第3話

「減らず口だな。しかし、この間合いは私に有利に働く。」


信は素早く砂利道の小石を掴むと、狙いを定めて高城希来の頭上に向けて力強く投げつけた。

「必殺コメテオ!」💥


小石は空気を切り裂き、鋭い勢いで高城の頭上に迫る。⚡


田んぼのあぜ道に突き刺さっていたイボ付きの棒を、高城希来は素早く引き抜いた。

「これで何とかなるか……」彼の瞳に、冷たい光が宿る。


その棒を握り締めると、高城は神代信の放つ必殺コメテオが頭上から降り注ぐ度に、棒を振り回し、次々と石を叩き落としていった。

「全部、叩き落としてやる!」声には緊迫感が混じる。


しかし、その必死の守りも、次第に限界に近づいていた。


――必殺技も、破れるときは破れる。

しかし信は、イボ付きの棒の耐久力の弱さを冷静に見抜いていた。


「最強の防御だって、攻撃に転じられなければ意味がない!」


信は鋭い視線を高城に向け、拳を握りしめて叫んだ。

「いくぞ、必殺コメテオ!」


「弾は、そこら中にあるもので勝負してやるさ。」


だが、高城希来も黙ってやられるわけではなかった。

彼はこれまで手加減していたが、状況を見極め、覚悟を決めた。


高城は、信が放つ一つ一つの必殺コメテオの軌道を鋭く見極め、すべてを正確無比に打ち返していく。


「これが俺の全力だ!」

「ぐわっ!」


神代信は大きなダメージを負い、地面に倒れ込む。

一方の高城希来は、傷一つ負っていなかった。


希来は心の中で呟いた。

「すまない……お前は思ったより出来る奴だ。だから、俺も手加減できない。――本気にならざるを得ない。」


それでも信は、次の作戦を考えていた。

「これならどうだ!」


信は大きな岩を持ち上げる。💪🪨

「おいおい、そんな岩、どこから持ってきたんだ!」


高城希来は驚きを隠せなかった。😲

「お前は靴がないから機動力が落ちている。この隙に体当たりしてやる!俺は体力に自信がある!」


高城が叫ぶと同時に、信は突進した。

「超必殺メテオクラッシュ!」


しかし、その瞬間、相沢まゆが必死に体を投げ出して間に割り込む。

「信っ……やめて!この人は、私が小さい頃、施設にお金を運んでくれた“足長おじさん”みたいな人なの!お願い、やめて!この人は、私にとって唯一のヒーローなんだから!」


信はまゆの叫びに一瞬戸惑いながらも、ゆっくりと拳を下ろした。

「まゆ……わかった、もう終わりにしよう。」


高城希来も息を整え、険しかった表情に少しだけ安堵が浮かんだ。


こうして激しい争いに終止符が打たれ、静寂が二人を包み込んだ。


神代信は高城希来との対戦から多くを学び、その経験を糧に努力を重ねた。

現在、彼は秋田県農業未来ラボの最年長主任研究員として、高品質で多種多様な米の研究に取り組んでいる。


また、秋田県農産種苗交流会では審査委員長を務め、その実績は県内外から高く評価されている。


あれから三年。

信は相沢まゆと共に、穏やかな晴れの日に結婚式を挙げた。


「まさか、あんたに祝ってもらう日が来るなんてな、高城希来さん」

信が笑いながら言うと、

「何言ってるんだよ。俺は相沢まゆの結婚式を祝いに来ただけさ」

希来も照れくさそうに答えた。


「そうか……それでも嬉しいよ」

信は穏やかな笑みを浮かべる。


「それより義玄さんはどうしたんだ?あの人がいなかったら、俺はまゆが結婚することすら知らなかったよ。」

信がぽつりと言うと、まゆは少しだけ寂しそうな顔をした。


「義玄おじさん?今日はどうしても外せない用事があるらしいの。秘密の用事以外で謝るなんて、初めてよ。」


まゆは、信が守ってくれる最後の晴れ舞台を見られないのを残念に思いながらも、探偵のつてで高城希来の居場所を突き止めていた。

そして、目的である妹の敵もついに見つけ出していた。


「セドリック顔よ、こんなことに付き合わせて悪いな。最後の仕上げだ。」

義玄は静かに呟く。


義玄は拳をぎゅっと握りしめた。

目の前の相手を仕留めることは、何年も胸に刻んだ怒りの解放のはずだった。

だが、ふと頭をよぎる――もし俺がここで倒れたら、この倉庫の中のものは誰が整理する?

初めて文明の発達で手に入れ、こっそり楽しんできた古いエロビデオたち。

そして、後に買い集めた最新のエロDVD。

さらに、密かに集めたエログッズ――どれもが、俺の痕跡であり、人生の小さな秘密だった。


相沢まゆの手に渡るのか、それとも神代信のコレクションになるのか?

高城希来が転売するのか?

怒りの熱は一瞬で冷め、代わりに静かな覚悟が胸を占めた。

復讐を果たすより、守るべきものを最後まで守る方が、俺にとって大事だったのだ。

義玄は深く息をつき、倉庫の鍵を握りしめたまま、誰にも見せない。

誰にも渡さない。

墓まで持っていくことは出来ないだろうが。


「これでいい……」


倉庫の扉を閉める手が微かに震える。

埃と古い木の匂いが混ざった空間は、義玄の不器用で孤独な意志を静かに抱きしめていた。

古いビデオも最新のDVDも、そしてエログッズも、すべて文明の産物であり、彼の人生の痕跡であった。

今、その全ては鍵と共に封じられ、誰にも知られぬ秘密の体裁としておく。

それでも、確かに存在していたその意思は、義玄の決断を物語っていた。


長年抱え続けた怒りと孤独が、今ようやく形を取り、胸の奥でうずまいていた。

死を意識した瞬間、すべての重荷から解放されるだろうと一瞬思った。

しかし、その先にある静寂を思い描くと、なぜか違和感が胸に広がる。


死んでしまえば、あの小さな悦びも、日常の些細な幸せもすべて消えてしまう。

義玄はそのことに気づいた。


ブイチューバーのASMR――あの囁き声、ページをめくるように柔らかく、静かに心に触れる音。

誰に知られるわけでもなく、ただ自分だけが心を預けられる時間。

あの音を聞くたびに、どこか安堵し、孤独を忘れ、少しだけ生きる意味を思い出す。


この瞬間、義玄の中で死の決意は少しずつ溶けていった。

確かに、復讐や後悔、憎しみは消えることなく胸に居座っている。

しかし、たとえその重みを抱えながらでも、まだ失いたくないものがある――それが生きる理由になった。

生きることの意味は、壮大な復讐や劇的な勝利だけではなく、こうした些細な悦びや静かな瞬間の連なりにもあるのだと、義玄は思い知った。


生きることを選ぶ理由は、強く大きなものではない。

小さく、儚く、でも確かに自分の心を温めるもの。

義玄はふっと息をつき、目を閉じる。

闇はまだ深いが、心の奥に小さな光がともった。

それは、まだ聞きたい囁きの声がある――それだけの理由で十分だった。

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