第一章「老龍編」第5話「老龍ヴァノ」

ー少し時間を遡ろう。


ガラが“ダイヤモンド・ダレル“で報酬を受け取り、店から出た後、ギリオスはしばらく頭を抱えていた。


「まさか…奴が本当にドラゴンを退治してくるとは…しかも、3匹だと?現役を退いたとはいえ、なんという男だ…くそっ…今回は失敗だ。これは報告せねばなるまい」


そしてギリオスは店を出た。

パンテラ北門付近にある一軒の空き家。

ギリオスはキョロキョロとあたりを見回しながら、そこへと入っていった。

入り口には、魔導士が二人並んで立っている。


「これはギリオス殿。さ、中に入られよ」


家の中にはテーブルがあり、奥には椅子に座った男がいる。周りの魔導士とはローブの色が少し違う。上位の役職者だろうか。


「これはギリオス殿。いかがされたかな?」


ギリオスは額の汗を拭いながら言った。


「いいか、よく聞けよ。あいつが…ガラが帰ってきたんだ!あいつ、ドラゴンを倒しやがった!」


「何ッ!?」


魔導士の男は驚いたが、ゆっくりと拍手をした。


「さすがは勇者の元お仲間。『炎のガラ』とはただのお飾りではなかったか…」


ギリオスは声を震わせながら言った。


「頼む…もう俺には無理だ。金なら幾らだってくれてやる。だから、娘を…俺の娘を返してくれ!」


上位魔導士の男は表情を変えずに言った。


「おいおい、何を言う。まるで我々がそなたを脅迫してるような言い草ではないか。心配するな、娘は無事だ。やむを得ず保護していただけさ。父親が我々の“治安維持活動“に協力している間だけな…」


ギリオスの頬から汗が滴り落ちる。


「ただ、このままお前を帰すわけにはいかないな。ギリオスよ、お前は知りすぎた」


男は入り口にいた二人を呼んだ。


「こいつを始末しろ。証拠は残すな」


「な、何だと…?ま、待て!」


ギリオスが何かを言いかけた時、後ろから来た魔導士の男の一人が、何やら呪文のようものをボソっと呟いた瞬間、ギリオスの瞳孔が開き、そのまま動かなくなってしまった。口は僅かに開いたまま、手は力無く垂れ下がっている。

そのまま魔導士の男はギリオスを操るように手をかざし、外へと連れて行った。


上位の魔導士は、何やら五角形の形をした不思議な物体を取り出し、そこにぶつぶつと呪文を唱えながら手をかざした。しばらくすると、その物体から声が聞こえた。


《サンボラよ。どうした?》


「アングラ様。ギリオスがやってきました。ガラが生きて帰ったとのこと」


《ほほう、それは意外だな。と、いうことはコンパルサにドラゴンは居なくなったということか》


「おそらく。ギリオスの娘はいかがしましょう」


《好きにしろ。で、奴は始末したのか?》


「はい」


《よろしい。ガラは今どうしてる?》


「後をつけさせております。何やら女を連れているようです」


《女?…竜族か?》


「まだ分かりません。調査中です」


《何かあったら随時報告するように》


「御意」



男は不思議な物体を懐にしまった。

古代文明の遺物だろうか。古代魔導帝国は、1000年の栄華を極め、ガラがいる時代よりも遥かに高い技術が発達していたという。

しかしながら、それがなぜか崩壊し、一旦人類は原始的な生活へと戻されてしまったのだ。

魔導士たちは、古代文明を研究しながら、様々な技術や魔法を密かに復活させていたのだ。


ーそして、時間は現在に至る。


ガラとドロレス、セレナは絶体絶命のピンチを迎えていた。

魔導士が信号弾を放った瞬間、四方八方から魔導士や憲兵たちがわらわらと集まってきて、三人を取り囲んだのだ。


「おとなしくしろ!無駄な抵抗はするなよ!」


ガラは思った。ここでファズ(閃光弾)を放つのには相手が近過ぎる。二人も巻き添えを食らってしまうと。

その時、ドロレスが前に出た。


「ふん!この程度の人数であたしを捕えるってのか?笑わせんな!」


ドロレスは両刃斧(バトルアックス)を深く構え、叫んだ。


「ロイヤル・ハント!!」


その瞬間、ドロレスの手からアックスが放たれ、高速で回転しながら憲兵たち目掛けて飛んでいった。

そして、アックスはズバズバと彼らを切り裂き飛んでいく。ドロレスは手をかざし、念力で斧を操っている。

この技は、ドロレスの腕力と気功の鍛錬により編み出した技である。


「ぐああ!ぎゃあっ!」


「くっ!こいつはまずいッ!」


魔導士はもう一度信号弾を放った。

さらにわらわらと憲兵が集まってくる。


「ちっ!キリがないな!」


ドロレスはもう一度バトルアックスを深く構えた。その時、ガラが叫んだ。


「よし!距離が取れた!ドロレス!セレナ!目をつぶって伏せろ!」


ガラの手から黄色く光る光球が放たれ、魔導士たちの目の前で爆発した。


「ぐおおおっ!」


閃光と共に、魔導士は後ろに吹き飛ばされた。

まわりの憲兵たちも目が眩んでいる。


ドロレスはすぐさま立ち上がり、二人に呼びかけながら、路地裏へ走って行く。


「二人とも来るんだ!地下水路から逃げるぞ!」


吹き飛ばされた魔導士は、すぐさま叫んだ。


「何をしている!追え!追うんだ!」


あたりは騒然としている。

夜中に信号弾や爆発音が響き渡り、住民たちが心配そうに外に出てきた。

魔導士の男はわらわらと出てきた住民たちに声をかけた。


「お騒がせしてすみません。問題はありませんので、どうか家にお戻りくだされよ」


戻っていく住民たちを見送りながら、魔導士の男は懐から五角形の通信装置を取り出した。


「アングラ様。サンボラです。ガラが現れました」


装置から声が聞こえる。


《捕えたのか?》


「いえ、地下水路を伝って逃げております。追跡中です。それと、朗報がございます。やはりガラと同行している女は竜の巫女でございました」


《これで情報が一致したな》


「はい、そろそろ調査隊がコンパルサに到着する頃かと」


《ドラゴンは3体。1体をガラが倒したとして、もう1体は、巫女。コンパルサに居たとしても1体ならば、容易いことよ。よし、そのまま潜入を開始せよ》


「御意」



一方その頃、ガラたちは、地下水路をひた走っていた。後ろの方で憲兵たちの悲鳴が聞こえてきた。


「トゥインゴのくれたマキビシってやつが役に立ってるな!さすがだぜ!」


ドロレスが二人に言った。


「このまま、そこを右に曲がって、まっすぐ!そうすれば川に出るはずだ!」


下水はパンテラの東付近に流れる“サーティ川“へと繋がっている。


その時であった。

セレナは、体中に強烈な悪寒を感じ、急に立ち止まった。


「セレナ!どうした!?」


「おい、嬢ちゃん!まだ追っ手が来てるんだ!」


セレナはワナワナと震え出した。


「…大変だ!コンパルサが危ない!」


ガラは一瞬何のことか分からなかった。


「何言ってんだ?早く走れ!」


セレナはガラの肩を掴んで訴えた。


「ガラ!誰かが森に入ってきた!竜族たちと戦ってる!このままじゃ危ない!ヴァノが!ロンフォが!」


ガラは何のことを言ってるのかまだ理解出来ていないようだ。


「ヴァノ?ロンフォ?い、一体何言ってんだ?』


セレナは唾を飲み込み、涙を浮かべながらガラに言った。


「ヴァノは、老龍でうんと昔からロンフォていう玉を守ってるの!ロンフォは世界を穏やかにするんだ。あれがないと世界はとても危険になる!たくさんの悪い奴らがコンパルサに入って、玉を奪おうとしてる!ヴァノが死んじゃう!私助けに行く!」


ドロレスが後ろを確認しながら言った。


「何かの本で読んだことがあるよ。世界の均衡を保つオーブがあって、ドラゴンがそれを守ってるって。お嬢ちゃんが実在するんなら、そのオーブも実在するってことだ!」


ガラはハッとした。


「魔導士の狙いはそこか!」


「きっとそれを悪用しようとしてるんだ!」


ガラはセレナの肩を掴んで言った。


「だがお前一人で行ったって、やられちまうぞ!いくらドラゴンになったって無理だ!」


後ろから走る音が聞こえてきた。


「まずい!とにかく出口まで急ごう!」


ガラたちは再び走り出した。



一方その頃、コンパルサ(深淵なる森)では…


「よし、アングラ様の報告によれば、おそらくドラゴンはいない。いても1体!我らにかかればドラゴンなど恐るるに足らずよ!我に続け!」


魔導士たちが森の中へ入って行く。おそらく50人はいるであろうか。アングラが、ガラのドラゴン退治の報を受けた後に、放った調査隊である。


アングラは古代魔導帝国の研究をしていくと、一つの興味深い対象を発見した。ドラゴンオーブの存在である。古代魔導帝国の千年の歴史は、遥か昔、魔物たちが蔓延っていた弱肉強食の時代に遡る。

魔物たちの中から、突然変異で異常に高度な知能を持つものが現れた。それが魔王である。

魔王は、魔物たちを操り、世界を恐怖のどん底に陥れていた。


そこに、“勇者“が現れ、“火““水““土““風“の力をもつ4人の英雄たちと力を合わせ、魔王を打ち破った。そして四つのドラゴンオーブを作り出して、魔物たちをなだめさせたのである。

その後四つのオーブは、世界各地へと散らばり、ドラゴンの霊力によって守られ、世界は均衡を保っていった。

世界に平穏がもたらされ、英雄たちの子孫は、魔導帝国を築き、千年もの長きに渡って、世界を治めていたのである。

(「古代史魔導帝国の謎と起源」より)


しかし昨今、ドラゴンの減少により、霊力が徐々に失われ、オーブの力も弱まり、魔物たちや人々の心は乱れ、異常気象なども多発していた。


アングラは、オーブの存在を確かめようと、過去にコンパルサへ調査隊を送り出していた。

そこへ現れたのが、セレナを含めた3体のドラゴンだったのである。魔導士とはいえ、3体ものドラゴンを相手にするのは、あまりにもリスクが高過ぎた。

しかし、ドラゴンの存在自体が、オーブの存在を決定付ける証拠となったのだ。

しかし問題はドラゴンをどうするか。そこで目を付けたのが、ガラの存在である。ガラはクァン・トゥー王国直属の勇者英雄隊のメンバーの一人であった。

“炎のガラ“の異名通り、火の力を操る魔法剣士であり、伝説の英雄の子孫“火の民“の末裔であった。

火の民は、火を操るがゆえに、火に対する耐性が非常にすぐれた皮膚を持っている。

ガラならば、ドラゴンが吐く火にも耐えられるかもしれない。倒せないとしても、ドラゴンに深手を負わせることは出来るはずだ。しかも、勇者隊を離反した人間である。近い将来、アングラが権力を完全に握った時に、反乱する恐れのある因子の一つでもあった。従って、この案はアングラにとって非常に都合が良かったのだ。


コンパルサに入ると、魔導士たちは僅かながらの霊力を感じていた。


「ちっ!やはりドラゴンはいるようだな…」


そこへ二つの影が近付いてきた。


「そこで止まれ!怪しい人間共よ!」

「深淵なる森に何のようだ!」


ハーフドラゴンのジェズィと、竜人のシャキーラである。

ハーフドラゴンは、角、羽、尾が生え、鱗で覆われているが、人間よりやや大きい程度の大きさの亜人種であり、顔はドラゴンに近い。よくリザードマンと間違えられる。

竜人は、さらに人間に近い姿形だが、これもまた鱗で覆われており、角、羽、尾が生えている。


「これはこれは、我が名はクァン・トゥー王国直属魔導士師団長トーレスと申す。暫定宰相アングラ様の命を受け、コンパルサへ調査に参った。邪魔をするなら、貴様らを国家反逆とみなすぞ?」


ジェズィは鼻で笑った。


「ハッ!反逆だと?笑わせるな!こちとらお前らの国ができる遥か昔からここにいるんだ!」


シャキーラも続けて言った。


「一体何の調査だ?ここにはお前らの欲しがるものなど何もない!今すぐ立ち去るがいい!」


トーレスはふぅとため息をつき、手下の魔導士に向けて手をくいっと向けた。


「やれやれ。そうか、分かった。よし、お前たち、やれ」


魔導士たちが一斉に詠唱し出し、竜人たちに向けて紫色の光球を放った。

ドドドッ!という音と共に、無数の光球が竜人たちを襲う。

「チッ!」と素早く反応した二人は、さっとそれぞれ左右に飛び上がってかわした。


紫色の光球は、地面や木々にぶつかって爆発した。

ドンドン!と凄まじい音と、バキバキという木が倒れる音が当たり一面に響き渡った。ギャアギャアとたくさんの鳥たちが飛び立つ。


その瞬間、上空から魔導士たちに向かって数匹のワイバーンが襲いかかってきた。


「ぐああっ!」


ワイバーンたちは、魔導士を捕まえて、瞬く間に空高く飛び上がった。


「ギャァース!!」


トーレスは叫んだ。


「ワイバーン!隠れていやがったのか!」




そしてガラたちはその頃…


ドロレスが叫ぶ。

「見えた!あそこが出口だ!」


地下水路の先の出口には川が流れていた。


三人は川へ出ると、土手に移動した。

するとセレナは突然服を脱ぎ出したのである。

何事か察知したガラは、セレナを制止した。


「おい!セレナ!変身するのか?待て!」


「そうだよ!お嬢さん!一人で行くのは、ガラの言う通り危険過ぎるよ!」


ドロレスも必死である。


裸になったセレナは服をガラにぐいっと無理矢理持たせた。


「このままだと世界が危ないんだ!」


するとセレナは突然ガラに抱きついて口付けをしたのである。


「え?」


ガラは唖然としている。


そして、セレナはドロレスの方に向いてすたすたと近付き、今度はドロレスに抱き付いて口付けをした。


「…っと、お嬢さん?あたしはそんな趣味は…」


セレナはニコッと笑った。


「じゃあ二人とも“持って行く“ね!」


「え?、持って…


ドロレスがそう言いかけた次の瞬間、セレナはドラゴンに変身し、ガラとドロレスをガバッと持ち上げ、そのまま空へ飛び上がった。


「わわわ〜ッ!!」


ドロレスは驚いて目をつぶった。


大きな翼をバサッバサッと羽ばたかせ、セレナはコンパルサに向けて、物凄いスピードで向かう。


ガラはセレナに捕まりながら言った。


「ドロレス!振り落とされんなよ!」


「ううぅ〜ッ!あたしは高いとこが苦手なんだ!」


《大丈夫!しっかり掴まえてるから!》


ガラとドロレスの頭の中にセレナの声が響いた。


《言葉は口から出る。口と口を合わせると心で話ができるの!》


「セレナの声がする!思念で会話できるのか!」


「お、お、お嬢さん!もうちょい低く飛べないかな〜ッ?」


《大丈夫だよ!ふふっ心配しないで!あと私はセレナでいいよ》


セレナたちはあっという間にパンテラを離れ、コンパルサに向けて飛び立っていった。



そして、魔導士トーレスたちは…


「お前たちは竜人を!お前たちはハーフドラゴンを狙うんだ!ワイバーンは俺が仕留める!」


魔導士たちは二手に分かれた。

シャキーラはババッと素早く矢を放つ。そしてシャキーラは、何かを察知した。


「ジェズィ!セレナが気付いた!」


「そうだな!彼女が来るまで持ち堪えるんだ!」


ジェズィは槍を振り回して魔導士を薙ぎ払う。


「ぐあっ!」


しかし、背後にいた魔導士が光球を放った。


「ジェズィ!危ない!」


シャキーラは、光球とジェズィの間に入った。

ドーンという音と共にシャキーラが吹き飛ばされた。


「シャキーラ!」


「やったぞ!」


トーレスは魔導士たちに叫ぶ。


「ハーフドラゴンはお前たちに任せる!あとは俺について来い!」


トーレスは、ドラゴンの洞窟へ向けて走り出した。ワイバーンが彼らを追う。


「ふん!これでもくらえ!」


トーレスは一気に3発の光球を放った。


1発がワイバーンに命中した。


「ギャース!」


「よし、またワイバーンが来ないかここで見張っていろ!」


トーレスと魔導士たちは10名程になった。


その時、魔導士の一人が何かを発見した。


「トーレス様!あれを!」


そこにはドラゴンの死骸が2体横たわっていた。

ガラが倒したドラゴンである。


「ドラゴンの死骸!2体も!あの男、2体も倒したと言うのか!しかも1体は手下に…何と言う奴だ。炎のガラ…恐ろしい男よ」


「だが、これでハッキリした。残すドラゴンは竜の巫女のみ。よって、もうここにドラゴンは居ない。行くぞ!」


トーレスはさらに進み、セレナたちドラゴンの棲家の洞窟に辿り着いた。


「ここか!よし入るぞ」


トーレスたちは洞窟の奥へと進んだ。

奥に連れて、洞窟はかなりの広い空間になっていった。


「中はこんなに広いのか。確かにドラゴンが住むにはちょうどいい広さだ」


そして、そのさらに奥に何やら大きな物体がいるのを発見した。


「な、何だあれは?」


そこには黄金に光り輝くオーブが台の上に鎮座していた。しかし、その後ろに巨大な何かがいるようである。

苔むした岩山のように見えるが、かすかに動いている。いや、眠っているようだ。


老龍“ヴァノ“である。


ヴァノはセレナが誕生する遥か昔からそこに居て、オーブを守っていた。

一体いつからそこに居るのか誰も分からない。

くすんだ灰色の鱗に覆われたその大きな体は、30メートルを優に超えており、体中に苔やキノコが生えている。

ヴァノは100年に一度目覚めては、また100年眠りにつくという、気の遠くなるようなサイクルで生きている竜である。

コンパルサ周辺の村では、先祖代々、空飛ぶ竜を目撃したという話が伝えられており、その姿を見たものは、子々孫々まで幸せになると言い伝えられている。

洞窟の上部には、おそらくドラゴンが出入りするであろう穴が空いており、そこから月の光が差し込み、ヴァノの顔を照らしていた。


「こいつは驚いた。まだドラゴンが居たとは。どうりでさっきから霊力が弱まらんわけだ…だが、こいつ生きてるのか?いや、眠っているのか?」


トーレスは唾を飲み込み、恐る恐るオーブに近付く。

その時であった。ゆっくりとヴァノの目が開き、顔が動き出した。ゴゴゴ…と、岩山が擦れる様な音が洞窟に響き渡る。


「我が眠りを妨げるものは、何者ぞ…」


魔導士の一人が驚く。


「こ、こいつ喋ったぞ!」


トーレスは、少し後退りした。


「ふっ、なんだ。とんだ老いぼれではないか」


「我が名はヴァノ…神聖なる宝珠を守護する竜なり…宝珠は世界の理を司る珠玉なり」


ヴァノはギロリとトーレスを睨んだ。


「我が名はトーレス。クァン・トゥーは王直属祭司であり、宰相アングラ様の命を受け、この宝玉を頂きに参った。」


ヴァノは静かに答える。


「例え時の城主なりとも、この宝玉を渡すわけにはいかぬ…汝らよ…世界を破滅させたくなくば、退くがよい…」


トーレスは苛立った。


「ちっ。拉致があかんな!」


するとトーレスは部下の魔導士にオーブを持ってこいと指示した。

部下たちは恐る恐るオーブに近付いた。


その時、ヴァノの目が大きく開き、立ち上がった。

ゴゴゴという音共に、ヴァノは翼を開き、口を大きく開けた。


「愚かな人間よ。立ち去れ…!」


ヴァノの口の奥から白い光が輝き出す。

コォーという音と共に、波動が口からほとばしった。


「まずい!」


トーレスは地面に伏せた。


「ぐわぁーッ!」


部下たちは、叫びながらたちまち漕げる様に消え去った。


「な、何だこれは?」


「さぁ、立ち去れ!人間共よ!」


ヴァノはまた口を開けた。


「また来るぞ!」


トーレスはヴァノの口目掛けて紫色の光球を放つ。

ドーンという音と共に、ヴァノは目を瞑り、首を大きく逸らした。


「グオオーン!」


とてつもない咆哮は、洞窟はおろか、森全体に響き渡った。


「効いたぞ!おい!お前ら!ありったけのディストーンを食らわせてやれ!」


ディストーンとは紫色の光球のことである。

トーレスと残りの部下たちは一斉に構えた。

ボボボッという音と共に数発のディストーンがヴァノに向けて放たれる。

すぐさまヴァノは翼を盾にして防ぐ。ドドドンという爆発音が鳴り響く。

グオォォとヴァノが苦しそうな声を上げる。


その時、バサッバサッという翼の音と共に、月明かりに照らされた若きシルバードラゴンが、夜空から舞い降りた。


両手にはガラとドロレスを抱えている。


「グオオオオン!!」


凄まじい怒りの咆哮は、洞窟全体を震わせ、老龍の目の前に着地した。

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