第二章「エルフのドラゴン編」第5話「山の麓のニコ」
ゼオ村の北側からポカロ山脈の方向へ出ると、風景は打って変わり、青く美しい山々が視線いっぱいに広がる。道も徐々に傾斜し、木々も増え、山の麓へ近付いているのが分かる。
ガラたちは、ゼオ村で英気を養い、ジョン爺が教えてくれた、スィーゲの息子ニコに会いに、山の麓の小屋へ向かった。
山の上の方では、何やらギャアギャアと鳥のような鳴き声が聞こえてきた。
「なんだか変な声で鳴く鳥だな…」
ドロレスが呟くように言うと、ガラが答えた。
「いや、あれは鳥じゃねえ。ハーピーだ」
「げっ!あんなにたくさんいるのか?」
ハーピーとは、山などに棲む魔物であり、鳥の翼、尾、足を持ち、上半身と顔は人間の女性の様な姿形をしている。悪戯が好きで、時々、旅人を襲ったり、食べ物を奪ったりするので、あまり近付かない方が良いだろう。
(「クァン・トゥー放浪記」より)
「まこちょん…あの姿に惑わされんなよ〜」
ドロレスは悪戯っぽくマコトに言った。
「せ、拙者、かような“もののけ“に興味などござらぬ!」
マコトは鼻息を荒くして、先頭をズンズンと道を進んで行く。
その時、ハーピーの一匹が突然急降下してきた。
「マコト!気をつけろ!」
ガラが叫んだ。
ハーピーは足でマコトの肩をガシッと掴み、空へと飛び上がった。
「わわわ〜!!」
「マコト!」
ドロレスはメガデスを構えて、ハーピー目掛けて投げた。
メガデスは、シュルシュルと飛んでいきハーピーの体を横に真っ二つにした。そのままマコトは地面へ落下した。
「ぐえっ!」
「気をつけろって!あいつらはああやって旅人をさらって行くんだ!」
ガラは空を見上げながらマコトに忠告した。
ハーピーの体は地面に落ち、マコトはそれを見た。確かに上半身は女性の裸体だが、手は大きな鳥の翼のようであった。
「ぐぬぬ、不覚なり…!」
セレナは辺りをキョロキョロと見回し、何やら神妙な顔で言った。
「ガラ、何かおかしいよ。魔物が多い気がする…」
「確かにそうだな。さっきの沼地といい、本来ならハーピーは、こんな麓の方には現れないはずだ」
セレナは先日の沼地といい、異様な邪気が漂っているのを感じ取っていた。
「どおりで最近は、北方の平原あたりの仕事が減ってた訳だ…ふん!どうせまたここにもデカい奴が出てくるんじゃないのか〜?」
ドロレスは少しヤケクソ気味に言い放った。
「もうあんなべちょべちょぐちょぐちょは、こりごりだけどな!」
一行はハーピーに警戒しつつ、一軒の小さな小屋を発見した。
小屋には小さな窓と小さな煙突があり、煙突からは煙が立ち込めていた。
どうやら人が居そうな気配がする。
そして小屋の横には犬小屋もあった。すると、その中から黒と白の長い毛の犬が現れた。
「ワンワン!」
犬はガラたちを発見し、走ってきた。
「ハッハッハッ」
犬は尻尾を振り、ガラたちのまわりを走り回った。
ドロレスは、座って犬を撫でた。
「おーおー可愛いワンちゃんだね。お前さんの主人はニコってやつか?ん?」
犬はゴロンと寝転びお腹を見せている。
「可愛い〜!」
セレナも犬を撫でようと犬に触れた。
その時、セレナは不思議な感覚に襲われた。懐かしさと、愛おしさ。遠い記憶の断片であろうか。しかし思い出せない。しかし、あまりに一瞬な出来事であった為、セレナは気のせいだと思うことにした。
「ん?セレナどうかしたのか?」
「うん、いや何でもないよ」
その時、小屋のドアが開き、一人の男が出て来た。ハーフリングである。青黒い髪に、茶色い帽子、分厚いメガネを掛けており、革の前掛けをしていた。
「ペイチ!どうした?お客さんか?」
そのハーフリングの男は、ガラたちを見るとメガネを少し外して言った。
「あれ?あんたらゴブリンじゃあないようだな…何か用かい?」
ガラは答えた。
「あんた、ニコ・ネグィースか?俺はガラ。トトに向かう為にあんたの力を貸して欲しいんだ」
ハーフリングの男は肩をすくめ、両手をあげて言った。
「はっ!トトに?トトに行くって?どうやって?このハーピーやケツァルコアトルが、うようよしてる山を登るってのか?鉱山の中を通ったって、トロルやオーガもウヨウヨいるぞ!あんたら一体何考えてんだ?」
ハーフリングの男は、あしらうようにしてガラに言った。
「悪いことは言わない。帰った方がいいぜ!今の山は昔と違う。命が幾つあっても足りないぞ!」
ガラは言った。
「スィーゲ…スィーゲ・ネグィースは、あんたの父親だろ?ルワンゴっていうドワーフから手紙を預かってんだ」
「…なんだって?親父を?」
ハーフリングの男は怪訝な表情に変わり、ガラたちを見回した。
「ああ、とりあえず中に入ってくれ」
ガラたちは小屋の中へ入った。
「ああ、俺がニコさ。たしかガラだっけか?…残念だが、親父は数年前に病気で死んだよ」
ガラはジョン爺がこの小屋を尋ねろと教えてくれたと伝えた。
「ああ、あの爺さんまだ生きてたのか。分かったよ。とりあえず手紙を見せてくれ」
【数年ぶりに、手紙を書く。お前のことはもう忘れようと思っていたが、どうしても助けて欲しい友人がいる。それは、お前の目の前にいるガラという男だ。だがオラは人に恩を着せるのは好きじゃないことを分かって欲しい。
お前さんが鉱山でオラに命を救われ、お前が御礼をしたいと言っても、オラは何も要らないと言った。だが、オラの愛するマングー村を救ってくれたこの男が困っている時は話は別だ。ガラはトトに行き、エズィールていうドラゴンに会いたがってる。どうか力にやってくれないだろうか。詳しくはガラから聞いてくれ。よろしく頼む。ルワンゴより】
ニコは手紙を閉じた。
「ルワンゴってのは多分、オヤジの鉱山仲間だ。昔聞いたことがある。鉱山ではよく事故があって、何度か死にかけたって。このルワンゴて人が助けてくれたらしいな。ちなみに、ゼオのジョン爺は、その時の親方だったそうだぜ…」
ニコは手紙をガラの胸にポンと置いた。
「で?どうするって?ポカロ山脈を越えんのか?さっき言ったろ、命が幾つあったってあそこを越えんのは無理ってやつだぜ」
「ワン!」
その時、足元にいた犬が吠えた。ニコは犬の顔をわしゃわしゃと撫でた。
「どうか頼むよ!あたしたちはマングー村からやってきたんだ。トトのドラゴンが危ねえんだ!」
ドロレスはニコに手を合わせてお願いした。
ニコは眉をしかめた。
「今、マングー村って言ったのか?あんたらまさか、あの沼地を通ってきたって言うのか?」
ドロレスはいきさつを語った。ニコはしばらく考え、ふうっとため息を吐いた。
「はっ!あんたらがあの沼地のデカブツを倒したって?ドラゴン?一体何だそりゃ?俺にそんな話を信じろってのか?」
その時、ニコの足元にまとわりついている犬が急に吠え出し、外に出て行ってしまったのだ。
「おい!ペイチ!またお客さんか?」
ニコは外に出た。ガラたちも後を追って外に出た。
「ワンワン!」
犬は何かに向かって吠え続けている。
「ペイチ!一体どうしたってんだ?そんなに吠えたらハーピーが…
とニコが言いかけた瞬間、案の定ハーピーが犬目掛けて飛んで来た。
「ああ!くそ!しまった!ペイチ!!」
ニコは家を飛び出した。
「ワンワン!」
犬は瞬く間にハーピーに捕らえられ、空高く上がって行った。
「ペイチーッ!!」
ニコは愕然とし、膝を付いた。
その様子を見ていたセレナは、服を脱いでガラに渡した。
「ガラ…」
セレナは服をガラに渡した。
「えっ?えっ?あんた何してんだ?」
ニコはそれを見て戸惑っている。
マコトはセレナの裸を見ないように手で目を隠している。
「ちょうどいいや、よく見とくといいよ!」
ドロレスは笑顔でニコにそう言うと、セレナを指差した。するとセレナはドラゴンに姿を変えた。
「ぎゃああ〜ッ!!出た〜!!」
ニコは腰を抜かして泣き叫んだ。
セレナは犬を掴んだハーピーを追う。
ハーピーは驚き、犬を放して飛んで行った。落下する犬をうまくキャッチしたセレナは、バサッバサッと大きく翼を羽ばたかせ、ニコの小屋の前に降り立った。
そしてセレナはすっと人間の姿に戻った。
ガラは待っていた服をセレナに渡した。
「ほらよ、よくやったな」
「はわわ…」
腰を抜かし、涙を流してセレナを見つめるニコに犬が駆け寄り頬をペロペロ舐めた。
「どうだい?今の話信じてくれたかい?」
「確かにこれは初めて見ると驚くであろうな」
マコトはうんうんと頷いている。
ドロレスは笑顔でニコの頭をポンと叩いた。
一行はニコの小屋の中に戻り、もう一度経緯を詳しく語った。そして、コンパルサの老龍の忠告により、エルフのドラゴンが危機であると。
「よく分かったよ。話はよく分かった。その…ドラゴンのオーブってのが奪われるとやばいってことだな。おそらく、クァン・トゥーの魔導士たちも狙ってくるかもな」
「話が分かるじゃんか」
ドロレスは椅子に座り、ニコに向かって笑顔を向けた。
「いや、俺がもしその魔導士なら、エルフのドラゴンに向けて兵を送り込むだろう。エルフの国ってのは、周りが山で囲まれてて、長い間戦争がなかった。だから平和ボケしてんだ。入るのは容易い」
「トトの状況に詳しいようだな」
ガラが言った。
「ああ、実は何年も前だが、親父とよくトトへ出掛けてたのさ。鉱山で採れた石や、革細工なんかを売りにね。今は鉱山に入れないから、革細工を細々やってるが」
そういうとニコは部屋の奥の棚から何か取り出して、テーブルの上に置いた。
「この銅板みたいなのは何じゃ?」
マコトは不思議そうにそれを見つめた。
「これは、トトとの交易証だ。まぁ通行証も兼ねてるが。これがあればトトに入れる」
「やった!」
セレナは喜んだ。
するとニコはセレナの前にすっと人差し指を立てて言った。
「いいか、さっきも言ったが、鉱山は魔物だらけだ。山を越えるより、坑道を進んだ方がはるかに早く山を抜けれる。しかし、今はオーガやトロルでウヨウヨしてるんだ。普通に通るのは難しいぜ」
ドロレスは、ふうっとため息をついたあと、パンと手を叩くとガラに言った。
「いいよガラ、大丈夫!あたしはもう覚悟出来てる。もうオーガだろうがトロルだろうがハーピーだろうがケツァルなんとかだろうが何でも来いって感じだ」
セレナはぷっと吹き出した。
「ふふっ、そうだね!皆で力を合わせれば何でも来いだね!」
マコトは目を閉じて腕を組んだ。
「うむ、致し方あるまい。もとより覚悟の上じゃ!」
ガラは一人一人の顔を見てから、ニコの方に顔を向けた。
「まぁ、そういうわけだ。魔物は俺たち任せろ。あんたは道案内だけしてくれればいい」
ニコはそれぞれの顔を見ると、静かに天井をみあげて言った。
「親父…俺、思ったよりも早くそっちに行きそうだぜ…」
その時、犬のペイチがニコの足に乗り、顔をペロペロと舐めた。
「分かった分かった。お前も連れてくよ!…仕方ない…いずれにせよ、鉱山が使えなきゃ俺だって困ってたんだ。トトへのルートが出来ればゼオや他の村だって助かるだろうしな」
「よし!決まり〜!」
ドロレスはニコの肩をポンと叩いた。
一行はニコの小屋に泊り、翌朝早く鉱山へ向けて出発した。
【ポカロ山脈】
クァン・トゥー王国とトト王国の国境付近に位置している。3000メートルを超す高山が連なり、最高峰はドラゴンズピーク。別名「神龍岳」(約5400メートル)と呼ばれている。
山頂付近では山岳氷河も見られる。峡谷や氷河湖も各所にあり、それぞれに自然の美しさをみせる。最近は、ハーピーの異常発生に加え、ケツァルコアトル(羽毛に覆われた蛇のような魔物)や、ワイバーンなども見られる。クァン・トゥー王国からは危険地帯に指定されている。
「ここが入り口だ…」
ニコは犬のペイチを先頭にし、ガラたちを案内している。
「この犬は奇跡の犬なんだ。親父の生きてる時から生きてて、数年前に鉱山で行方不明になったんだ。ところがつい最近戻ってきたんだ。しかも老犬だったのに、前より若くなってるんだよ」
ペイチは鉱山の坑道をよく知っているらしい。
ガラとドロレスは武器に手を掛け、慎重に進んだ。
中に入ると、坑道は昔のままの姿のように所々にツルハシや、ピッケル、カンテラなどが捨ててあった。ニコは持ち前のランプを片手に、ペイチに続いて進んでいる。マコト、セレナも唾を飲み込みながら続いた。
相当な歴史のある坑道なのだろう、奥の方は見えないくらい長い距離のある坑道である。
しんと静まり返った中で、水のしたたる音が響いている。
「今のところは何も出て来ないな…」
意外にもすんなりと坑道を進めているが、セレナは既に邪気を察知しているようだ。
「うん、でもこの中嫌な空気がいっぱいだよ」
その時、ペイチが何かを察知し、唸り声をあげた。
「ウ〜…!」
「どうしたペイチ!」
ニコがランプを前方に掲げ目を凝らしてみた。
どうやら何かが目の前に立っているようだ。
ガラとドロレスは武器を構えた。
「アンデッドだ!」
アンデッドとは、腐敗した死者に邪悪な魂が乗り移った魔物である。昔の墓場や、戦場の跡地などによく出没する。動きは鈍いが、呪いによって力は強い。
ガラは左手をかざした。
「ファイヤボール!」
左手から炎の球体が発射され、アンデッドに当たった。アンデッドは炎に包まれた。
「グアア…」
アンデッドは燃え尽きて倒れた。
「ガラ、普通の魔法も撃てるんだな」
ドロレスは、ガラに向かって言った。
「初級魔法ならな。ここでファズを撃ったら坑道が崩れちまうな」
坑道という狭い空間での戦いは、屋外よりも行動範囲が制限される。使う武器や技、魔法なども、そういった状況を考慮しなければいけない。
そしてペイチがまたしても唸った。
ニコは叫んだ。
「みんな!前を見てくれ!」
なんと、目の前にはおびただしい数のアンデッドが並んでいたのである。
「うわわっ!」
ドロレスは血の気が引いた。
「何と言う数じゃ!坑道の奥まで続いておる!」
「おそらく、今までここで死んでいった奴らだろうぜ!」
ガラは思った。この付近の魔物の強さ、多さは、おそらく近くに強大な魔物が潜んでいる可能性が高い。なぜなら、あの時の沼地のベヒーモスなど、邪気が充満している空間では、下級の魔物が出没しやすく、沼地ではワームなどもそうであった。
何か強大な魔物が纏(まと)っている邪気に誘われるかのように、下級の魔物たちもおびき寄せられるのだろう。よって、このアンデッドの多さもそれを物語っているのではないかと。
「オーバードライブ!」
ガラは炎を剣(メタリカ)にまとわせた。
「ガラ!ここは任せな!ロイヤル・ハント!」
ドロレスはアンデッドたちに向けてバトルアックス(メガデス)を放った。
高速回転したアックスは、ズバズバとアンデッドたちを切り裂いたまま飛んでいった。
呻き声をあげ、アンデッドはバタバタと倒れていく。そして、シュルシュルと回転しながらアックスが戻ってくると、再びドロレスはそれをキャッチした。
あっという間にアンデッドたちは全滅してしまったのである。
「なんてこった!あんたらホントに強いんだな!」
ニコは、興奮してガラたちに言った。
坑道をさらに進み、道は地下へと続いた。
「ここからどんどん下がるぞ。下がると大きな空間に出る。昔の遺跡の跡もある」
坑道は、一旦途切れ、崖のように空間が下まで続いていた。そこからは長い梯子を使って下がるのである。ニコのランプの灯りでぼんやりと梯子が見えるが、穴の底は深過ぎて見えない。声が響いてこだましている。
「うう〜!」
高いところが苦手なドロレスは恐る恐る梯子を下がっている。
「ドロレス、下を見るな」
ガラは忠告したが、ドロレスは言った。
「下を見ないと降りれないだろ!ああ〜もうやだ」
「ふふっ、凄い場所だね!」
セレナは何だか楽しくなってきたようである。
「中がこんなに広いとは!」
マコトは殿(しんがり)を務めながらまわりをキョロキョロと見渡している。
下に着くと、そこは広い広間のような空間が広がっていた。ニコの言う通り、古代遺跡のような紋様が壁にあり、石像らしきモニュメントのような跡もあった。
「こりゃ坑道ていうより、地下遺跡だな」
ガラがそう言うと、ペイチが吠えた。
「ワン!」
「こっちだとさ」
ニコはガラたちを手招きした。
「しかし、賢い犬でござるな」
マコトはペイチに関心を示した。
坑道はさらに奥へと続いている。下層では、広い空間と空間の間に坑道があるような作りとなっており、おそらく掘っては遺跡にぶつかり、また掘っては遺跡にぶつかるように進められていったのだろう。
「だいぶ奥まで来たな」
ガラが坑道を通る時、またしてもペイチが何かに向けて唸っている。
「またアンデッドか?」
ニコが、ランプを前方に照らすと、そこには何やら大きな人影が見えた。
その人影は、こちらに近付いてきた。
「グルルル…」
ペイチは威嚇している。
ランプの灯りに照らされたその人影は、2メートル以上あり、頭から短い角が生え、口元から牙も出ている。腰には布のようなものを巻いており、手には棍棒のようなものを持っている。
「オーガだ!」
ニコはそう叫ぶと、何やら低い声がした。
「ニンゲン、ココアブナイ」
「ん?今何か言ったか?」
ドロレスは、オーガが何か言ってるように聞こえたようだ。
「ニンゲン、ココアブナイ、カエレ」
後ろからさらにもう一人来たオーガもそう呟いた。かなり低くしゃがれた声である。
すると、一人のオーガが何かに気付いたように話しかけて来た。
「ン?スィーゲ!オマエスィーゲカ?」
「スィーゲ!スィーゲ!」
オーガたちはニコに向かって話しかけている。
「い、いや、俺はスィーゲの息子のニコだよ。スィーゲは死んだんだ」
ニコは震えながら答えた。
「スィーゲ…シンダノカ?」
その時、オーガたちは地面に膝から崩れ落ちるようにしゃがみ、泣き出した。
「ウオオーン!」
「一体何だ?何が起こってる?」
ガラはニコに向かって言った。
「わ、分からんが、俺を親父と勘違いしていたようだ」
オーガたちはまだ泣いている。地面をドンドンと叩きながら泣き叫んでいる。
「この人たちに嫌な気は感じないよ」
セレナはそう言ってオーガに近付いていった。
「お、おい、気をつけろねえちゃん!」
ニコはセレナに忠告した。
セレナはオーガに話しかけた。
「私たちはこの山の魔物を倒して先に進みたいんだ。エルフの国に行くために」
オーガは泣き止み、セレナに向けて言った。
「コノサキ、トロルイル、ヒトツメイル、アブナイ!カエルニンゲン!」
「スィーゲノムスコ、コロサレルゾ!」
セレナはオーガたちに諭すように言った。
「大丈夫。私たちはとても強いの。そして私はドラゴンだ。あなたたちも魔物に困っているなら、私たちが倒してあげる」
「ドラゴンスゴイ!ドラゴンタスケテ!」
「何だか見た目と違って臆病なんだな、オーガってさ」
ドロレスはガラに向かって言った。
「ああ、オーガは基本的に温厚な性格だ。中にはヤベェ種もいるらしいが」
ドロレスは、オーガたちに話しかけた。
「あたしたちに任せな!今までたくさんの魔物をやっつけてきたんだ。そいつらの居るところに案内してくれないか?」
2体のオーガは立ち上がり、坑道を進んだ。
「ツイテコイ、ニンゲン」
歩きながらニコはオーガたちに話しかけた。
「な、なぁ、俺の親父のこと、何で知ってる?」
オーガは答えた。
「スィーゲハ、ヤサシイ、オレタチニドウグ、ツクッテクレタ」
「スィーゲハ、トモダチ、ズットマエカラ、ヤサシクシテクレタ」
ニコは、父親の隠された過去を知って心がじんと温かくなった。
ニコ・ネグィースは、父親のスィーゲ・ネグィースとしばらく二人で小屋で過ごしていた。
母親のスーリ・ネグィースは、ニコが子供の頃に亡くなっており、ニコはスィーゲから生きる術を教わった。山へ狩りに出掛け、獲物を獲っては、皮を取り、革細工に加工したり、鉱山で採れた鉱石などを、革細工と一緒にトトへ売りに行ったりもしていた。
時折りスィーゲは、鉱山に出掛け、ニコはペイチと二人で留守番をし、父親の帰りを待っていた時もあった。おそらく魔物が増えてきたのをスィーゲは警戒し、息子を待たせていたのだろう。そこで出会ったのがオーガたちであったのだ。
オーガたちはどんどんと坑道を進んでいる。
「なぁ、オーガはもうあんたら二人だけなのか?」
ニコはオーガに話しかけた。
「オーガノスミカニイル、デモスクナイ」
「マエハモットタクサンイタ。デモミンナ、トロルヤヒトツメニコロサレタ」
「そ、そうなのか…」
「トロルは分かるが、ひとつめってなんだ?」
ドロレスはふと疑問に思った。
ガラはその時、ピンと来た。
「おそらく、サイクロプスだ。だとしたら厄介だな…」
サイクロプスとは、伝説とされている巨人の魔物である。山奥や洞窟に棲むとされており、全長はおよそ20メートルから30メートルあり、岩石を投げて攻撃して来たりしてくるという。特徴は顔にある目が一つである。
(「伝説の魔物大全」より)
「コノサキ、ヒトツメ、ヨクデル」
「ニンゲン、オネガイ、タオシテ」
オーガが指差した先は、一際大きな空間が広がっていた。鉱石が含まれている壁にはうっすらと光り、ぼやけてはいるが全体が見える程明るい。
「やや、これは広い!鉱山の奥にこんなところがあるとは!」
マコトはその神秘的な姿に息を呑んだ。
「まこちょん、今書くなよ」
ドロレスは、マコトが歌を詠みそうになったのを忠告した。
「こ、これは失礼!それどころではないな」
その時である、「ぎゃっぎゃっ」という声と共に、奥の大きく空いた穴からわらわらと走り出て来た。トロルである。トロルは全身を茶色い毛で覆われており、人間よりやや小さいが、二足歩行の獰猛な魔物である。強い腕力と鋭い牙で襲ってくる。
「トロル!タクサン!」
「よし、皆行くぞ!」
ガラたちは武器を構えた。
その時、ズーンという地響きが聞こえてきた。トロルが出て来た場所からである。その音はどんどんと大きくなり、奥の大きな穴からその姿を表した。
穴のかなり上部に手がかけられた。顔がゆっくりと出てくる。青白い光に照らされ、ギロっとした一つ目がガラたちを睨みつけた。サイクロプスである。
「こいつは思ったよりデカいぞ!」
「グオアーッ!」
サイクロプスは、ガラたちに気付くと、叫び声をあげ、地響きと共にこちらへ向かってきた。
トロルとその周りに群がり、ガラたちに気付いた様子だ。
「来るぞ!」
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