第5話 表裏の性格
坂田が、気になる女性をコロコロ変えていたが、そんな中で、また気になる女性ができたのは、
「飽きた」
と思っていたはずの女性のイメージが、まだ残っていたからであった。
好きな人であれば、どうしても、その人のイメージが残っていて、忘れられないというのは、恋愛においては、よくあることだ。
しかし、この感情を果たして恋愛に合わせてしまってもいいのだろうか?
いや、
「やり方に問題はあるが、相手を好きだと思う感情に悪いところがあるのかどうか、そのあたりは、何とも言えないだろう」
確かに、
「好きな相手を虐めてみたい」
という感覚は、子供の頃にあったりして、もちろん、大人からは、
「治しなさい」
と言われることになるのだろうが、大人になって思い出すと、
「顔から火が出るほど恥ずかしい」
といってもいいかも知れないが、
「子供のことだから、十分に許容範囲ではないか」
といってもいいだろう。
そんな少年時代には、
「虐めていたその子のことが、本当は好きだったんだ」
ということを実際には分かっていないのかも知れない。
痴漢という行為には、当然、
「変態チック」
なところがあり、
「虐めたい」
という感覚と似通った部分があり、それこそが、
「拘束したい」
という感情なのかも知れない。
そんな彼女のことが、どうしても気になって仕方がなかった。
それまでは、痴漢をしても、その人のことを知りたいなどという気持ちになることはなかった。
当然、
「ストーカー行為」
ということが気になってしまい、追いかけるところまでは考えられなかった。
「痴漢するくせに、ストーカー行為に関しては意識するんだ」
と言われてしまうかも知れないが、自分の中では、
「同じ犯罪でも、種類が違う」
と思っていた。
それは逆に、
「痴漢まではするが、それ以上のことは」
という、どこかに制限のようなものが自分の中に掛かっていたのであった。
だが、気になる彼女ができると、意識は変わってきた。
「痴漢行為をやめられない」
というよりも、
「彼女の家を知りたい」
と考えたのだ。
それは単純に、
「彼女のことを知りたい」
という純粋な気持ちだった。
「純粋な気持ちなのに、痴漢はするのか?」
と言われてしまうと、言い訳はできないのだろうが、あくまでも、
「彼女に対しては、痴漢行為をしても、それを悪いことだ」
という感覚にならないのであった。
そう、彼女は嫌がっているという感覚を感じることはできない。触ってあげることが、逆に彼女のためになる。
というくらいに感じるのであった。
といっても、
「そんなのは、勝手な思い込みだ」
と思うのだが、そんな身勝手な思いが、
「痴漢を辞められない」
ということになり、結局は、
「依存症」
のようなものになってしまう。
ということになるのだろう。
ある日、彼女の帰宅に遭遇した。
「夕方の時間の、いつもと反対方向の電車」
だったので、
「彼女も帰宅なのだろう」
ということが分かったのだった。
彼女は最初、
「坂田がその場所にいる」
ということを分かっていなかったようだ。
すでに、その頃には、
「彼女がどこに住んでいて、名前が何なのか?」
ということは、リサーチ済みだった。
分かってしまうと、自分の感覚の中で、
「彼女とは、昔から知り合いだったんだ」
という錯覚に陥ってしまっていた。
だから、朝のいつもの電車で、彼女とのいつもの時間に対しても、
「昔からの関係だった」
とずっと思っているのだった。
その分、触っていても、それまでのような、興奮というものが、少し薄れてきているのだったが、それは、きっと、
「前から知り合いだった」
という感覚からではないだろうか?
そもそも、
「触ることで興奮する」
という痴漢行為への感覚から、少し変わってきていた。
痴漢行為を常習的に行っていると、
「その時々に、ターニングポイントがあり」、
「成長期であったり、変革期などというものが、それぞれあるのではないか?」
と感じるのだった。
「だから、これは人間の命のように、最終的には、寿命があって、消えてしまうものだろう」
と思うようになった。
というのは、
「年齢的に、年を取ってくると、やらなくなるだろう」
と感じていた。
ただ、そこまでには、数十年はかかるだろうから、その間に、警察に捕まってしまうことになるだろうと思った。
そういつまでも、女性の方が黙っているということも考えられないと思うと、
「今までが幸運だっただけ」
ということであり、
それが、
「自分から告発しない女性ばかりだった」
ということになるのか、それとも、
「女性の方でも、触られたい願望があるから」
ということになるのか?
と考えていた。
だが、痴漢行為というのも、長く続いてくると、
「女性が触られたい願望がある」
ということではなく、
「相手は本当は嫌がっているのに、自分から離れなれないような、オーラのようなものがあることで、女性を蹂躙できているのかも知れない」
という感覚もあった。
それを、
「自分の超能力のようなものではないか?」
という勝手な妄想であったが、
「もし、そのような自分の中にある超能力であれば、神の報いのようなものを受けることはない」
と考え、
「その時は、自分の人生をつぶすようなことがないように、導いてくれる」
という、またしても、自分に都合のいい考えを持っていた。
ただ、これまで警察に捕まることがなかったのも、同じような、
「都合のいい考えを持てることで、働く力だった」
ということなのかも知れない、
だが、今回は、今までと違って、
「自分に対して、ずっと都合よく進んできたことが、どこか、歯車が狂ってきているような気がするのであった」
というもの、
「今までは、相手がこちらの洗脳を受けている」
と思っていたが、今は、相手の女に自分が翻弄されているかのように思えた。
そもそも、
「相手を知りたい」
などと思っても、そこは、それ以上感じなかったはずなのに、その女性に限っては、痴漢行為以外で、慈雲を抑えることができなかったのだ。
彼女は、さゆりという女だった。
年齢は、坂田よりもかなり上で、そろそろ30代後半といってもいいくらいだった。
そもそも、その女のどこに惚れたのかというと、
「気高い気品がある」
ということで、だから、年齢の割に、逆に彼女には、若さのようなものを感じたのだ。
最初に触って、のめりこんでいた女性と確かに似ている。
その女性が、
「今の自分を作った」
ということで、
「恩人のように思っていたが、本来であれば、この道に連れ込んだということで、恨みこそある相手」
といってもよかった。
しかし、あくまでも、こんな自分になったのは、
「自業自得」
ということで、最初の頃は、
「自己嫌悪」
というもので、どうしようもない自分がいるのを感じていた。
「俺って、変質者ではないか?」
というのは、子供の頃から感じていることであり、その思いが今の自分を作っているわけで、
「痴漢行為以外では、性的興奮」
というのを感じることはなかった、
それこそ、性格的には、
「純粋」
で、
「勧善懲悪」
という感覚を持っていると感じていた。
へたをすれば、
「堅物」
といってもいいくらいなので、まわりの人は、
「まさか、俺が痴漢の常習犯だなどと思っているわけもないよな」
と思っていた。
だから、まわりは、
「もし、坂田という人間に対して、何かおかしい」
と感じるとすれば、それは
「二重人格なんじゃないか?」
ということで片付けるだろう。
「二重人格」
というのも、普通に
「おかしい」
といってもいい、
それが、
「ジキルとハイド」
のように、
「同じ肉体の中で、別々の人格がある」
という考え方なのか、それとも、
「躁鬱症」
であるかのような、
「性格的な問題ではなく、精神疾患が絡むものではないか?」
と考えると、
「後者は、病気なので、医者に罹る必要がある」
ということであろうが、
「前者は、病気ではなく、医者がどうこうできる問題ではない」
といえるだろう。
これが、前者のような人物であれば、
「ジキルとハイド」
のように、別々の性格には、それぞれの顔があり、まるで、
「二人が同じ人間だ」
ということが誰に分かるわけではないということになるだろう。
「だから、ジキルとハイドが同じ人間だったということを誰も知らなかったので、ハイドが死んだ時、ジキルもすでに死んでいる」
ということを分かった人はいないだろう。
しかし、それが分かるとすれば、
「ハイドが死んだ時。その表情が、悪魔のような形相ではなく、穏やかな表情がそこに浮かんでいた時、どこかで見たと思いながら、すぐには思い出せなかった」
ということがあったのかも知れない。
「これは、ジキル博士」
ということが分かった時点で、その瞬間、まるで、とりついていた何かが取れたかのように、
「ジキルとハイド」
というからくりが分かるということであったのだろう。
だから、坂田は、今一つ別のことを考えている。
「最初に好きになった女性と、今気になっている女性は、俺の中で同じ人という感覚だが、顔は決して似ているわけではない」
と思っていた。
性格も似ているわけでもない、
それは、
「自分が、年齢を重ねたからだ」
ということは分かっているつもりだが、
「さすがに、成長した」
とは言えないが、
「せめて、年齢を重ねる」
ということにしたのは、
「それなりに成長がある」
ということが分かったからだった、
そもそも、
「制服フェチ」
ということから、痴漢の道に入ってしまった自分が、
「どうして、30代後半くらいの熟年女性に惹かれてしまったのだろうか?」
と思えてならなかった。
顔も雰囲気もまったく違うかのように見えると、そのたたずまいは、無視することはできない。
「雰囲気と、佇まい」
というのは、似ているように感じるが、
「まったく同じだ」
と言えない以上、
「佇まい」
というのが、
「相手を高貴だと思わない限り、自分で自分を納得させることはできない」
といえるのではないだろうか?
その上品な佇まいは、
「どこか妖艶」
というものであり、
「佇まいが上品」
というよりも、次第に、
「怪しい雰囲気」
というものを醸し出しているのであった。
それは、
「俺が、痴漢という行為を彼女から切り離そうとしているからだ」
と感じてきた。
すると、次第に、
「この間まで、あれだけ痴漢行為から自分を切り離すことを、
「怖い」
と思っていたのが、まるで嘘のように感じられるのであった。
「痴漢行為に対して、段階のようなものがある」
とずっと思っていたことで、今は、
「起承転結」
の、転の終わり頃にあり、
「まるで、第三コーナーを回ったところ」
といってもいいかも知れない。
最後は、
「ゴールに向かって、余計なことを意識することなく、突っ走る」
ということを考えているのだろう。
「果たして。ゴールとはどこにあるのだろう?」
と考える。
幸いなことに、
「痴漢行為に対して、飽きが来ているように思えた」
ということで、
「もう余計な行為を自分の中の意識でしなくなる」
ということほど、楽なことはない。
行為を戒めるために、どのような対応をするか?
ということで、
「例えば警察に捕まった」
とすれば、
「逮捕される」
ということになると、
「もうこれからは絶対にしない」
という反省をするだろう。
罰金などの行政罰を浴びた後、
「もうこれ以上の罰を受けることは嫌だ」
と思い、
「足を洗う」
と考えるようになる。
ちなみに、この、
「足を洗う」
ということで、
「悪の道」
というものから、更正するということで、使われていたのだが、
「最近厳しくなった」
という、
「放送禁止用語」
の中には入っている。
要するに、警察で刑事などが、日常茶飯事に話している言葉のほとんどが、
「放送禁止用語」
つまりは、
「差別用語」
ということになり、
「これ以上、放送禁止用語が増えると、それこそ、テレビや映画での、刑事ものというジャンルの作品を作れなくなるだろう」
ということになるのだった。
その女の家を知っているので、普通なら、それで満足すればいいということになるのだろうが、実際に、週に何度か、彼女の家の近くまで見に行くことにしていた。
彼女の家の近所の人に怪しまれないようにするのはもちろんのこと、
「彼女にも気づかれないようにしよう」
とさえ思っていた。
彼女には、旦那がいて、その旦那に尽くしているように見えた。
ただ、彼女の旦那は、結構年上のようであった。
家は普通の閑静な住宅街にあり、旦那の年齢は、見た目では、
「50歳を超えているのではないか?」
ということで、彼女とは、20歳近くは離れているように思えた。
一見すると、
「後妻業ではないか?」
という雰囲気もあり、特に、彼女の雰囲気が、いかにもそんな風に見えなくもないということから、坂田は、
「自分が彼女を気にしているのは、そんなところに興味を持ったからではないか?」
と思ったのだ。
そう思って時々見張っているということから、その日も、彼女を意識しながら見ていると、
「そういえば、最近、彼女が俺の手を求めているように感じるんだがな」
と感じていた。
何かを計画している女というのは、
「俺の手を求めているような気がするんだよな」
ということで、かつて、別の女を意識して触っていたのだが、その女が、それまで、坂田の手にあれだけ身を任せていたのに、ある日、ぴったりと現れなくなった。
最初こそ、
「もったいないことしたな」
と思ったが、逆にいえば、
「冷静に考えれば、変な女に引っかからなくてよかったな」
と感じたのだった。
そうこうしているうちに、これは偶然だったのだが、坂田の友達で、実は、彼女のことを知っている人がいて、
「ほら、いつも、お前が出勤している時、近くに立っている女性がいるだろう?」
と言われた時、坂田は、顔が青くなった。
「えっ? 俺は見られていたといことか?」
と考えたが、そのことを坂田に話したわりに、
「だから、坂田に何かを聞いたりはせず」
話が別の方向へと流れていくと。
「あの人、失踪したんだよ」
と言い出したのだ。
元々、身内のことを、本来であれば、隠そうとするものを、それが恥になることでも、誰かに話してしまわないと我慢できないタイプの男ではあったが、
「だからといって、誰にでも話せばいいというわけではなく、相手を選んで話をする」
ということにかけては、長けていたといってもいいだろう。
そういう意味で、
「その友達とすれば、坂田は、口が堅い男だ」
ということだったのだろう、
実際に、坂田は、人の話をペラペラとしゃべる方ではない。
もっともそれは当たり前のことで、
「自分にやましいことがあるから、他の人の秘密をペラペラしゃべるようなことはしないのは当たり前のことだ」
といえるだろう。
それを考えると、
「なるほど、口が堅い」
ということは、
「人に言えない何かの秘密を握っている」
といってもいいだろう。
それを思えば、
「坂田という男は、敵に回すと怖いかも知れないが、味方につければ、頼もしいやつなんおかも知れない」
と思われていた。
しかし、実際に、坂田という男のいいところというのは、
「純粋なところ」
ということであった。
裏表はないわけではないが、人を裏切ったり、打算でものを考えたりはしない男であった。
ただ、頭の回転は速く、そういう意味で、何かあった時に相談すれば、
「実に的確なアドバイスをくれる」
ということで、坂田を頼もしく思っている人は一定数いた。
その中に、工藤という男がいた。
坂田も、工藤も、それぞれ、
「友人はあまり多くはない」
ということであったが、
「親友といえば、坂田(工藤)だ」
ということで、お互いに、相手のことだけを親友として認識していたのであった。
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