いや、
「さゆりの本当の天才性」
というのは、
「相手にそれと分からせることのない、あざとさと、洗練された計画とのバランス」
ということで、実際の計画を思いついたと思っている工藤であったが、実際には、
「計画の立案も、その計画を組み立てた」
つまりは、
「企画も設計も、そのすべてを、さゆりが行った」
ということであり、本来であれば、
「それを自分の手柄だ」
ということで、自慢したいというのが普通の人間であるが、それを押し殺してでも、
「計画を完遂させる」
という目的のためには、
「自分を殺すことができる」
ということだからこそ、
「人を操ることができる」
ということを分かっているということであろう。
「これが、本当の天才」
といってもいいのではないだろうか?
( 完 )
本当の天才 森本 晃次 @kakku
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