第一章「老龍編」第7話「夜明け」
ー曙。
東の空から朝日が顔を出す。
キラキラと森を照らし、爽やかな風が頬を優しく撫でる。
森の木々が風になびき目を覚ます。
鳥たちがさえずり出す。
竜の洞窟は、ガラの渾身の技“ファイヤー・ハウス“によって、すっかり姿形を変えてしまった。
天井は全て吹き飛び、洞窟の上部は爽やかな青空が広がっている。
ガラは地面に刺さった剣に手をかけたまま、力無く膝をつき俯(うつむ)いている。ドロレスは頬を涙で濡らしながら、優しくガラの肩を抱き寄せた。
「ガラ…仕方なかったんだ。お前は悪くない。セレナは…オーブを守ったんだ。彼女は使命を果たしたんだよ」
ハーフドラゴンのジェズィは、ヨロヨロと立ち上がり、ガラの側まで来た。
「ガラという、気高き炎の戦士よ。我が老龍を、ロンフォ(オーブ)を、よくぞ守ってくれた。竜の民を代表して心から礼を言う。本当にありがとう」
ジェズィは、ガラに対して跪いて敬意を表した。
「いや、そもそも…元はと言えば、俺がドラゴンを倒しちまったからこうなっちまったんだ。あんたらも…本当にすまねえ…」
ガラは頭を下げたままジェズィに言った。
ドロレスはガラの肩をさすりながら言った。
「ガラ、魔導士たちは古代の技術を研究して、どんどん力を付けてる。遅かれ早かれドラゴンのオーブはいずれこうなる運命だったのさ」
ジェズィは頷いた。
「さよう、確かにドラゴンの霊力は失われつつある一方だった。危機が訪れることは、ヴァノから既に教えられていたのだよ」
「シャキーラ…竜人である我が最愛の友も失ってしまった。だが、彼女は最後に竜族として誇り高き使命を遂げたのだ。セレナも同じくな…」
ジェズィは、遠くを見つめ、そっと目を閉じた。
その時、腹に響くような低い声がした。
「火の民の子よ…そなたに伝えねばならぬ…」
ヴァノが口を開いたのである。
「!?竜のじいさん!死んでなかったのか!」
ドロレスは驚いてヴァノを見上げた。
「遥か北方…エルフの龍に危機が迫っておる…どうか…我が愛しき一族と共に…救ってあげてはくれぬだろうか…」
ガラはヴァノの方を向いて答えた。
「愛しき一族?このハーフドラゴンを連れてか?」
ヴァノは、ゆっくりと答えた。
「否…そのものはここを守る定め…竜の娘のことだ…」
ドロレスは首を傾げた。
「竜の娘って、セレナはさっき…
ドロレスが言いかけたその時であった。
突然ジェズィが空を指差した。
「ん?あれは…何だ?」
ガラとドロレスは、ジェズィが指した方向を見上げた。
そこには何やら黒い球体が宙に浮かんでいたのである。
「何だあの黒い球体は?」
その球体は、しばらくするとやがて下降しだした。
ガラとドロレスはその球体の近くまで行った。
球体は地面に降り、ゴロンと転がった。
ドロレスはその球体に近付き、臭いを嗅いだ。
「ん、焦げ臭いぞ。この黒いのは“焦げ“だ!」
ガラはそれに触れると、熱さを感じた。
「熱いな…まるで、さっきまで燃えていたような…」
ドロレスもそれに触れた。
「熱ッ!お前よく触れるな!これとんでもなく熱いぞ!」
「俺は火の民の血を引いてる。このくらい全然平気なんだ。しかし、これは何だ…」
「まさか!」
ドロレスとガラは、咄嗟にその球体から離れた。二人は、魔導士の不思議な古代技術か何かではないかと思ったのだ。
しかし、何も起こらなかった。
ドロレスは、バトルアックスを持って、その球体を叩いてみた。
コン!響くような音がした。どうやら中が空洞であるようだ。その瞬間、ピシピシと球体にヒビが入っていき、バラバラと崩れていったのである。
その時、その球体の欠片(かけら)の下から、白い手がだらんと垂れ下がった。
「…!?」
ガラはその欠片を手で払いのけた。
「セレナ!」
白い肌、銀色の髪、それはまさしくセレナだった。
「おい!しっかりしろ!」
セレナは体中、傷と火傷だらけであった。
その時、セレナの顔がかすかに動いた。
「う…う…」
「まだ息があるぞ!」
「よかった!」
ドロレスの目から涙がぶわっと出た。
その時、ジェズィが叫んだ!
「セレナをこっちへ!」
ガラはセレナを抱き抱え、ジェズィの元へ運んで行った。ジェズィは、洞窟の通路を通り、地下水が湧き出ている場所へと案内した。
「ここは…俺がセレナに助けてもらった場所だ…」
ガラは少し懐かしい感じがした。
ジェズィは、洞窟の奥に生えている草を見つけた。
「よかった。まだ竜草が生えている。よし、そこに寝かせておくのだ」
ドロレスは泣きじゃくっている。
「うっ、うっ、ぜれだ(セレナ)がいぎでだ!よがっだ、よがっだよぉぉ〜!」
ガラはドロレスに言った。
「まだ、気が抜けねえぞ!酷い火傷だ。それにあいつに刺された箇所が多い」
確かに、大蜘蛛の長く鋭い爪に何度も刺されたその体は、無惨の一言だった。しかも、ファイヤーハウスの業火による火傷も凄まじかった。
おそらく普通の人間であればとっくに命を落としていたであろう。ドラゴンがゆえの脅威的な生命力と言ってよい。
「ガラよ。心配するな。この程度の傷なら竜草がたちまち治してくれようぞ」
ジェズィはそう言うと、竜草を手ですり潰し、地下水と混ぜ、ペースト状にした。それをセレナの傷に、丁寧に塗っていく。
「これでよし、あとはしばらくここで休ませるが良い。お前たちも疲れたであろう。そこで休んでいなさい」
ジェズィは、森の中に入っていった。
セレナは生きていた!
その実感が、喜びが、安堵が、じわじわとガラの心の中から湧き上がってきた。
ガラの表情はまだ厳しかったが、涙が頬を伝うのは止められなかった。
ドロレスは、ガラの様子を見て、再び泣きじゃくり、ガラを優しく抱擁した。二人は喜びを噛み締めあった。
一方その頃、クァン・トゥー王国の首都「サーティマ」その中心部に位置する「クローサー城」では…
王宮内の玉座の間にて、冷たい大理石の床を歩き回る一人の人物がいた。
その人物は、若い男性で年齢は二十歳。豪華な金糸のマントを身にまとい、金の上に宝石が散りばめられた王冠を被っていた。しかしながら、体付きは華奢で小柄であり、その絢爛たる装いとは裏腹な、若干の頼りなさを感じざるを得ない。
その男の名は、“トレント・ダウンワード5世”その人であった。
彼は、苛立っていた。というより、ここ最近の彼は常に苛立っている。
それは、3年前突如として亡くなった宰相「マンソン卿」が謎の死を遂げてからだった。
マンソン卿は、彼が物心ついた頃からの世話役でもあり、育ての父親的な存在でもあった。
困ったことや、父親である王に叱られた時など、何でも相談に乗って励ましてくれる、心の柱のような存在であった。
先代の国王“トレント・ダウンワード4世“は、病で亡くなる直前に、まだ若き王位継承者である息子を支えて欲しいと、マンソン卿に宰相の地位を授けてこの世を去った。
王妃は既に病によりこの世を去っており、まさに若き国王は、マンソン卿を心の拠り所としていたのである。
そして、そのマンソン卿が謎の死を遂げた。
当初、暗殺などの陰謀が噂されたが、証拠などは一切出てこなかった。
クァン・トゥー王国は、王トレント・ダウンワード2世の頃、港や街道の整備、貨幣の創設など、様々な内政力を発揮し、小国をたった一代で大国と肩を並べる国へと成長させたのである。
しかしながら、血筋として病気がちな者が多く、祈祷や儀式など様々な祭事を司る「祭司官」というポストが重要視されていった。
そこへ現れたのが、アングラという男である。
アングラは片田舎出身の平民の出自であり、幼い頃から病気がちな子であった。
外で遊ぶのを拒み、本ばかり読んでいて、周りから蔑まされて育った。
母親との死別、父親からの暴力、継母からの嫌がらせなど、辛酸を舐め尽くした人生であった。
唯一の人生からの逃避が本であった。物語や伝記、はたまた学術書など、様々な本を読み漁った。取り分け惹かれたのが、古代魔導帝国関連の書物であった。
なぜ千年もの長きに渡る繁栄を築けたのか、そしてなぜ崩壊したのか、謎が謎を呼び、益々没頭していくのであった。
気が付けば、彼は国のどの学者よりも古代魔導帝国について詳しくなっていた。
座学では物足りなくなった彼は、実際に遺跡に入っては、遺物を発見し、独自の研究を重ねていくのであった。
また、古代魔導帝国の魔法も研究し、マスターしていった。
その斬新な魔法は、注目を浴び、彼に習おうと弟子入りしてくる若者も少なくなかった。
そんな中、クァン・トゥー王国が目を付け、祭司として引き入れたのである。祭司として、王族にまつわる祈祷や、儀式、冠婚葬祭など様々な諸行事を仕切っては、自分なりに解釈していき、古代帝国流にアレンジしていった。
若きトレント王にとって、祭司の存在は、少し不気味で不思議な存在に映っていた。
マンソン卿の死によって、突如宰相の座が空いたのは悲劇であったが、王国の繁栄のために、最も勤勉で熱心だったのが、アングラであった為、彼が暫定的に宰相になるには充分な素質があると推薦されたのである。
トレント王は、アングラより常々古代魔導帝国について聞かされていた。熱を帯びて語る姿には、説得力があった。古代帝国の技術は、我が国の宝であり、これを復活させれば、他国の追随を許さない一大帝国を築けると。
若き王は次第に魅了されていき、その壮大な計画に賭けてみたいと思った。そして、その鍵となる存在がドラゴンのオーブだったのである。
オーブ奪取計画は、着々と練られていった。
しかし、それはガラという一人の男によって打ち砕かれてしまった。
若き王は、アングラを呼び出した。
玉座の間の絢爛たる扉が開かれた。
「トレント王よ。ご機嫌麗しゅう」
「アングラよ。聞いたぞ!トーレスがやられたというではないか!我が国最強の魔導士だぞ?一体どうなっておる!」
アングラは表情一つ変えずこうべを垂れた。
「陛下。どうか落ち着いてくだされ。トーレスの敗北は誠に悲しきこと、すべて我が責任にありますゆえ。しかしながら、陛下。私はこれを逆に好機と捉えておりまする」
「どう言うことだ?」
トレント王は、腕を組んだ。
「ドラゴンの存在が明らかになった今、世界各国に伝説となっているドラゴンもまた実在すると」
「うむ、続けよ」
「例えば、北方エルフ国家トトのエズィール。東方の辺境国エイジアのライリン。そして南方砂漠の国サーバスのアディーム。そして我が国のヴァノです」
「ほほう」
「我が国のヴァノの存在は、正直誤算でした。数千年いや、それ以上長きに渡る生息記録が文献にあります。まさか未だにやつが生きてるとは思わなんだ」
トレント王は目を丸くした。
「それは驚いた。そいつにやられたのか?トーレスは?」
「さよう。ヴァノと結託したガラは、竜の巫女も味方に付け、また、かつて我が国の“勇者英雄隊“候補にもあがった女戦士ドロレス。かような猛者達を従え、トーレスら魔導士たちを亡き者にしたのです」
「トーレスは悲運だったな」
「勿体なきお言葉。ですが、彼らの尊き犠牲によって、今はまだヴァノが守護するオーブ奪取は時期尚早と判断出来たのでございます」
「では、他国のオーブを頂こうと言うわけか。…そう簡単に行くのか?」
「エルフ国家トトのエズィール。私はそこに目を付けました」
アングラ曰く、エルフ国家(トト)は地理的に高い山々と深い森に囲まれている為、他国からの侵略も少なく、長年に渡る平和を築いてきた。よって、軍事力も最小限に抑えられており、入国も容易いという。
トレント王は、顎を触りながら言った。
「うむ、しかしながら、ここからトトまで約半月、いやそれ以上かかるやも知れぬ。そんな長旅をしながらオーブ奪取など並大抵のことではないだろう。一体誰がそれをやるのだ?」
アングラはニヤリと笑みをたたえた。
「かの者をここへ」
アングラは家来に伝えた。
玉座の間の扉が開くと、そこには一人の男が立っていた。褐色の肌に黒髪、銀の胸当てを付け、腰には獅子をあつらったサーベルを下げている。
「勇者アマダーンでございまする」
「なんと勇者!貴様、トトと戦争を起こすと申すのか?」
トレント王は驚いた。勇者を召喚したということは、その国最強の軍事力を持ってことにあたるということである。
「勘違いなさっては困りまする。むしろ狙いは逆にあります」
アングラは、これを機にトトと正式に国交を結ぶというのである。勇者に親書を持たせ、エルフの王に渡す。その後ゆっくりと国を視察するというのだ。
「もちろん、視察という名の“偵察“ですが。そこでエルフのドラゴンの情報を調査、あわよくばオーブを奪取するという算段でございます」
トレント王は頷いた。
「なるほど…しかし危険すぎなしないか?」
アングラは不適な笑みを浮かべた。
「ククク…それをやってのけるのが、この男でございます」
アングラは勇者アマダーンをとても高く評価していた。どんな難易度の高い任務も淡々とこなす。時に目を覆うような非情な任務でさえも。彼の実力も凄いが、忠誠心だけは特にずば抜けていた。
「王よ。よろしいでしょうか?」
アマダーンは口を開いた。
「うむ、申せ」
「ガラは、かつての私の盟友でした。この度の彼の行動は、まさに国家への反逆。既にわが隊を離脱したとは言え、その責任の一端は私にもあります。もし仮に、再びガラとその一行が、我々の計画の邪魔をしてきた時、私が責任を持って彼らを処罰するとお約束しましょう」
「ほう、それは心強い。よし、そなたに任せるとしよう」
こうして、クァン・トゥー王国最強の戦士、勇者アマダーンがエルフ国家「トト」へ向け出発したのである。
そしてコンパルサ(深淵なる森)、ドラゴンの洞窟では、ガラとドロレス、そしてハーフドラゴンのジェズィが焚き火を囲み、休息を取っていた。
「エルフの都は何処にあるんだ?老龍は遥か北方と言っていたが」
ジェズィはコンパルサから出たことはない。竜族たちはこの深淵なる森で、人間たちに見つかることなくひっそりと暮らしていたのだ。
「たしか、この森を抜けて、サーティ平原を抜ける。そのあと、ポカロ山脈に出て、そこを越えて、また森を抜けて…まぁ、ざっと1ヶ月ってとこかな」
ガラはかつて勇者と共に様々な国々へ旅をしたことがあった。
「い、1ヶ月!?結構な長旅じゃないか!」
ドロレスは驚いた。
「ああドロレス、お前も来るだろ?どうせもう家には帰れんだろうからな」
「そ、そりゃそうだけど…軽く言うなぁ」
ドロレスはそう言うと、セレナの方を見て思った。
(…まぁ、ガラがあの子にちょっかい出すことはないと思うが。ドラゴンとはいえ世間知らずの女の子が一人、しかも長旅となっちゃあ色々不安だよなぁ…)
セレナはすやすやと寝ている。どうやら竜の薬草が効いているようである。
ガラはこれからの旅は、過酷な旅になるだろうと予想した。何故なら、クァン・トゥー王国から追われる身となってしまったからである。
何も起こらず、そのままトトに辿り着くとは到底思えなかった。内心、ドロレスの力は必要だと考えていたのだ。
ドロレスはパンと手を叩いて言った。
「分かった!あたしも行くよ!そのエルフのドラゴンとやらを見てみたいし、武者修行と思って行くさ!…セレナも心配だしな!」
ガラはそれを聞いてほっとした。
「よし!そうと決まればすぐにでも出発したいが…まずはセレナの回復を待って、その後物資を調達しねえとな。ここから確かマングー村が近いな」
「おっ!温泉の村か!いいね!あたしはここ何年も行ってないな〜」
「いいか、お前…遊びに行くんじゃねえんだぞ」
ーそしてその夜。セレナが目を覚ました。
「…私、生きてる?どうして…?」
ドロレスは、意識が戻ったセレナに抱き付いた。
「セレナ!よかった本当に!もう大丈夫だよ。あの蜘蛛野郎は死んだ。ヴァノもオーブも無事さ!」
「ドロレス…ガラは?」
「あいつは夕飯を獲りに行ってる。そろそろ帰ってくるんじゃないかな」
ちょうどその時、ガラが帰ってきた。手にウサギや鳥などの獲物を持っている。ドロレスがセレナが目を覚ましたことを伝えた。
「セレナ…よかった」
「ガラ…」
ガラは何かを言おうとしたその時。
セレナは起き上がり、ガラに抱き付いた。
「ガラ!ガラ!もう会えないと思った!」
ガラは優しくセレナを抱きしめ頭を撫でた。
「…そうだな。俺もそう思った」
その二人を見つめ、ドロレスは涙した。そして、二人を優しく抱擁した。
その時、セレナのお腹がぐぅ〜と音を立てた。
ガラとドロレスはぷっと吹き出した。
セレナは顔を赤くして笑った。「さ、食おう」とガラは食事を用意した。
改めて三人は、焚き火を囲みながら、生きていることを噛み締め、安堵した。
ドロレスは肉を頬張りながらセレナに尋ねた。
「しかし、セレナ。あのとんでもない技の中でよく生きてたな。なんだあの黒い玉は?セレナの隠し技か?」
「黒い玉?」
セレナは何も覚えていないようだ。
その時、またしても低く響く声がした。
「あれは…竜の魔除け…」
ガラとドロレスは驚いた。
「じいさん!急に喋り出すなよ!ビビるぜ!」
「竜の魔除け?」
「さよう…お前達が生まれる遥か昔、近くの村の娘に我が授けたのだ…懐かしいな…」
「これのこと?」
セレナはマングー村で、ルナにもらった首飾りをぎゅっと握りしめていた。
「ドロレスがダガーを私に投げた時、ダガーに巻き付いてたんだ。それを無意識のうちにずっと握ってた」
ヴァノ曰く、マングー村の少女がある日、誤ってコンパルサに入り、道に迷ってしまった。
ヴァノはその少女を助け、村へと案内してやった。少女はとても喜び、お気に入りのおもちゃをくれた。そのお返しに、竜の霊力を込めた魔除けを少女にあげたそうだ。
魔除けは、魔物を遠ざけたり、魔法から身を守ってくれる効果がある。
「そんなすげぇもんなのか、その首飾りは…」
「ルナ、ありがとう」
セレナは再び首飾りを付けた。
するとヴァノは、セレナに伝えた。
「我が愛しき一族よ…その者たちと共に、エルフの竜を危機から救うのだ…そして、かの竜はお前を新たな道へと導くであろう…」
そう言うと、ヴァノはゆっくりと目を閉じ、顎を地面に付けた。
「じいさん、死んじまったのか?」
「ううん。また長い眠りについただけ。ありがとうヴァノ…本当に良かった。無事で。どうか安らかにお眠り」
セレナはヴァノの顔に抱きついてさすった。
するとジェズィが言った。
「皆のもの。道中どうかご無事で。ここは私が守っているから安心するのだ」
ドロレスはジェズィの肩をバシッと叩いて言った。
「いや〜あんたには助けられたよ!あの時あんたが飛び出して来なきゃ、あたしたちは全滅だったからね!ここはよろしく頼んだよ!」
ガラは皆の顔を見渡して言った。
「これからはかなりキツイ旅になる。心して行くぞ!」
「おーっ!」
セレナが笑顔で拳を突き上げる。
「あ、あのさ…」
ドロレスは急に深刻な顔になった。
ガラはドロレスに言った。
「ん?ドロレス、どうした?」
「…またあたしを、“持ち上げ“たりしないよな?」
ガラは、ドロレスと共にセレナに抱えられてここまで飛んで来たことを思い出した。
ドロレスは高いところが大の苦手であった。
「ははっ!大丈夫だ!とりあえずここら辺はまだ魔導士がいるかもしれん。基本的に徒歩で行く。心配すんな!」
「ほっ…よかったぁ〜」
それを聞いてドロレスは胸を撫で下ろした。
ガラとセレナはそれを見て笑うのであった。
ーそして、朝が来た。
新しい太陽が空へと昇り、ドラゴンの洞窟の岩壁から吹き下ろす風が、ガラたちの背を押した。
彼らの眼前に待ち受けるのは、希望であろうか、または苦難の道であろうか、いずれにせよ彼らはまた新たな一歩を踏み出し、旅を開始したのであった。
第一章完。
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