神さまと一緒に! きらめけ!下町奮闘記
幸村かなえ
《プロローグ》閉店、閉店、また閉店
九月二十八日。土曜日の夕方。
わたし――小学五年生の
「
「はいはい、ちょっと待ってね」
揚げ物屋『喜楽』の店主である喜楽のおばあちゃんが、ショーケースの中に入っているコロッケとからあげを、透明なフードパックの中につめていく。
わたしは喜楽のおばあちゃんのしわの入った手を見つめながら、口を開いた。
「……ねえ、おばあちゃん、本当に今日でお店を閉めちゃうんですか?」
フードパックをナイロンぶくろに入れていた喜楽のおばあちゃんが、眉を下げた。
「うん。告知してた通り今日で店じまいだよ。前にも話したけど、店を継ぐって言ってた
わたしは山ちゃんと呼ばれていたお兄さんを頭に思い浮かべた。
二十代前半くらいの体格のいいお兄さんで、とてもハキハキしていた。
「あの……新しい店員さんを雇うっていうのはどうですか?」
わたしはず~っと考えていたことを、思い切って口に出した。
「いやいや、山ちゃんみたいに気のきく店員なんて、なかなかいないよ。それにわたしもいい年だし、ここらがやめ時だと思ってねぇ」
「そうですか……。お店がなくなっちゃうの、さびしいです」
「ごめんねぇ、日葵ちゃん。毎日のように来てくれてたのに……」
喜楽のおばあちゃんの眉が八の字になった。
「あ、す、すみません。あやまらないでくださいっ」
ぶんぶんと両手をふりながらわたしは言った。
あわてるわたしを見て、喜楽のおばあちゃんが苦笑いする。
「やだねぇ、わたしったら。子ども相手にしめっぽい話をして。それじゃ、お会計するね」
「はいっ、お願いします」
喜楽のおばあちゃんがレジカウンターをたたいて代金を告げた。
わたしは代金を支払って、コロッケとからあげを受け取り、エコバッグの中に入れる。
「日葵ちゃん、今までうちの店をひいきにしてくれて、どうもありがとね」
「こちらこそ、今までありがとうございました。おばあちゃん、お元気で」
「ありがとう。日葵ちゃんも元気でね」
「はいっ!」
(喜楽のおばあちゃんと会えるのは、今日が最後かもしれない……)
だからわたしは目いっぱいの笑顔で元気よく言った。
わたしの顔を見た喜楽のおばあちゃんがにこっと笑う。
「ふふっ、それじゃあね、日葵ちゃん」
「はい、それじゃあ」
本当は喜楽のおばあちゃんと別れたくない。
お店がなくなるのはさびしい。
(でも、そんなことを言ったら喜楽のおばあちゃんをこまらせちゃうもんね……)
だからわたしは言いたい言葉をぐっと飲みこんで、手をふってお店をあとにした。
「……はぁ」
わたしはともしび商店街の西の外れにある自宅マンションに帰りながら、大きなため息をついた。きっと今、しょぼんとした顔をしていると思う。
(先週はカフェでしょ。先々週は書店。その前の週は和菓子屋が閉店してる……。どうしてこの商店街で、こんなに閉店が続いてるんだろう?)
しかも今度は青果店が閉店するのでは……というウワサが立っている。
(うう、このままともしび商店街がすたれていったらどうしよう……)
そんなのイヤだ! とわたしは強く思った。
あのね、わたし、実はパパと二人暮らしなの。
五歳の時にママを病気で亡くしてから、パパと支え合って生きてきたんだ。
そんなわたしたち親子を、ともしび商店街の人たちは温かく見守ってくれていた。
揚げ物屋『喜楽』のおばあちゃんも、その一人。
ママが生きていたころから通っていたから、亡くなった時、パパと二人で伝えたんだけど、それからわたしとパパのことをすごく気にかけてくれるようになったの。
「これ、あげる」って言って余った揚げ物をおまけしてくれたり、「ちゃんとご飯食べてる?」って言って手作りのおかずをくれたりして、そんな気づかいがとてもうれしかった。
心の中にぽっかりと開いた穴を、温かい気持ちで満たしてもらったって感じ。
だから、わたしにとってこの商店街は特別な場所なの。
将来は商店街のためになる職業に就きたいと思っているんだ。
(これ以上、商店街がすたれていくのを見たくないよ。どうにかできるならしたい。でも、ただの小学生のわたしじゃどうすることもできないよ……)
わたしは再び「はぁ」と大きなため息をついて、とぼとぼと帰ったのだった。
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