第32話

「それじゃ頑張ってボクたちを儲けさせてくれ」


 夕食が終わり、いよいよ『新入生の祭りウェルカム・パーティ』の時刻となると、私達は一旦は寮の集会所に集い、レオツルフ先輩から簡単な概要の説明と利己的な激励を受けた。


 寮生たちも逸る気持ちを抑えられない様子だ。元々自己顕示欲と承認欲求の強いのが多いのだから、活躍の機会が待ち遠しかったのだろう。他ならぬ私もそうだし。


「まあ、損はしないですよ。けど勝ちが決まっている寮に賭けても儲けは少ないんじゃないですか?」

「言うねえ」


 私の言葉に一つ、歓声があがった。特に彼らにしてみれば、私と言う存在も大きいのかもしれないと思った。自惚れとは思っていない。


 なぜなら私は学年主席なのだから。実際の成績は四位で、あの波路に順位を譲ってもらったに過ぎないのだが、それはあの時あの儀式の場にいた少数しか知らない事。今回のイベントで私の実力を一年生全員にもう一度誇示できれば、真実は改ざんできる。


 そもそもあの試験じゃ、せいぜい危機察知能力と移動術くらいしか推し量れないじゃないか。私の実力をアピールするためにはそれ以外の要素の方がに多いのだ。


 大人げないと言われようが何どうしようが、もうなりふり構ってはいらない。


 その為に考えられる戦術は頭に叩き込んだし、どんな大魔法だって使う事を惜しみはしない。試験の時と違って全員が全員の審査官となるのだ。圧倒的と全員に言わしめるくらいの勢いで押し勝ってやる…!


「楽しみですね」

「うん」


 リリィの言葉に生返事をしてしまう。それだけ意気込んで集中していた。地震がこようとも気が付かないかもしれない。


「頑張りましょう。亜夜子さん」

「ナチュラルに隣に立つんじゃねえ!」


 雷の魔法を纏わせて筋力を上げたサイドキックを波路の脇腹にぶちこんだ。いくら集中していたとしてもお前の接近を許すほど落ちぶれちゃいねえ。


 勢いよく茂みの奥にまで飛んでいった波路に中指を立てると、


「では、皆さん。気を取り直して行きましょうか」


 と、平静を装って言った。


 ◇


 それからは私とリリィが先導となって昨日案内された体育館を目指した。体育館に近づくたびに私は血が熱くなり、歯の根元をくすぐられるような感覚がもどかしくてつい歯を食いしばってしまった。もう歩いているのすら面倒だ。箒に乗ってさっさと移動してしてしまいたい…。


 やがて夜の空の下に体育館の陰影が見え始めた時、ふとリリィが前方を指さして言った。


「誰かいます」

「え?」


 見れば確かに入り口の前にフワフワと誰かが浮かんでいた。どこかの寮の生徒かと思いきや、近づくにつれてそれは見た事はないが教師だという事が分かった。


「#傲慢の寮生__ルシファーズ・バーダー__#だな? 代表者は誰だ?」

「はい。一年寮長のアヤコ・サンモトです」

「本日の「新入生の祭り」は急遽、開催場所が変更になった」

「変更?」

「そうだ。演習場の場所は分かるかな?」

「いえ…あるとは聞きましたが、場所までは」

「ならば使い魔との挨拶をした儀礼場は分かるな?」

「ええ。それでしたら」

「よろしい。演習場はその隣にある。そこに行けばまた別の教官がいるから尋ねるように」

「分かりました」


 聞こえてはいただろうが、私は向き直り会場が変更になった旨を全員に伝えて進路を変えた。何だか出鼻を挫かれた気分になった。


「どういうことでしょうね?」

「さあ?」


 土壇場になって開催場所を変更する理由は気にはなったが、今は些細な問題だ。私が考えるべきことはどこでパーティがあろうとも全員を完膚なきまでに叩き潰すことだけだ。むしろ演習場のような屋外の方が暴れやすいメリットがある。この変更は好意的に受け取ってもいいかもしれない。


 演習場とやらは案の定すぐに見つかった。あの先生の言う通りの場所にあったので当然と言えば当然だが。


 広漠とした平原は森に囲まれ円形状になっている。日本の一般的な学校の校庭の五倍くらいの広さがあった。なので一寮につき人数がが精々二十数人の私達一年生が集合したところで、寂しさと演習場の広さを演出する程度にしかなっていない。


 そして、トゥザンドナイル率いる『色欲の寮』の面々が出揃うと、いよいよ『新入生の祭り』が始まった。

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ストーカーを堕とす天才魔女のストラテジー 音喜多子平 @otokita-shihei

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