第5話 ダンジョン入口の金策作戦
「うおおおおお!」
巨大なオーガが棍棒を振り回している。身長3メートルはあろうかという巨体に、筋肉もりもりの腕。明らかに今まで戦った雑魚とは格が違う。
「助けてー!」
襲われているのは、荷車いっぱいの商品を積んだ女性商人だった。
「ソラちゃん!」
『分かってる!』
俺は金貨2枚を空中に投げる。
「金貨2枚の黄スパ!」
黄色い光がソラを包み、彼女の魔法の威力が上がる。
『光の矢!』
ソラの攻撃がオーガの肩に命中した。だが——
「ぐるるる……」
オーガはひるんだだけで、まだまだ元気だ。
「やっぱり手強い!もう少し追加!」
俺は金貨をもう2枚投げる。
『聖なる光弾!』
今度の攻撃でオーガがついに地面に倒れ込む。
「やった!」
『お疲れさま!』
俺たちは商人のもとに駆け寄った。
「ありがとうございます!助かりました!」
女性商人——20代後半くらいの、活発そうな女性だった。
「お怪我はありませんか?」
「はい、おかげさまで無事です。私、商人のリナと申します」
『私はソラ、こちらは健太くん』
「健太さん、ソラさん、本当にありがとうございました!」
そして俺は、倒れたオーガに近づいた。
「えーっと……」
オーガの周りに、金貨と銀貨が散らばっている。数えてみると、金貨4枚、銀貨8枚。
「おお!雑魚より断然いいじゃないですか!」
スライムや小ゴブリンが銀貨1〜2枚だったのに比べれば、かなりの収入だ。でも、あの魔王軍兵士たちが落とした金貨10枚以上には及ばない。
「まあ、それでも十分ですね」
-----
「それにしても、こんなところにオーガが出るなんて珍しいですね」
ソラがリナに話しかけると、彼女は困った顔をした。
「実は最近、この辺りにダンジョンが出現したんです」
「ダンジョン?」
『それって……』
「はい。地面から突然、古い石造りの入口のようなものが現れて、そこから魔物がどんどん出てくるんです。このオーガも、きっとそこから出てきたんでしょう」
なるほど、それでオーガがこんなところに。
「そのダンジョンって、どこにあるんですか?」
「ここから北に1時間ほど歩いたところです。でも危険ですから、近づかない方が……冒険者でも中に入って戻ってこない人がいるって聞きました」
俺とソラは顔を見合わせた。
「ソラちゃん、どう思います?」
『健太くんの考えてること、だいたい分かるわ』
「やっぱり?」
ダンジョンがあるなら、そこから出てくる魔物を狩ればいい。でも中に入って迷子になったり、強すぎる敵に遭遇するのは危険だ。
「リナさん、そのダンジョンから出てくる魔物って、オーガばかりなんですか?」
「いえ、オーク、大型ゴブリン、時にはトロールも見かけました。みんな、この辺りの森の動物より強くて……そして、なぜか皆お金を持ってるんです」
「お金を?」
「ええ。倒された魔物の周りに、よく金貨や銀貨が散らばってるのを見かけます。不思議ですよね」
つまり、ダンジョンから出てくる魔物は、みんなそれなりにお金を持ってるってことだ!
「分かりました。俺たち、そのダンジョンに行ってみます」
「え!?危険ですよ!?中に入るなんて……」
「いえいえ、中には入りません」
俺は手を振った。
「外で待ち伏せして、出てきた魔物だけ狩るんです。ヒットアンドウェイ作戦ってやつです」
『健太くんの考えた作戦ね』
「はい。時間もないし、無理してダンジョンを攻略する必要はありません。効率的な金策です」
-----
リナに道を教えてもらった後、俺たちは北に向かって歩いた。
「しかし、ヒットアンドウェイ作戦って我ながらいいアイデアですね」
『でも、危険じゃない?もし強すぎる敵が出てきたら……』
「大丈夫です。逃げ道は確保しておきます。それに、ソラちゃんは空を飛べるから、いざとなったら俺を抱えて逃げられるでしょ?」
『そうだけど……』
「心配しないでください。氷の神殿に行くまでの資金稼ぎですから、無理はしません」
『分かった。でも本当に危険だと思ったら、すぐに逃げるのよ?』
「はい、約束します」
1時間ほど歩くと、森の奥に見慣れない建造物が見えてきた。
「あれがダンジョンですか……」
地面から突き出るように、古い石でできた入口が口を開けている。高さは3メートルくらいで、奥は真っ暗で見えない。
『不気味ね……本当に中には入らないのよね?』
「もちろんです。あくまで入口付近での狩りです」
俺たちは、ダンジョンの入口から少し離れた茂みに隠れた。
「ここで待ち伏せしましょう。出てきた敵を倒して、すぐに距離を取る」
『了解』
-----
待つこと20分。ダンジョンから重い足音が聞こえてきた。
「来ましたね……」
出てきたのは、緑色の肌をした大型ゴブリン。普通のゴブリンの倍はある大きさで、鋭い牙と爪を持っている。
「あいつも、普通の雑魚よりはお金持ってそうですね」
『じゃあ、黄スパで?』
「いえ、まずは様子見で白スパから始めましょう」
俺は銀貨1枚を投げる。
「白スパ!」
『了解!光の矢!』
ソラの攻撃が大型ゴブリンの胸に命中。普通のゴブリンなら一撃だが、こいつはよろめいただけだった。
「グルルル!」
大型ゴブリンが俺たちの方に向かってくる。やっぱり雑魚より強い。
「黄スパ追加!」
金貨1枚を投げると、ソラの攻撃力が上がった。
『聖なる光弾!』
今度の攻撃で大型ゴブリンが倒れる。そして——
「金貨3枚、銀貨5枚!」
普通のゴブリン(銀貨1〜2枚)より断然いいが、魔王軍兵士(金貨8〜12枚)には及ばない。でも悪くない。
「これはいいですね!コスパも悪くない」
-----
その後も、ダンジョンから様々な魔物が出てきた。
「オークが出てきましたね」
オーク戦士が現れた時は、黄スパ(金貨2枚)で倒して、金貨5枚、銀貨6枚をゲット。
「大型オーガですね」
さっきのオーガより一回り大きい奴には、赤スパ(金貨5枚)が必要だったが、金貨7枚、銀貨10枚の収入。
「効率いいじゃないですか!」
『でも、健太くん』
「なんですか?」
『あまり欲張りすぎないでね?強すぎる敵が出てきたら……』
その時だった。
ダンジョンから、今までとは明らかに違う重厚な足音が響いてきた。
「ドシン……ドシン……」
「え?」
出てきたのは、全身が岩のような皮膚で覆われた巨大な人型。身長4メートルはある。
『あれは……ストーンゴーレム!』
「ストーンゴーレム!?」
明らかに今まで戦った敵とは格が違う。体から出る威圧感が段違いだ。
「やばい……これは……」
ストーンゴーレムがゆっくりとこちらを見た。赤く光る目が、俺たちを見つめている。
「ソラちゃん、逃げましょう!」
『そうね!』
-----
戦略的撤退!!!
「ソラちゃん、俺を抱えて飛んで!」
『了解!』
ソラが俺を抱き上げ、空中に舞い上がる。
下では、ストーンゴーレムがのそのそと動いている。幸い、飛んでいる俺たちまでは攻撃できないようだ。
「間一髪でしたね……」
『でも、いい判断だったわ。あの敵は私たちには手強すぎる』
安全な場所に着陸してから、俺は今日の収支を計算した。
使ったお金:金貨15枚、銀貨3枚
手に入れたお金:金貨28枚、銀貨31枚
「黒字です!しかもかなりの利益!」
『よかったね、健太くん』
「これで氷の神殿までの旅費は十分確保できました。それに……」
俺はニヤリと笑った。
「今夜は久しぶりに、ちゃんとした宿屋に泊まれますね」
『2人部屋で?』
「もちろんです!お金に余裕がありますから」
『そ、そうね……』
ソラの頬が赤くなる。
-----
その夜の宿屋で
「お疲れさまでした、ソラちゃん」
『お疲れさま、健太くん』
今夜は上等な2人部屋を取れた。ベッドが2つある、広くて清潔な部屋だ。
「やっぱりお金があると心に余裕ができますね」
『そうね。健太くんの作戦、大成功だったわね』
「ありがとうございます。でも、無理はしませんでした。強すぎる敵からはちゃんと逃げたし」
『えらいえらい』
ソラが微笑む。その笑顔を見ていると、俺は心から幸せを感じた。
「ソラちゃん」
『なあに?』
「俺、ソラちゃんと一緒に旅できて本当に幸せです」
『私も……健太くんと一緒だから、頑張れる』
『でも、健太くん』
「はい?」
『あなたって、どこでそんな戦術を覚えたの?ヒットアンドウェイ作戦とか……まるでゲームみたい』
「あー、えーっと……本で読んだことがあるんです」
実際は、現実世界でRPGゲームをプレイした経験だが、それは言えない。
『そうなの。健太くんって、いろんなことを知ってるのね』
「そんなことないですよ」
『ふふ、謙遜しちゃって』
そう言って、ソラは俺を見つめた。
『健太くん、明日から氷の神殿に向かうのよね』
「はい。お金も貯まったし、準備万端です」
『そこで……二つ目の封印を守るのね』
「ソラちゃんがいれば、絶対に成功します」
俺は確信を持って言った。
「俺のスパチャで、ソラちゃんを全力でサポートしますから」
『ありがとう、健太くん』
そう言って、ソラは微笑んだ。でもその笑顔に、少しだけ影があるのを俺は見逃さなかった。
「ソラちゃん?何か心配事でも?」
『ううん、何でもないの。ただ……』
「ただ?」
『健太くんと一緒にいると、とても安心するの。でも同時に、不安にもなる』
「不安?」
『健太くんが、私のことをどう思ってるのかな、って』
その言葉に、俺の心臓が高鳴った。
これは……告白フラグ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます