方舟
山川一
第1話 雌雄の熱力学的モデル
雌と雄という二極の存在を、熱力学的モデルとして捉えてみる。このモデルでは、雄を「高温部」、雌を「低温部」、両者の接続点を「抽出点(生命生成)」とする。このとき、以下のような関係が見えてくる。
雌雄のエネルギー差が大きいほど、生命は生まれやすい。雌と雄のあいだにエネルギー差が存在するほど、抽出点で取り出せるエネルギーは多くなる。すなわち、雌雄の差異が大きければ大きいほど、生命が誕生しやすい。
別の抽出経路があると、生命生成のエネルギーは減少する。
雌雄のエネルギー差は有限である。したがって、生命生成とは別の場所でエネルギーが抽出されれば、そのぶん抽出点で得られるエネルギー量は減少する。
抽出が繰り返されれば、雌雄の差異そのものが失われる。
エネルギーが消費され続ければ、雌雄のエネルギー差そのものが減少していく。これは、生命を生み出す原動力が徐々に失われていくことを意味する。
結論として、雌雄という構造は、生命のためのエネルギー機関である。この単純なモデルから導かれるのは、生命生成とは自明なことではなく、雌雄の差異が接続されたときにだけ生まれる、限定的な現象だということである。
ここでは、それ以上の議論には立ち入らない。ただ、雌雄の接続が熱力学的なエネルギーの流れと対応しているという観点だけを、まず提示しておく。
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