都会の幽霊
曖惰 真実
第1話 スーツの幽霊
恐らく私は、幽霊が視える能力を持っている。私の視界にはっきりと映るその姿を、街を行き交う人々は目もくれずに歩いている。なので多分、私だけが視ている彼らは幽霊である。
朝の大手町は人間の形をしたエネルギッシュで溢れている。スーツブランドのコマーシャルで観るような人間が、駆け足のような速さで隙間無く歩いている。殆どの人間がスマホか腕時計を見ている中で、私は幽霊を視ている。明らかに歩みが遅く、周囲から浮いているその姿に誰も興味を示していない。人々は彼が透明であるかのように通り過ぎていく。
その幽霊もスーツを着ていた。傷だらけの革靴を履き、折り目の無くなったズボンに皺くちゃのカッターを片側だけ収納している。伸ばしたままの頭髪、くたびれた衣服、重い足取り、きつく絞められたネクタイは現代社会の奴隷の様子を呈している。虚ろな瞳は辛うじて前を捉えているが、その焦点は何処にも合わされていないだろう。彼は行き交う雑踏の中をヨタヨタと身体を左右に振らしながら、精一杯歩いていた。
毎日の様に視ていた幽霊は何時の間にか姿を消した。彼は無事に成仏出来たのだろうか。大手町はいつも通り早歩きの人間で賑わっている。
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