第2話
なんだか今日は沢山考えちゃうな。
実験に行き詰っているからだろうか。最近うまく眠れていないからだろうか。いや、その両方だろう。それに加え、一昨日ナギに言われた一言も原因だろう。
『アオイさぁ、それ考えすぎじゃない?そんなんだから自分のこと大切にできないんだよ。』
なんの話の流れでそれを言われたのかは覚えていない。その言葉は、日を追うごとに私の心を蝕んで行った。毒が回るみたいに、徐々に、徐々に。
きっとナギは私のことを思って言ってくれたことだろうと思う。だけど、それでもその言葉が頭の深いところにこびりついて取れない。
ナギは、明朗快活で天真爛漫だし、私よりずっとしっかりしてる。私が悩んでることなんて、本当はなんにも分かってないのかもしれない。そんな不信感が募る。
でも私には心の内を話せる相手は今はナギしかいない。ナギを頼るしかない。それでも、頼った先で私の望んだ答えが返ってこないと、もっとずっと不安になってしまう。そうなってしまったら私自身、なんて自分勝手なんだ、と自責の念にとらわれる。そうした自責の念は一生私という人間の根幹に生き続けていく。溜まり続けていく。
でも、ナギがいなければとうの昔に私は地球を空から眺めていたかもしれない。
「ダメだ、まとまらない。」
あれやこれやと思考を巡らせながら、実験結果を眺めていたが、今日の私にはそれをうまくまとめることができなかった。
『アオイさぁ、それ考えすぎじゃない?そんなんだから自分のこと大切にできないんだよ。』
再度脳を駆け巡るナギの声。
『自分のこと大切にできないんだよ。』 ……?私は自分のことを大切にしていないとは思っていない。むしろなぜ周りの人は私のことを大切にしてくれないのか、なぜ私は愛されないのか、をずっと考えている。
周りの人が私を大切にしてくれないなら、私が私を大切にするしかないから、今こうやってたくさん考えて、私が選んだ道でどうにかみんなと同じようにふるまって、みんなと同じように生きようとしている。
それなのになぜ、そんなことを言われなければならないのか。
最近、彼氏に振られた。やっぱり、私は大切にされないし、愛されてもいないんだと再認識した。
最近、夜さみしくて誰かの声を聴きたくなった時、気軽に連絡できる友達が私にはいないことに気づいた。
最近、見た映画がすごく良くて同じ熱量で話せそうな先輩に声をかけた。その先輩は私がよかった、といった映画に聞きたくもないようなダメだしを永遠にした。私の意見は先輩には必要ないのだ、と自分の存在価値を知った。
最近、話を聞いてほしい、と前置きして始めた話を、さらっと相手の「私も同じようなことがあって、」と私が話し終わらないうちに聞く側に回らされることが多くなった。私の話は聞くに値しない内容なんだと私の生き方を呪った。
最近、生きるのが難しくて、と病院に相談した。そしたら考え方を変えろと言われた。
世間では私は大切にされないことが多い。だから私が私であるうちに大切にしようとしているのだ。私の足を引っ張っているのは周りなのだ。
それなのに、私は、私は、私は。
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