第二章「エルフのドラゴン編」第8話「勇者アマダーン」

クァン・トゥー王国最強の戦士「勇者アマダーン」

彼は、元々南方砂漠の国「サーバス」出身であった。現地の呼び名では「アマンダール」とも「アマン」とも呼ばれている。恐るべき剣術の強さと、得意な強化魔法で、目の前の全ての敵を圧倒する強さを誇っていた。


かつてクァン・トゥー王国とサーバス王国は、長い間、戦争状態にあった。民の間では「50年戦争」ともいわれ、互いの民や、国土は疲弊し切っていたのである。

辣腕トレント2世は、サーバスと和平交渉をし、友好を築いた。

その頃、戦争孤児としてクァン・トゥーに保護されたアマダーンは、母国にかえることなく、そのままクァン・トゥーの国民として、成長していった。

剣術において天才的な才能を発揮した彼は、クァン・トゥー王国の兵士に志願し、名を馳せていった。

そこで、勇者英雄隊に引き抜かれたのである。

アングラは若き才能に目を付け、彼を最強の戦士として育て上げていった。剣術だけでなく、魔法や様々な学問、政治や哲学なども身に付けさせていった。勿論、彼自身の野望でもある、古代魔導王国復活の夢も語っていったのである。

アマダーンは、アングラの懐刀として重宝されていった。ありとあらゆる任務を淡々とこなし、時には目を覆う様な汚れ仕事をも難なくこなしていった。勇者となり、隊を率いてからもその勢いは止まるところを知らなかった。

ほとんどの隣国を滅ぼし、クァン・トゥー王国にとって脅威はなくなっていった。

もはや他国にとって、「勇者アマダーン」は恐怖の存在としてその名を轟かせていったのである。


『アマダーンが来たぞ』


これは、アマダーンへの恐怖によって、他国では子供たちを言い聞かせる文句として広まった言葉であった。


ガラはその男の強さ、冷徹さ、そして恐ろしさを嫌というほど知悉していた。味方でありながら、彼は絶対に敵にはしたくないと思っていたのである。

実は、勇者隊を離れた理由の一つでもあった。

一つの戦争を終わらせた後、再び報復によって戦争が始まり、また尊い命が犠牲になる。

人間は、憎悪によって自らを滅ぼす。その真理を彼は肌で感じていた。

しかしながら、アマダーンという男は、アングラから受けたありとあらゆる任務を難なくこなしていく。時に目を覆いたくなるほどに残酷なものもあった。


『我が国に刃向かうとこうなるぞ』


というメッセージを込めて、村一つ滅ぼしたこともあった。勿論、他国とはいえ、何の罪もない人々であった。女子供も容赦しなかった。

穏やかな片田舎で育った純朴な戦士には、あまりにも酷な仕事であった。精神的にも限界に来ていた。そして、その引き金が、妻の死である。

隊を離れる覚悟を決めた時、アマダーンは言った。


「ガラよ。お前は優し過ぎる。時に、人間は非情でなければ真の目的は達成されることはないのだ。力がなければ食い殺される。正義は強くなければならない。この世は修羅の世界なのだ」


その言葉はガラの耳朶(じだ)から離れることはなかった。


「アマン!久しぶりだな。まさかこんなところで会うとは…どうしたんだ?観光でもしてるのか?」


アマダーンは、昔の戦友の顔を見て少し穏やかな表情になった。しかし、それはほんの一瞬であった。

アマダーンは、ゆっくりと口を開いた。


「ガラ…炎のガラ…。俺の心は今、悲しさと虚しさ、そして怒りでいっぱいだ」


ガラは、アマダーンから目を逸らさず、唾を飲み込み、出来うる限りはっきりと穏やかに話し始めた。


「…アマンよ。俺は、お前のことはよく知ってるつもりだ。お前は一度引き受けた任務は、何があっても必ずやり遂げる男だ」


「…その通りだ」


アマダーンは静かに答えた。


「だが、今回のやつは…オーブは、ひとつの国の為に持ち出すもんじゃねえんだ。それはドラゴンでないとうまく機能しない。つまり…」


ガラがうまく伝えようと苦心しているところに、エズィールが助け舟をだした。


「オーブは、ドラゴンの霊力によってのみ効果がもたらされるのだ。そう作られておる。過去にも古代の知恵を付けた人間が、悪用した例はいくつかあった。しかし、それは世の中の理(ことわり)を歪める原因を作ってしまう。歪みは、深淵に結びついてしまう。つまり、魔王の眠りを覚ますことになってしまうのだ」


アマダーンは、眉を上げた。


「魔王だと?深淵…?」


エズィールは続けた。


「今の世の中の『魔王』ではない。真の「悪」であり、破壊と殺戮の根源。そなたも沼地や山で見たであろう。そこら辺の魔物とは違う。だが魔王に比べたら、あれはほんの「上澄み」だ。ドラゴンの民は、4人の英雄らとともに、奴を眠らせたのだ。完全に抹殺することは出来ない」


アマダーンは、目を閉じた。


「…なるほど。それがお前らの論理か。よく分かった」


ガラはアマダーンに言った。


「頼む。これはもはや一国の利益の為にする行動じゃねえんだ。アマンよ。ここは手を引いてくれ!」


ドロレスが続けて言った。


「あたしからも頼む!コンパルサで、魔導士が言ってたことあたしも聞いたよ。あんたらも平和を望む為にこれを使うんだろ?だが、オーブを使うのはリスクが大き過ぎる!」


アマダーンは、アズィールに目をやった。


「俺は、勇者だ。とはいえ、クァン・トゥーの一兵士に過ぎん。アングラ様は敬愛しているし、あのお方のお考えが的を外したことは一度もない。それに俺は一度引き受けた任務は全うしなければならない…それが勇者という者の使命なのだ」


そしてガラの方に向き、続けて言った。


「ガラよ。俺はお前たちよりも早くここに着いていたのだ。オーブを奪うなら既に奪えた。だが、何故ここにいるか分かるか?何故お前たちのことをわざわざ待っていたと思うか?」


ガラの額から汗が滴り落ちた。


「お前の裏切りは、俺が責任を持って処する。お前も、お前の仲間もな」


アマダーンの言葉に、ドロレスは言った。


「あんたは、アングラが死ねと言えば死ぬのか?そんなのただの操り人形じゃないか!自分の任務さえ果たせれば、世界なんてどうでも良いのか?」


アマダーンはドロレスを見つめた後、アズィールに目を向けた。


「俺は、このエルフのドラゴンの娘には、沼地で会った。向こうから近付いて来たのだ。彼女は、苦しんでいた…ドラゴンとしての生き方に。オーブを守護するという使命に生まれたドラゴンは、世の中を知ることもなく、ただただそこにいてオーブを守るだけの運命なのだと…」


エズィールは厳しい目をアズィールに向けた。

そしてそれはどこか切なくも見えた。


アマダーンはエズィールに言った。


「エズィール…エルフのドラゴンよ。どうか、彼女を解放してやってくれ」


そしてセレナに目をやった。


「シルバードラゴンの娘も同じ気持ちであろう。ならば俺が、オーブの呪縛から解放してやる」


アレサが叫んだ。


「なりません!さらに強大な魔物も出て来ます。それは、あなた方の国にとっても不利益のはず!」


アマダーンはアレサに言った。


「元老院よ。そなたらは我が国の反逆者を連れて何をしているのだ?自らの行動を棚に上げ、我を批判するのは、筋違いではないか?」


「そ、それは…」


アレサは口篭った。


「彼らは私の監視下にあります。わが国のドラゴンの危機を救いにこの場に来ていただきました」


「アズィールがここを出るかどうかは本人次第であろう。それともエルフは彼女の意志を聞き入れず、再びオーブの下に縛りつけるのであるか?」


その時、マコトが前に出た。


「勇者殿!拙者は東方エイジアより参ったリュウモン・マコトと申す。そなたのお国に対する忠義、誠に天晴れである!そして、エルフの竜の巫女よ!そなたの要望も納得の致すところである!しかしながら、この問題、どうかお国の為より、またご自身の自由より、どうか大局でお考え改めていただきたい。そなたらの行動は、世界全体の破滅に繋がる。これは長い目で見れば、そなたらにも必ず災いとなって降りかかること、火を見るより明らかである!どうか!」


マコトは正座をし、三つ指を立てて深く土下座した。


アマダーンは、マコトを見て言った。


「東洋人よ。頭を上げるがよい。俺はお前たちの考えは充分に分かった。…しかし、俺は俺の生き方がある。俺は主人を裏切れないのだよ」


アマダーンは、ガラたちを見回し、言い放った。


「我はクァン・トゥーが勇者アマダーン。もはや双方譲れぬとみた。ならば剣で決着と行こうではないか!」


アマダーンは腰に差している獅子をあつらったサーベル“ナラヤン“を引き抜いた。


「クソッ!」


ドロレスは悔しがったが、ガラたちもそれぞれ武器を手にして構えた。


アズィールは漆黒のドラゴンへと変身し、セレナは銀色のドラゴンへと変身した。


エズィールとアレサは神殿の前まで下がった。そこをエルフの護衛たちが囲んだ。


一瞬、静寂が流れた。

エルフの森「サイモン森林」に爽やかな風が降り注いだ。木々が揺れ、葉が擦れる音が聞こえる。


アマダーンは、目を閉じてサーベル(ナラヤン)を円を描くように振った。


その瞬間であった。


あっという間に、アマダーンは、ガラの目の前に近付き、ガラに一閃を浴びせる。しかし、ほんの紙一重でガラのメタリカが防ぐ。


「キィン!」


ドロレスとマコトは、そのあまりにものスピードに絶句した。


「な、なんだ今のは!?」


そしてアマダーンは、ガラに向けて物凄い速さで剣撃を繰り出す。ガラは防ぐのがやっとである。横からマコト、反対側からドロレスが攻撃を開始したが、同時によけられる。


「は、速い!」


その時、シュパッという音と共に、ドロレスの左腕から血が吹き出した。


「ぐあっ!」


ドロレスはよろけた。


そして、またしてもシュパッという音と共に、マコトの腿(もも)から血が吹き出したのである。


「見えない!」


マコトも足を押さえ、崩れた。


ガラの頬にもピッと刃が触れ、血が流れた。


「くそっ!」


アマダーンは3人を相手にしながら、圧倒的なスピードと正確さでガラたちを圧倒した。


「なんという速さと正確さだ!」


マコトは驚嘆した。

ドロレスはガラに言った。


「あの蜘蛛野郎が可愛く見えるな!」


ガラはドロレスとマコトに声をかけた。


「やつは何重にも自分に強化魔法をかけてる。普通の人間と思うな!」


ガラはアマダーンの前に手をかざした。


「ファズ!」


手から光球が飛び出し、アマダーンを襲う。

しかし、アマダーンはそれをナラヤンでかき消したのだ。


「俺に小細工は通用しない!」


「ふっ、やっぱりダメか…」


ガラはふっと笑った。楽観的な笑いではなく、絶望の淵に立った自嘲的な笑いであった。


「こいつに魔法は通じない。おそらくファイヤーハウスもな…」


ガラの言葉に、ドロレスは言った。


「くそっ!いざとなればそれを考えてたんだけどな!」


ガラたちの横では、セレナとアズィールがドラゴン同士の攻防を繰り広げていた。


アズィールの爪がセレナの顔面に当たり、セレナは苦痛でよろけるが、すぐさま尻尾を振り払い、アズィールの足元に強打させる。

そして、セレナは空に飛び上がり、それをアズィールが追う形で飛び上がる。

セレナはアズィールに炎を吹きかける。しかし、アズィールは氷の息でそれを相殺したのだ。


ブワッ!!という音と共に、大量の水蒸気が発生した。それは霧のように二匹のドラゴンの姿を隠した。

しかし、その霧からアズィールが突っ込み、セレナに体当たりを喰らわした。


セレナは苦しそうに、落ちていく。


しかし、すぐに体勢を立て直し、再び空に戻ってくる。


《あなた、なかやかやるじゃない…》


アズィールは、思念でセレナに語りかけた。


《オーブを奪うのも、私たちを攻撃するのも止めて!同じ人間同士、同じドラゴン同士、なぜ傷つけ合うの!?》


セレナはアズィールに訴えかけた。しかし、アズィールは怒りを込めた口調になった。


《あなた、ほんっと馬鹿じゃないの!?あなたのところのオーブは誰が見てるのよ!まだあの老ぼれかしら?》


《ヴァノが守っている。竜族も近くで見守ってくれている!》


アズィールは、吐き捨てるように言った。


《オーブもヴァノも見捨てたあなたに、私のことを言う資格なんてあるのかしら?》


セレナは少し黙ったあと、静かに言った。


《…分かってる。私もあなたと同じ。人間たちや外の世界が見たくなって外へ出た》


《…》


アズィールは黙ったままセレナを見つめている。


《ヴァノは…多分、もうそんなに長く生きられない。私には分かるの。いつかは私がオーブを守らなきゃいけない。…だから、最後に私は外の世界を見ておきたかった。人間たちや、街…


セレナは途中で黙った。そして、また話し始めた。


《でもあなたは、ずっと二人で守らなきゃいけなかったんだよね。私はあなたのことを責めることは出来ない…》


アズィールは、攻撃体制を解いて言った。


《私たちは似てるわね。ドラゴンとは悲しい生き物なのよ…》


しばらく無言が続いた。それは数十秒間、いや数秒間だったかもしれない。


突然アズィールは氷の息をセレナに吹きかけた。


「ぐわっ…!」


セレナは凍り付いたまま落ちていき、ズーン!という地響きと共に地面に埃が舞った。


「セレナ!」


エズィールは、上を見上げた。

アズィールは口から凍りついた水蒸気をゆらゆらと出しながら、ガラたちとアマダーンとの熾烈な戦いを見下ろしている。


アマダーンは、セレナが凍り付いて地面に落ちたのを見て、アズィールの名を呼んだ。


アズィールは、物凄い勢いで、アマダーンの方へ突っ込んでいき、口を開け、猛吹雪のような突風をガラたちに吹きかける。

その瞬間アマダーンは、さっと後ろに大きくジャンプした。


「し、しまった!」


なんと、ガラたちはその場に氷のように凝固されてしまったのであった。


それを見届け、アマダーンは、神殿の方へ歩き出した。アズィールもエルフの姿に戻り、後に続いた。


「皆のもの!何としても神殿の中へ入れてはいけません!」


アレサは護衛たちに指示を出し、エルフの護衛たちがアマダーンを囲んだ。


「何人かかろうと同じことだ…」


ズババッ!と音がしたあと、一瞬にして、護衛たちは全員その場で倒れた。


あまりにも速い動きで、エズィールとアレサは何が起きたのか分からなかった。

アマダーンは、神殿の入り口へと歩き出した。

エズィールは、アマダーンの目の前に立ちはだかり、両手を広げた。


「ならぬ!誰人にもオーブは渡さん!」


ズンッ!


気が付くと、アマダーンの刃がエズィールの腹を貫いていた。


「エズィール!」


「がはっ!」


エズィールは、血を吐きその場に崩れ落ちた。


すぐにアレサが駆け寄った。

アズィールは、目を逸らした。


「あなた!何てことを!」


アマダーンは、アレサに刃を向けた。刃からエズィールの血が滴り落ちている。


「これ以上、被害を増やしたくなくば、無駄な抵抗は止めることだ」


アマダーンとアズィールは、神殿の中へ入っていった。しばらくすると、白く光り輝くオーブを脇に抱えながら、アマダーンとアズィールは神殿から出てきた。

アズィールは、再びドラゴンの姿になり、アマダーンを背に乗せた。


「ではクァン・トゥーへ向かうとしよう!」


アズィールが飛び立とうとしたその時であった。


「いた!こいつらだ!」


ハーフリングのニコである。彼はアマダーンが現れた時、すぐにルカサに向かい、応援を呼んだのであった。

ニコの後ろから、エルフの護衛たちと、元老院でハイエルフのヴェダーが駆け付けた。


「待て!貴様!そこで何をしている!」


ヴェダーが叫んだ瞬間、アズィールは氷の息を彼らに吐いた。猛吹雪のような突風がニコたちを襲う。


「エアロスミス!」


ヴェダーは咄嗟に空気の半円状の膜のようなものを作りだし、ニコたちを包み込んだ。

猛吹雪はあっという間にニコたちを覆った。


そして、アズィールはアマダーンを乗せたまま飛び上がって行った。


次第に半円状の膜がパリンと割れ、中からニコたちが出てきた。


「ありがとう!助かったよ!」


ニコは間一髪でヴェダーに救われたのだ。


ヴェダーはアレサに気付き駆け寄った。

アレサはエズィールに白魔法をかけ手当てをしながら一部始終を話した。


「なんてことだ…アマダーンとアズィールが組んでいたなんて…!」


ヴェダーは、凍り付いたガラたちを見た。


「これは…アズィールの息か!これ程までに凍らせる力を持つとは!」


そして、凍り付いたまま横たわるセレナを見た。

その時、セレナの口元がぼんやりと光っているのに気が付いた。


「これは…竜の巫女か…巫女でさえも、凍らせるとは…うん?なんだ?口の中が光って…


その瞬間であった。セレナの口が光輝き、顔の部分の氷が爆発したのだ。


ヴェダーは、その爆発に巻き込まれて後ろに吹っ飛んだ。


「ぐわーっ!」


セレナは自分の凍っている下半身に自ら炎を吐いて氷を溶かし、ガラたちにも炎を吐いて氷を溶かした。

次第にガラたちは氷が溶け、その場で倒れ込んだ。


「う、う…これは一体…」


ドロレスが目を覚ました。


「な、何をされたんだ…」


マコトは頭を抱えながらあたりを見回している。

アレサはガラたちに、アマダーンとアズィールがオーブを持って逃げたと伝えた。

ドロレスは、セレナの様子がおかしいことに気が付いた。


「セレナ!」


ドロレスがセレナに近付くと、セレナは人間の姿に戻り、涙を流し、うずくまっていたのである。


「うっ…うっ…私は…止められなかった!アズィールを止められなかった!」


ドロレスは、しゃがみ込みセレナを優しく抱きしめた。


「大丈夫だ。オーブはこれから取り返しに行けばいい。セレナはセレナだよ。あいつとは違うさ」


セレナは顔を上げ、ドロレスを見つめた。


「私には分かるの!アズィールの気持ちが!同じ気持ちが!でも…私もコンパルサを見捨てたんだ」


エズィールはその様子を黙って見つめていた。


「セレナよ。コンパルサではヴァノがオーブを守ってくれている。お前はアズィールとは違う。…だが、困ったもんだのう。例えオーブを持ち帰ったとて、アズィールが再びオーブを守護してくれるとは思えん…」


ガラはエズィールに言った。


「ともかく、今のままでは奴に勝てない。クァン・トゥーでは魔導士や憲兵もたくさんいるし、守りも堅い。作戦を練らないとな」


ヴェダーが後ろから皆に声を掛けた。


「やれやれ、飛んだことになったなぁ〜。俺はあの勇者を買っていたんだが、まさかこんなことになるとは…」


アレサがヴェダーに言った。


「初めから私たちは騙されていたのよ。これはエルフ全体を侮辱する行為よ!絶対に許せないわ!」


エズィールは、皆に言った。


「ともかく、これはまさに世界の危機だ。元老院をもう一度招集し、作戦を練らねばなるまい!」


ガラたちはもう一度ルカサに戻り、ことの顛末を伝えた。元老院たちは驚き、また怒りに打ち震えたのである。

そして、エズィールの言う通り、魔王の復活という最悪のシナリオを想定し、隣国への協力要請を立案したのである。


一方その頃、アマダーンとアズィールは、サーティ平原からクァン・トゥーの首都「サーティマ」へ向かっていた。


《勇者様は、やっぱりお優しいのね》


「どういうことだ?」


アズィールは思念でアマダーンと語り出した。


《だって、はじめは彼らを処刑しようとしてたじゃない》


アマダーンは少し間をおいて言った。


「なぁ、彼らが言う魔王の復活とは本当なのか?」


《あら、勇者様も恐れを抱いているのかしら?》


アマダーンは、エズィールが言う魔王の復活というオーブの危険性を知り、心の中で少し葛藤が生まれていたのである。


アズィールは続けた。


《オーブを誤って使えば、確かに深淵に触れてしまう。それはとてもリスクが高いのよ。アングラとかいう男がどれ程オーブのことを知ってるか分からないけれど、私が知る限りうまくやれた人間はいないわ》


「…」


アマダーンはただ静かに何かを考えているようだった。


《着いたわ。サーティマよ》



第二章完。

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