第三章「砂漠のドラゴン編」第8話「砂漠の城」
セレナは落下したヴェダーの元へ、ゆっくりと森の中へ降りていく。
ガラと、ドロレスは、セレナの背から飛び降り、大声を出して、ヴェダーを呼んだ。
「おーい!ヴェダー!悪かった!合図を送ろうとしただけなんだ!」
「生きてるかー?」
セレナも辺りをキョロキョロと見渡し、彼を探している。
ヴェダーが落下した森は、大きな針葉樹林で、木の一本一本が恐ろしく大きく長い。まるでガラたちが小人になったかのようである。
すると、上の方から声がしてきた。
「貴様!許さんぞ!俺に不意打ちを喰らわすなんてな!」
ヴェダーは、木に引っかかって逆さまにぶら下がっていた。
「おっ!いたいた!いやぁごめんごめん!力の加減を誤った!あんたのペガサス速すぎるからさ、もう少しゆっくり飛んで欲しかったんだ!」
ドロレスは、ぶら下がっているヴェダーを見上げながら言った。
ヴェダーは、チッと舌打ちをし、引っかかっている木を何とか外そうとした。その時、バキバキと木の枝が折れ、ヴェダーが落下してきたのである。
「やばい!」
ドロレスは、咄嗟にヴェダーを受け止めようと落下地点までダッシュしたが、ヴェダーは一行に落ちてこない。ドロレスは、おや思って、上を見上げた。
すると、ヴェダーがフワフワとまるで羽毛のようにゆっくりと降りてきた。そして、そのままドロレスの目の前に着地したのである。
「なんだ?今の魔法か?」
ドロレスが言うと、ヴェダーは、体に付いた木の枝を手でパッパと払いながら言った。
「俺は風の民の末裔だ。常に俺の体は“風の祝福”を受けているのだ」
“風の祝福”とは、風の精霊が体のまわりを覆い、その人を守ってくれるはたらきである。
高いところから落ちたり、また高く飛んだりも出来る。ヴェダーのペガサスが速いのも、風の祝福により、空気抵抗を極力少なくしているからである。
ヴェダーは、苛立ちながらドロレスに言った。
「まったく!なんて強引な合図だ!もっと他にやり方があるだろう」
ドロレスは頭をかきながら答えた。
「ごめんごめんて!だってさ、お前のペガサスが速すぎてさ、あれだとセレナの体力が持たないよ!」
ヴェダーは、ぷいと空の方に振り向いて、ピッと口笛を鳴らした。
「いいか、これは遠足じゃないんだぞ。一刻一秒を争う正義と悪魔のレースなのだ!」
そう言うと、空からヴェダーのペガサスが舞い降りてきた。
そこでガラがヴェダーに声をかけた。
「だが、もうほぼ1日飛びっぱなしだ。さすがのセレナもへとへとだぜ。俺も腹減ってきたし」
セレナはいつの間にか人間の姿に戻り、服を着ている。そしてヴェダーに言った。
「ヴェダー腹減った!休もうよ!」
ヴェダーは、皆に目線を一人ずつやると、ふうとため息をついて言った。
「わかった、わかった。ではここらで休憩しよう…」
ガラたちは、テントを張り、食事を取った。
ドロレスは、ヴェダーに尋ねた。
「今どこら辺まで来てるんだ?」
ヴェダーは、串焼きの肉に齧り付きながら答えた。
「この森を抜ければ砂漠に入る。さらに南へ進むと、巨大な川とオアシスが見えてくる。そこの中心がサーバスだ。あと1日くらい飛べば着くだろう」
ガラはさすがに速いなと思った。
パンテラからサーバスまでは徒歩で三〜四ヶ月はかかる距離である。ヴェダーの時間短縮案は、確かに的を得ている。
移動時間が短縮されればされるほど、捜索の時間に割けるというわけだ。
「サーバスへ着いたら、まず神殿に向かうのか?」
ヴェダーは答えた。
「トレント王から書簡を預かっている。公式の文書だ。まずは、サーバスの王に会い、緊急事態ということをサーバスにも知らせよう。極力無駄な時間は避けたい。変に怪しまれて捕まるなんてもっての外だ。すぐ神殿へ案内してもらって、そこで調査開始だ」
ドロレスは感心した。
「さすがだな!準備万端じゃないか!」
ヴェダーは「はぁ」とため息をつきながらドロレスに言った。
「お前らな、何も考えずにサーバスに行こうとしてたのか?事は一刻一秒を争うんだ。やれることをあらかじめ準備しておかなければ、あっという間に一ヶ月なんて経っちまうぞ!」
ドロレスは、ふんと鼻をならし串焼き肉に齧り付いた。
【サーバス王国】
国土のおよそ8割が砂漠であり、東西にオズボン川が流れている。そのおよそ中央にオアシスがあり、首都「アイウォミ」がある。王である「ギーザ8世」は、奔放な性格で、妾が実に80名もおり、国中の美女を集めては、祭りや神事を頻繁に催していた。
外交的には、神聖ナナウィア帝国と対立しており、クァン・トゥー王国が勃興してくるまでは、ほとんどその二国間での争いが絶えなかった。
また勇者の墓であり、聖なる竜と崇められているアディームの神殿には、ドラゴンのオーブの他に、古代からの様々な財宝が眠っているとされている。歴史は古代魔導王朝よりも古く、起源はおよそ、5000年も前だとされている。
ガラたちは、その日は森の中のテントで一晩休み、翌朝早くに出発しようと決めた。
「近くに小川が流れてたから、水汲んできたよ」
「おう、ありがとな」
ドロレスは、桶いっぱいに水を汲み、ガラは夕食の準備をしていた。
「あれ?“風のあいつ“は?」
“風のあいつ”とはヴェダーのことである。
ガラとドロレスの間では、その名で語るようになっていた。
「ん?そこら辺にいないか?さっきまでそこで薪を割っていたんだがな…」
ドロレスはあたりを見回してみたが、誰もいる気配がなかった。
「セレナもいないぞ?」
ガラは、獲れたての獲物を捌きながら言った。
「セレナは小川で体を洗ってくるって言ってたぞ」
ドロレスは、ふーんと言いながら考えたが、ふと嫌な予感がした。このタイミングでセレナとヴェダーが居なくなるのはおかしい。
ドロレスは、ガラにちょっと二人を探してくると伝え、再び小川の方へ向かった。
森の奥深くを縫うように流れる小川は、下流へと進むにつれ水かさを増し、サラサラと水音を響かせながら、濃い青緑色の池へと静かに注ぎ込む。
そこでは、別の峰から滑り落ちる川が小さな滝を織りなし、銀の飛沫を散らして同じ池に集っていた。
セレナはその小さな滝の下で水浴びをしていた。彼女の白く透き通るような肌は、滝から落ちる飛沫を弾き、それが夕陽に照らされ、キラキラと輝いていた。
ドロレスは、セレナに声を掛けようと手を上げたその時、セレナがいる滝の上に人影が見えた。
「ん?あれは何だ?」
ドロレスは咄嗟に息を潜め、池の周りを忍び足でぐるっと回りながら、滝の上まで近付いて見ることにした。
ドロレスがその人影に近付いてみると、そこには、金髪で耳の尖ったハイエルフがしゃがみこんでおり、滝の下を覗いていたのである。
「うおお…なんと美しい…あれはまさしく女神、竜の女神だな…」
ドロレスは、そのハイエルフが誰なのかすぐに分かった。ドロレスは、ハイエルフの背後まで近付いたが、一向に気が付かれていない。
「おい…」
「うおお!この尻も目に焼き付けておかなければな…」
「おい」
「おおっ!こっちを向け!もっとこっちを…」
「おい!」
その声でハッと気付いたハイエルフは、ガバッと立ち上がり、くるっと振り向いた。
「どわっ!ド、ドドド、ドロレス!」
やはりそのハイエルフはヴェダーであった。
彼が振り向いたそこには、ドロレスが鬼の形相で腕を組んで立っていたのである。
「風の祝福を受けたいのか?」
「へっ?風の…」
ヴェダーは、意外なドロレスの言葉に、何を返したら良いか一瞬戸惑った。その数秒のうちに、既にドロレスの膝蹴りが、ヴェダーの股間に深くめり込んでいたのである。
「んぐぅふっ!?」
ヴェダーは、激痛が走る股間を抑え、悶絶しようとした。しかし、その刹那ドロレスの動作は既に次の段階へと入っていた。即ち、それはヴェダーの顎下から突き上げてくる拳のことである。
パキャッ!
ヴェダーは、宙を舞った。
顎は大きく空に上がり、ヴェダーの体ごと川の水の飛沫が夕陽に照らされ、キラキラと輝きながら、そのまま滝の下へと落ちていったのである。その時、ヴェダーは、やっとドロレスの言葉の意味を理解したのである。
しかし、ヴェダーは、ドロレスに伝えたいことがあった。それは、“風の祝福”の効果は、何故か水面には適応しないということである。
ヴェダーはそのまま、真っ逆さまに滝壺へ落ちた。
セレナのすぐ背後であった。セレナが立っているところからすぐ背後は、数メートルの深みがあった。それが不幸中の幸いであった。もし、セレナの目の前に落ちていたら、命を失っていたのかもしれない。ドボーンという水飛沫にセレナは驚いた。
「きゃっ!」
セレナが上を見上げると、そこにはドロレスがおり、手を振っていた。
「セレナ〜!アホなエルフがいたから退治しといたぞ〜!」
そして、日が沈み、あたりは星空が一面に広がった。
「ぶふぇっくし!」
ヴェダーは、ガタガタと震えながら、焚き火に当たっている。焚き火の上には、びしょ濡れのエルフの装束が木に吊るされて干されている。
「まったく!あたしの嫌な予感が当たったな!やっぱりこのパーティーについて来て正解だったよ!」
ドロレスは、スープを飲みながら切り株に腰掛け、鼻息荒くヴェダーにわざと聞こえるような声で言った。
セレナはクスクスと笑っている。ガラは呆れた顔でヴェダーを見つめている。
「ゴホン…ま、まぁ、あれだな。ドラゴンの女というものがどういうもんなのか、見て確かめたかったんだ…その…学術的に…」
ヴェダーの弁解は、まるで大海原に石ころを投げ入れるかのように、何一つとして彼らの心には響かなかった様だ。
ドロレスは、ヴェダーの視線がチラチラとセレナの方を向いていたのは、前から薄々と感じていた。確かにセレナは、絶世の美女であり、心は生まれたばかりの赤子のように純粋である。
彼女の魅力に誰しもが惹かれるのは当然であろう。
無論ドロレス本人も、セレナのことが大好きであった。彼女は異性愛者ではあるが、セレナの美しさ、可愛さは放って置けないほど愛おしく、そして人間の嫌味のようなものがまったくない。
すべてを受け入れてくれる女神のような包容力は、一緒に居ると心から安堵する感覚があった。
だからこそ、この美しい娘に近付く“悪い虫”には目を光らせておかなければいけない。
ドロレスは、ガラに向けて言った。
「ガラ!あんたがハッキリしないと、この子は他の男に取られちまうぞ!」
ガラは困惑している。頭をポリポリと掻きながらバツが悪そうにスープを皿によそっている。
「あ、まぁ、あれだ、その…」
ガラもセレナに対して愛情はあった。セレナが自分に対して好意を持ってくれているというのも分かっていた。しかし、セレナのドラゴンとしての生き方を尊重すべきか、自分の気持ちを伝えて、彼女と一生共にするのか揺れていたのが事実である。
ドロレスは、ガラを見て、はぁとため息をついた。
「ったく、これだから男ってのは…」
ドロレスは、ガラの気持ちも実は分かっていた。だが、それも分かっていてもガラに強く当たってしまう自分にも、彼女は苛立っていたのである。
その時、セレナがすっと立ち上がり、ヴェダーの方へと歩いていった。
「ん、セレナ…どうした?」
セレナは腰を屈め、ヴェダーの唇にキスをした。
「んっ!なんで!?」
ヴェダーは、驚いて腰掛けから落ちた。
ガラとドロレスも驚いて立ち上がった。
「セ、セレナ!」
「お前…何を!?」
セレナはニコニコしながら、言った。
「はじめからこうすれば良かった。これで飛んでいても話が出来る!」
ドロレスは、頭をグシャグシャと掻きながら言った。
「セレナ〜!確かにそうだけど、今それをやると奴が勘違いしちまうよぉ〜っ!」
ガラは首を振って笑った。
ヴェダーは、すくっと立ち上がってセレナの両肩に手を置き、セレナの目をじっと見つめた。
「セレナ!好きだ!」
セレナはあははと笑い、ヴェダーの頭をポンポンと叩いた。
「私も好きだよ!ありがと!」
ドロレスもこの滑稽なやりとりを見て笑うしかなかった。
「こりゃ楽しい旅になりそうだ…」
ーそして、次の日の朝、まだ東の空が白み始めた頃、ガラたちは砂漠の国サーバスへと出発した。
深い針葉樹林を抜けると、広大な砂漠が目の前に広がった。気温はぐんぐんと上昇し、照りつける太陽の日差しがガラたちの肌に突き刺さる。
「こいつは、しんどいな…」
前を飛ぶヴェダーも徐々にスピードが落ちていく。その時、ヴェダーが東の方を指差し、ガラたちに何かを伝えている。
「セレナ、ヴェダーは何を言ってるんだ?」
ドロレスがセレナに聞くと、セレナは思念でヴェダーに尋ねた。
《東の空を見ろ。砂の嵐がやってくるぞ!って言ってる》
「な、何だって!?」
ガラは、目を凝らして東の空を見た。遥か向こうの地平線近くが何やら黒く“もや“がかかっている。
それは段々と近付いてきて、真っ黒な雲の塊が波のように押し寄せて来るのが分かった。
「うおお!何だあれは!?」
真っ黒い雲の中では、パッパッと稲光が見え、物凄い勢いで暴風が吹き荒び、渦を巻いているようであった。
その時、セレナがガラたちに伝えた。
《ヴェダーが、谷を見つけたみたい!そこに避難しようって!》
ヴェダーと、セレナは、大きく旋回し、岩山が谷のように割れている場所に降り立った。
既に彼らの上空は、ビュービューと暴風が唸っていた。
「目を開けるな!砂嵐が去るまでクロークを被ってじっとしてるんだ!」
セレナは人間の姿に戻り、ガラたちと一塊になってうずくまった。
風はどんどん勢いを増し、嵐が近付いてくるのを感じた。
「来たぞ!エアロスミス!」
ヴェダーは中心に立ち、手を上にあげて、風の魔法のシェルターを作り出した。
「凄いな、風の魔法か!」
「ああ、だが完全には防げんぞ!目を閉じて鼻と口を布で覆うんだ!」
ゴーゴーと勢いを増し、凄まじい暴風が谷の上を通過している。
ガラがクロークの中からヴェダーに聞いた。
「これも魔王の仕業なのか?」
「まさか!いや、これは砂漠にとっての“日常”だ。早く過ぎ去ってくれればいいが…」
幸いにも1時間程で砂嵐は去っていった。ヴェダーが懸念していた通り、時には一日中嵐が去らないこともあるという。
その時、ドロレスが少し笑いながら言った。
「あはは、分かったからもう離していいよセレナ。もう嵐は去ったから…」
セレナは、きょとんとしている。
「え?私何も掴んでないよ?」
セレナは両手をあげてドロレスに言った。
「え?だって、あたしの足を掴んでただろ?じゃあ、ガラか?」
ガラも両手をあげた。
「いや、俺はさっきから普通にしゃがんでただけだぜ」
ドロレスは、自分の足元を見た。
すると、何やら大きな触手のようなものが足に巻き付いていたのである。
「ゲッ!な、何だこれ!?」
その瞬間、無数の触手がびゅーっと伸び、ガラとセレナの足にも巻き付いてきた。
「ぐわっ!」
「きゃっ!何これ!」
ヴェダーは、何事かと振り向いた。
「しまった!ここはサンドワームの巣か!」
その瞬間、ガラ、ドロレス、セレナは、巻き付いた触手に谷の奥まで引き摺り込まれてしまった。
3人とも物凄い勢いで、引き摺り込まれていく。彼らの引き摺られた後を砂埃が舞う。
「くっ!どこまで引き摺ってくつもりだ!」
「この変なの取れない!凄い力!」
ヴェダーは、すぐに口笛でペガサスを呼び、彼らを追い掛ける。
「フライヴィ!」
ヴェダーの手から風の魔法の刃が放たれる。
シュバッ!とセレナの足元に絡みついている触手が切り離された。
セレナはゴロゴロと横に転がって止まった。
しかし、まだガラとドロレスは、引き摺られたままである。
ガラは、引き摺られながらも、手を触手へとかざし、狙いを定めた。
「ファズ!」
ガラの手から光球が放たれ、触手に当たり爆発した。
ドーンという音と共に、触手はちぎられ、ガラはズザーっと砂を滑り、そこで止まった。
「ドロレス!」
ドロレスは、未だに引き摺られているが、その先に何やら大きな穴が空いているのが見えた。
「ヤバい!このままではその穴に引き摺り込まれるぞ!」
セレナはドラゴンになり、足でドロレスの肩を掴んだ。
しかし、ドロレスに巻き付いた触手は、離そうとしない。
「ぐあああっ!足がちぎれそうだ!」
ドロレスは、苦しそうにもがいている。
ヴェダーは再びフライヴィを放ち、ドロレスの触手を切り飛ばした。
その時、穴から凄まじい鳴き声が聞こえてきた。
「ギャァース!!」
その時、ドーンという音と共に、穴から巨大なワームが姿を現した。
ガラたちがかつてサーティ平原の沼地で出会ったワームとは比べ物にならないくらいの大きさである。巨大なワームは天高く、太くて長い体を伸ばし、太陽の光を遮った。
「で、デカいぞ!」
セレナはすぐにガラとドロレスを掴み空高く飛び上がった。
ヴェダーも旋回し、ワームから遠ざかるように飛び上がる。
ある程度距離が離れると、サンドワームは再び穴に潜っていった。
「ふう、こんなデカいサンドワームは初めてみたな…」
ガラが呟くと、ヴェダーは言った。
「これはおそらく魔王の影響だろう。魔物の力が強まっている。早くサーバスへ向かわなくては…」
ガラ一行は、再びサーバスへと向かった。
しかし、広大な砂漠は、どこまでも続いているかのようであった。見渡す限り地平線が続き、太陽の光がまたしても彼らを襲った。
「も、もう限界だ…水も尽きたし…」
ドロレスは、ぐったりしていた。
セレナも段々とスピードが落ちていく。
《ドロレス…しっかり!》
ガラはドロレスにクロークを被せた。
「後少しだけ辛抱しろ。もう少しでオアシスが見えてくるはずだ」
「ったく、あんたは火の民だからいいよな。暑さなんて全然感じないんだろ?」
ガラは答えた。
「ん?まぁ、そんなに暑いと思ったことはねぇな…」
ドロレスは悔しさのあまり、後ろに乗っているガラに肘鉄をぶつけた。
「くそっくそっ!あたしも火の民になりたかった!」
その時、ヴェダーが前方を指差した。
《見えたって!オアシスだ!川もあるって!》
「うっひゃーっ!!水だ!緑だ!でっかい川だ!」
目の前に広がる広大な緑とオアシス。
そして、その中央付近に巨大な川が見えた。奥には黄金に光り輝く荘厳な城も見える。そしてその周りには小さな滝や湖が無数にあった。砂漠の渇いた空気に、オアシスの湿気が混じっているのが分かる。ドロレスは、先程の疲れが吹き飛んだように喜びを爆発させた。
「ついに来た!ここが、サーバスか!」
ヴェダーは、ペガサスを降ろした。
ガラたちは、オアシスの中へと進み、サーバスの首都「アイウォミ」にある「パラノ城」へと向かった。
オアシスの中は、ヤシの木やサボテン、シダの葉など様々な植物が生い茂り、聞いたことない鳴き声で鳴く鳥など、まるでジャングルのようであった。次第に住居がちらほらと見え、増えていく。そして、市場のように様々な店が立ち並ぶ通りに出た。
「うわ〜!こんな砂漠のど真ん中にこんな盛り上がってる場所があったなんてな!」
ドロレスとセレナは目を輝かせて、街をキョロキョロと見回した。
行き交う人々は、商人や農民、旅人など様々で、ガラたちに近寄ってくる物売りなどもいた。屋台からスパイスの効いた食べ物の匂いが漂い、そして、お香のようや心の安らぐ匂いもしてきた。
街の中には、金の像などの装飾も多く、煌びやかな雰囲気が所々に点在していた。
そして、ガラたちは、黄金の装飾が眩しいサーバスの城「パラノ城」の門の前に辿り着いた。
門番が出てきて、ガラたちに尋ねた。
「ここはサーバスの中心、アイウォミのパラノ城である。旅人よ、何の用で参った?」
ヴェダーは懐からトレント王からの書簡を出し、門番に渡した。門番は、書簡を受け取り城の中へと入っていった。しばらくすると門が開き、ガラたちは城の中へと入っていった。
「よし、ここまでは順調だな!」
ドロレスは、得意気に腰に手をやり、先頭をズンズンと大股で城の中に入ったが、急に立ち止まった。後に続くガラたちがドロレスにぶつかってしまった。
「っと!いきなり立ち止まんな…
ガラがドロレスに注意しようとするのを遮るように、ドロレスはガラに手をぶんぶんと振り、上を見ろと指差した。
そこには、黄金に光り輝く星型の紋章のタペストリーが掲げられ、黄金の鎧などの装飾、幾何学模様柄の陶器、花崗岩の柱に大理石の床など、まさに贅の限りを尽くした絢爛豪華な大広間があった。
「こいつは凄い…!」
「サーバス…なんという財力だ…」
「おいおい、ここは天国かぁ〜?」
「キレイ!みんなキラキラしてる!」
そして、大階段の奥には、巨大な黄金の扉があった。両脇にいる兵士が扉を開けた。
「ぬおぉっ!」
ヴェダーは思わず声をあげた。
そこには、両側に沢山の美女が立っており、奥の玉座には、煌びやかな王冠を被り、艶のある髭を蓄えた恰幅の良い王の姿があった。
王の前に立っている従者が口を開いた。
「クァン・トゥー王国からの使者よ。よくぞ参られた。ここに座すのは、サーバス国王ギーザ8世陛下であらせられるぞ!」
ギーザ王は髭を触りながら豪快な笑顔でガラたちを出迎えた。
「ようこそ、我が国サーバスへ!」
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