第二章「エルフのドラゴン編」第3話「沼地の魔物」
遠くの方で動物の鳴き声が聞こえる。
今夜は満点の星空である。
平原の気候は、降雨量が少ない為、乾燥しており、昼夜の寒暖差も激しい。夜は焚き火を絶やさず、クローク(マントのような毛布)にくるまっていないと凍えてしまう。
パチッと焚き木がはねた音で、ドロレスはふと目が覚めた。
ガラが起きている。見張り番をしているのだ。
「ん?目が覚めたか?交代にはまだ早えぞ」
「ん…寒っ」
古代遺跡の壁がちょうど風を凌いでくれているが、やはり夜は冷える。
「さっき、そこの小川で水汲んできたんだ。スープ飲むか?」
「うん…」
ガラはビッグホーンの骨から出汁を取り、胡椒を少々振りかけたスープをドロレスに渡した。
「ほっ…あったかい。サンキュ」
ドロレスは起き上がってスープを飲んだ。味は薄いが、温かさが身体に染み渡った。
「これ、懐かしいな。あの時飲んだやつだね」
「あ?…ああ、ケルピー退治の時だっけか?」
ドロレスはクロークにくるまりながら、スープが入ったカップを片手にガラの隣に座った。
「アーヴァンクだよ。あの時はビッグホーンじゃなくてロングフットの肉だったけど」
「ああ、そうだった。お前と初めて会った時だったな」
ガラは、ドロレスと初めて会った時のことを思い出した。
今から数年前、ガラが勇者隊を離れてまだ間もない頃、貿易都市パンテラのギルドに顔を出した。彼は、とにかく旅費を稼ごうと、何か手っ取り早い仕事はないかと探していた。
目に留まったのは「魔物討伐依頼」どうやら、サーティ川上流域の集落に最近魔物が現れ、住民を苦しめているそうだ。
ガラが“元勇者隊“ということは、ギルド連中では既に噂になっており、若干冷ややかな目で見られていた。
ドロレスは、当時既にギルド1の稼ぎ頭として名を馳せており、その討伐隊の頭であった。統率の取れた良い隊だとガラは思った。それはドロレスの実力によるものであるとも。
討伐隊は、サーティ川上流の魔物発生現場に到着し、野営を張った。しかし、その夜、突如大雨が降り、川が増水した。翌日早朝、雨が小康状態になった頃、討伐隊の一人が魔物の出現を確認した。
川辺に生息する魔物「アーヴァンク」である。青黒い毛皮で覆われた、大きなビーバーの様なその魔物は、鋭い鉤爪を持ち、獰猛な性格で高い知性も持っていた。数匹が現れ、集落を襲おうとしていたところだった。ドロレスたちは、すぐに駆けつけた。
ドロレスたちにとって、この依頼は“中の下“程の比較的簡単な仕事であった。
しかし、ミスというものは何気ないところに起きるものである。ドロレスは川辺に飛び移ろうと石に足を乗せたところ、苔で足が滑り、川に転落してしまったのだ。増水した川は水かさが増しており流れも速かった。ガラは咄嗟に川へ飛び込み、ドロレスの方に向かった。みるみるうちに二人は流されていく。
途中の流木に捕まり、ガラはなんとかドロレスを引っ張り上げることが出来た。しかし、そこは運悪くアーヴァンクの棲家の近くであった。わらわらと棲家からアーヴァンクが出てくる。しかもドロレスは、滑った時に足を負傷してしまっていた。
ガラはドロレスを庇いながらも、必死にアーヴァンクを撃退していった。
その様子を見ていた討伐隊の皆は、ガラに対する評価を一変させた。一躍英雄視されたのである。
ドロレスも、ガラによって命を救われたのであった。
「あの日、冷えた身体にあんたが作ってくれたスープが美味くてさ。これ飲んだら思い出したよ」
ガラは少し照れくさそうにした。
「あの時は色々考える前に、気付いたら川に飛び込んでたな。今思えば無茶だった」
「だけど、あそこであたしを助けてくれてなきゃ、あたしは多分今ここにいなかった」
ドロレスはガラの肩を軽く叩いた。
「あれからずっと顔を出さないから心配してたんだ。王国から離れていったからね。あたしは何かに巻き込まれたんではないかと思ってたよ」
ガラはふっと笑った。
「まぁ、実際に巻き込まれてるけどな」
「あはは、遅かれ早かれか…」
ドロレスはふと夜空を見上げた。
「なぁ…ガラ」
「…ん?なんだ?」
「あたしはね、あんたが好きだ」
ガラはドロレスの方を向いた。ドロレスは夜空を見たままだ。
「ドロレス…」
「でもさ、あたしはセレナも大好きなんだ」
ガラはセレナの方を見た。ドロレスもセレナに優しい眼差しを送った。
「…だからさ、二人が一緒にいて欲しいって思ってるんだ。これは嘘じゃなくてね」
ガラは、ドロレスの方を無言で見つめた。
「たしかに、この子は今後どうするのか分からないよ。エルフのドラゴンを助けた後、またコンパルサに戻っちまうのか…多分本人もまだ分からないんだよ」
「ああ、そうかもな…」
セレナはコンパルサという未開の奥地から、ガラに付いて行き、人間の世界へと飛び出した。
刺激的な楽しみや愉快な仲間たちにも会えた。
しかし、様々な問題にもぶつかった。それは偶然なのか、必然であったのか誰にも分からない。
今後セレナはドラゴンとして、またオーブを守る為に森に帰るのか。もしくは人間として、ガラと共に生きるのか。まだ彼女には答えは出ていないのかもしれない。しかし、彼女の存在は既にガラとドロレスにとって、とても大切な存在であることは紛れもない事実であった。
ドロレスは、素直な気持ちをガラに打ち明けたのだ。
「でもさ、セレナがあんたと一緒にいたいって言うなら、私はそうして欲しい。…ねえガラ、一人でいたって、人生つまんないよ」
ガラは黙って、焚き火の揺らいだ火を見つめている。
「ご馳走様!じゃあ後は、あたしが見張りやるから、あんたは休みなよ!」
ドロレスはそう言って、ガラの背中をバンと叩いた。
ガラは静かに横になった。
「あ…流れ星…」
その時、一際大きな流れ星が横切った。
ドロレスは何を願ったのであろうか。
静かで寒い夜であった。
ーそして夜が明けた。
朝日が丘の上から顔を出し、小川の方から鳥たちのさえずりが聞こえる。
見張の番であったマコトは、刀に手を掛けながら頭をこっくりこっくり動かしている。
「ほら、まこちょん。朝だぞ」
セレナはマコトの頭をこんこんと小さく叩いた。
「んあっ!お、起きてますぞ!」
ぷっとセレナは笑った。
ガラたちは小川で水を汲み、馬にまたがり、さらに北西へと進んだ。
気温がぐんぐんと上がっていく。夜の寒さはどこへ行ったのか。燦々と降り注ぐ陽射しは、ガラたちの体力をじわじわと奪っていく。
「さすがに馬は速いな。平原の大半は過ぎたぞ」
「だけど、馬も疲れてるよ。そろそろ休憩しよう!」
ドロレスは、小高い丘と丘の間の道を指差した。
マコトは地図を確認する。
「この道を抜ければ、沼地に出ますぞ」
サーティ平原には、広大な湿地帯もある。そこを抜ければポカロ山脈まで後すぐである。
しかし、その湿地帯こそが、サーティ平原で最も困難な地帯であるのだった。
案の定馬の足取りが段々と悪くなっていく。
「馬を降りよう!」
ガラは皆に指示をした。足場が悪く、このままでは馬の体力の消耗が激しくなる。ガラたちはやむなく馬を置いていくことにした。
そして時折り、水たまりから「ウォーターリーパー」が飛び出してくるのだ。
「ちっ!このやろう!」
ドロレスはメガデスで払う。
ウォーターリーパーとは、沼地に生息する魔物である。小さいが、手足はなく、羽の様なヒレが付いている。魚のようだが、鋭い牙が生えており、水辺から飛び掛かってくる。
「ガラ!ここはヤバいぞ!この沼地は避けた方がいいんじゃないか?」
ドロレスが提案するが、マコトは地図を見ながら言った。
「いや、ドロレス殿。この湿地帯を回り込むとすると、かなりの時間を無駄にしてしまいまする」
「ああ、一気に抜けた方がいいだろう!」
「ガラ!なんだか先が見えなくなってきてる!」
セレナが指差した先は、霧が立ち込めていた。しかも進むにつれてどんどん濃くなっていく。
「みんな視界が悪くなってくるぞ!あまり離れるな!」
「あ〜最悪だ!膝までぐっちょぐちょだよ…」
「深みにハマるな!出れなくなるぞ!」
既に視界は半径5メートル程しか見えない状態である。
その時であった。
「うっ!」
一瞬ドロレスの叫び声がしたかと思うと、しーんと静まり返ってしまった。
「ん?ドロレス?どうした?」
ガラが振り返る。しかし返事は無い。
「ドロレース!そこにいるの?」
セレナも叫んだ。
「ドロレス殿!返事をされよ!」
マコトも声をかけるが反応は無かった。その時、ガラは叫んだ。
「みんな!耳を塞いで伏せてろ!」
ガラは後方のドロレスがいた付近の少し上あたりに手をかかげた。
「ファズ!」
ガラの手から光球が放たれ、閃光と共に爆発した。
その時である。爆発音と共に、沼から巨大なワームが姿を現した。10メートルはあるだろうか。
ワームとは、沼地に生息する魔物で、真っ黒な体で巨大なミミズのような姿をしている。目は退化して無いが、ナマズのような触覚や口をしている。沼地に迷い込んだ動物や魚などを飲み込み、沼の中へ引きずりこむのだ。
「ギョオアーッ!」
ワームは鳴き声をあげた。その時、開いた口からドロレスの足が見えた。
「ドロレス殿!」
マコトは鞘から“女狐“を抜き、ワームの首目掛けて飛び上がった。そして、首元目掛けて振り抜いた。
「しゅぱっ!」と刀は一閃を描き、ワームに当たった。
ギョオアーッとワームが叫ぶが、手応えは満足ではなかったようだ。
「まだ浅い!」
そして、ワームは再び沼の中へ沈んでいった。
「くそっ!」
再び辺りはしんと静まり返った。
ガラはもう一度、ファズを放とうと手を掲げようとした。だがその時、今度はガラの真後ろからワームが飛び出したのだ。
「ギョオオオアーッ!」
「ちっ!後ろか!」
ガラはすぐさま振り返った。
しかし、ワームは鳴き声を上げたまま、地面にドーンと倒れ込んだ。その時、ワームの頭から何か飛び出した。突起状の物体である。ガラはそれがドロレスのバトルアックス(メガデス)の一部であることが分かった。
「ドロレス!生きてるのか!」
その突起はグイグイと動き出し、ボンという音と共に飛び出した。バトルアックス全体と、それをガッチリ握ったドロレスの腕が見えてきた。
セレナはすぐさまスキッドローで、ワームの頭をさらに切り開いた。
「ブハッ!ゲホッゲホッ」
中から泥と血まみれのドロレスが出てきたのである。
「ドロレス!よかった!」
セレナはドロレスに抱きついた。
しかし、ドロレスの体に付いた泥や血がセレナの体にも付いた。
「わぁ〜べちょべちょ…」
ドロレスは顔を拭いながら言った。
「あ〜くそっ!最悪だ!生臭い!」
ワームを見ると、その体の中から、たくさんの骨や人の衣服のような物が出てきた。おそらく旅人を襲っては、食べていたのだろう。
「ワームがこの湿地帯にいるとはな…」
ガラはかつてこの周辺を旅していた時、ワームなどは見かけなかったという。何か様子がおかしいとガラは思った。しかも先程から魔物の出現率が高くなってきているのだ。
「ガラ、何か感じる!」
その時、セレナはドラゴン特有の超絶的な感覚で何かを感じ取ったようだ。
「またワームか?」
「違う…もっと恐ろしい何か…もっと大きな…」
ドロレスが霧の奥を指差した。
「何か来るぞ!」
マコトは女狐を構えた。
その時、ズーンという地響きがなる。大地が震えるような感覚である。
「何だ!?火山が噴火でもしたか?」
ドロレスは目を凝らす。
ガラは、体が震えた。
「おいおい、まさか…こいつは…」
「ベヒーモスだ!」
ガラが叫んだ。
「ベヒーモスだって?伝説の怪物じゃないのか?」
ドロレスが言った。
「伝説?実在しないはずの魔物ということであるか?」
マコトは唾を飲み込んだ。
ベヒーモスとは、古代から存在が確認されており、巨大な象やカバのような生き物とされている。
ガラ自身、噂に聞いていた程度であったが、この沼地に生きているとは思えなかった。しかし、ワーム以上の大きさで、沼地に生息しているとすれば、ベヒーモスくらいしか思い浮かばなかったのである。
セレナは、既に服を脱ぎ始めている。
ガラは止めようとしたがセレナは聞く耳を持たなかった。
「グオオーン!」
凄まじい咆哮と共に、銀のドラゴンが姿を現した。
「セレナ!」
ドロレスが見上げた。
「こ、これが真の姿であるか!」
マコトは初めてドラゴンになったセレナを見たのである。
「セレナ!無茶すんな!」
ガラはセレナに忠告した。セレナはこくりと頷き、飛び上がり、巨大な魔物に向かっていった。
「みんな!行くぞ!」
ガラは、ドロレスとマコトに声をかけた。
セレナは翼を羽ばたかせると、霧の奥へと向かっていった。次第に巨大な魔物の全貌が明らかになっていく。
牛の様な角、カバの様な口、飛び出した牙。黒紫色の毛皮で覆われ、犀のような体と蹄(ヒヅメ)を持っていた。全長は30〜40メートルはあろうか。目は鹿のような横長の瞳孔である。
鼻から激しく息を吐きながら、ゆっくりとこちらへ向かってきている。
「ヴモオオオオオーッ!」
沼地一体に響き渡る声である。先程のワームが小さく見える程の大きさである。
「こいつはヤベェな!」
ガラは“オーバードライブ“を発動し、メタリカに火をまとわせた。
ドロレスは、アックスを回している。
マコトは、女狐を持ち構えた。
ベヒーモスは角を振り回して、セレナを追い払おうとした。ブワッと突風が襲う。セレナはくるっと旋回し、角を回避したあと、炎を吐いた。
ゴォーッという音と共に、ベヒーモスの顔の上部が燃えた。苦悩の表情をしながら、ベヒーモスは頭をブンブンと振り回した。
その時、ベヒーモスは前足を振り上げ、地面を激しく打ちつけた。地面がまるで地震のように震える。ガラとドロレスは、よろけて体制を崩した。
その時、マコトは回り込み、ベヒーモスの後ろ足から背中へよじ登ろうとしていた。
「のわっ!まこちょん!いつの間に!」
マコトはベヒーモスの背中に辿り着いた。
そして、女狐を手に、ベヒーモスの背中へ突き刺したのである。
「ヴモオオオ!」
ベヒーモスは暴れ出した。その隙にマコトは、すたっと地面に降り立つ。
そして人差し指と中指を揃えて眉間の前に立てた。
「雷鳴よ!轟け!」
その瞬間である。
カッと空が明るくなり、突然雷撃が、ベヒーモスの背中に刺さっている女狐に落ちたのである。
バリバリ!ピシャーン!と轟音が轟いた。
ベヒーモスは悶絶した。
「いいぞ!まこちょん!」
マコトは、エイジアに古来から伝わる幻術を習得していた。幻の術と書くが、原理は魔法とほぼ同じである。エイジアには独自の魔法文化が根付き、その体系や種類は、大陸の魔法を凌駕するほどであった。
ドロレスはメガデスを深く構えた。
「ロイヤル・ハント!」
メガデスが高速で回転し、ベヒーモスに向けて飛んでいった。
しかし、ベヒーモスの体に当たり、弾かれてしまった。
「くっ!こいつめっちゃ硬いぞ!」
ガラはベヒーモスの下ろした前足を斬りつけた。
シュバッという斬撃と主に炎が巻き上がる。
しかし、すぐに火はおさまってしまった。
「こやつ!火も雷撃も斬撃も効かない!」
「さすが伝説のばけもんだぜ!」
「ガラどうする!?」
ベヒーモスの顔付近ではセレナが飛びながら懸命に戦っている。
その時、バシッという音と共に、セレナが落下してきた。ベヒーモスの角がセレナに直撃したようだ。
ズーンと、セレナが地面に着地する。肩あたりから血を流している。
「ロロロ…」
セレナは喉を鳴らし、痛みを堪えている。
その時、ベヒーモスの前足がガラたちの目の前に飛び込んできた。
ガラたちは吹き飛んだ。
「ぐあーっ!」
「くそっ!肋骨が何本か折れちまった!」
ドロレスは体制を整えながらぶっきらぼうな笑みを浮かべた。
「あれ次食らったらヤベェぞ…!」
ガラも自分の腕を押さえている。
気がつくと辺り一面、さらに霧が濃くなり、陽の光さえも届かないほど薄暗くなっていった。このまま夜が来れば、さらに状況は厳しくなってしまう。
その時ガラはマコトに言った。
「マコト!お前の刀は刺さったままか?」
「さよう!」
「もう一回あれ撃てるか?」
「拙者の幻術はあと2回と言ったところ!」
ガラは何か思いついたようだ。
「よし、セレナ!俺を持ち上げて飛んでくれ!」
「ガラ!どうする気だ?」
ドロレスはガラに言った。
「あいつの口ん中に入って、ファズをお見舞いしてやる!」
「無茶だ!角で吹き飛ばされるぞ!」
「ドロレス!これしかない!お前のアックスで目を狙うんだ!」
ドロレスは、不適な笑みを浮かべた。
「なるほどね!考えてる暇はないか!とにかくやってみるしかないな!」
ベヒーモスは、前足を振り上げてガラたちの方に向かって来る。
「来たぞ!今だセレナ!」
セレナはガラを持ち上げて飛び上がった。
「今だ!ドロレス!目だ!」
ドロレスはメガデスを深く構える。
「よっしゃ!ロイヤル・ハント!」
メガデスがベヒーモスの目を目掛け、高速で回転しながら飛んで行った。
「当たれーっ!」
見事にズバッ!とベヒーモスの目に当たった。
ベヒーモスは悶絶している。
「行けぇぇっ!マコト!」
マコトは再び眉間の前に指を立てる。
「雷鳴よ!轟け!」
ピシャーン!と雷撃がベヒーモスに落ちる。
ベヒーモスは前足をあげて悲鳴を上げた。
「ヴモオオ〜ッ!」
その瞬間であった。ベヒーモスの口が大きく開いたのだ。
「今だ!セレナ!俺を口に放り込め!」
セレナはガラをベヒーモスの口目掛けて放り投げた。
「やったか!」
「入った!」
「ブフーッ!ブフーッ!…」
ベヒーモスは、鼻息を荒げて、姿勢を低くした。
「…どうなんだ?」
ドロレスは、メガデスを構えている。
「動きが止まり申した!」
セレナは地面に降り立った。
数秒間経ったが、何も起こらない。
「ヤバい!ガラが!」
ドロレスは、咄嗟にベヒーモスに向かって走り出した。
「失敗したのであろうか?」
マコトも走り出した。
その時である。
ベヒーモスの体内からドンドンと音が響いてきたのである。
ドロレスは足を止め、耳を澄ました。
「ガラが撃ってるぞ!」
ドンドンと何度も音が聞こえる。
その時、ベヒーモスは口を大きく開けた。するとその中から突然ドバドバと、ドロっとした液体が大量に吹き出した。そして、その中から大きな塊が飛び出した。
その塊は、地面に落ち、ゴロゴロと転がった。
「ガラ!出てきた!」
ドロレスは、その塊がガラだと分かったようだ。
その時、ベヒーモスは白目を剥いて、ぐらりとよろけ、地面に倒れ込んだ。大きな影がドロレスたちを覆った。
「よけろ!」
ドロレスは、皆に呼びかけ、マコトとセレナはさっとその場から離れた。
ズズーン!と物凄い地響きと共に、砂埃が巻き上がり、沼地の木々もバキバキと倒れていった。
ベヒーモスは白目を剥いて動かない。息もしていないようだ。
「やった…やったぞ!ベヒーモスを倒した!」
「伝説の魔物を退治した!」
セレナは人間の姿に戻った。そして、ガラの元へ駆け寄り、肩を貸してガラを立たせた。
「ガラ!倒したよ!私たち!」
マコトもドロレスに肩を貸し、立ち上がらせた。
「みんなボロボロだな!あはは…イテテ!」
ドロレスは肋骨が折れているようだ。
「ぐちょぐちょだね!あはは!」
セレナも笑った。
ガラたちは、ついに力を合わせ、伝説の魔物を打ち破ったのだ。
ガラたちのこの戦いが、後世に語り継がれる新たな伝説になろうとは、この時はまだ夢にも思っていなかったのである。
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