第18話 僕は何となく事件を解決する

さっき笑っていた七王国のうちの一人――堂々と前に出てきた男が、静かに名乗った。


『私は七王国のリーダー、アーサーと申す者。これまで故あって伯爵の味方をしてきたが……最早これまでよ。ランス王国に行こうとは思わぬが、次に剣を向ける相手はサクソン王国となろう』


その一言に、やっと事態を理解し始めた貴族が約一名プラス。

さっきまで胸を張っていた伯爵が、目を剥いて叫ぶ。


『お、お前たち……裏切ると申すのか?! 私を誰だと思っている!』


すると、ここでお約束の男が一人。

『俺は伯爵様に付くぜ! アーサー、世話になったな。俺は伯爵様のためにサクソン王国に残って忠誠を誓う!』


そう、見事な裏切りを披露したのはランスロット君。

ただ――タイミングはどうなんだ、それ。


◇


僕はちょっと手を挙げて制した。

『えーっとね、七王国のみなさんは“伯爵のせいで”サクソン王国を追放されているんですよね? 自ら申し出た訳じゃないんです。そんな言い方だと、外の人たちが勘違いしてしまいますよ』


途端に、周囲の視線が一斉に伯爵へと集中する。

突き刺さるような無言の圧力。


『わ、儂は悪くない! 悪いのはこの男だ! 全部、コウとかいう得体の知れん奴が悪い!』


矛先を変えられて、僕は後ろを振り返った。

すると、偶然目が合った野次馬のひとり――どう見ても普通の商人風の男が、おびえた声を上げる。


『わ、わたしですか?!』


『違う。キサマだ! キサマが悪いのだ!』


――え、まさかの丸投げ?

仕方ない。相手をしてあげよう。


『私のどこが悪かったんです? 街に入って歩いていたらドラゴンを寄越せって言われ、断ったら射殺命令を出されて、でも死ななかった――そこが悪いんですか?』


伯爵の顔がさらに赤くなり、歯をむき出して叫ぶ。

『そ、そうだ! あの時キサマは死ぬべきだったのだ! 生きているのが罪だ!』


……呆れてものが言えない。

僕だけじゃない。七王国、兵士、野次馬、全員が「なんだそれ」という顔をしていた。


◇


どうしたものかと腕を組んでいたところ、甲冑の足音とともに一人の男が駆け込んできた。

――あ、どこかで見たことある顔。


『私は近衛第二師団団長、デューラーと申す者。先ほど城門でお会いしたコウ殿が揉めているとの報告を受け、急ぎ参った次第』


伯爵の顔が一転して綻ぶ。

『これはこれはデューラー殿、よくぞ来てくれた! ちょうどいい、早くこの者を捕らえてくれ!』


あれ? 隊長っぽいと思ってたら団長さんだったんだ……。


◇


『どういった状況ですかな?』

デューラーさんが静かに問いかける。


してやったりの伯爵が、誇らしげに声を張る。

『この者が無礼を働き、不敬を問うているところなのだ!』


しかし、デューラーさんの反応は淡々としていた。

『今のお話に、間違いはございませぬか?』


すかさず、七王国の元気な女性が一歩前へ出る。

『間違いしかありませんねー。伯爵のおっさんがこのお兄さんに強盗を仕掛けて、殺そうとしたら失敗して、うちらが呼ばれたんです。で、バカなことばっかり言うから笑っちゃったら、追放を宣言されちゃったのよね』


伯爵の顔はみるみる赤黒く染まり、肩が怒りに震えていた。


デューラーさんが今度は僕へ。

『コウ殿、今のお話に間違いはございませぬか?』


『間違いないです。……多少“良く”聞こえてますけど、ほぼそんな感じです』


デューラーさんは静かに頷き、今度は伯爵を向いた。

『伯爵、言い分はございますかな?』


伯爵は喉を震わせ、声を張り上げる。

『わ、儂は認めぬ! このような怪しげな男の戯言を聞く必要はない! デューラー殿よ、この男を今すぐ捉えるか、処刑するよう申し付けるぞ!』


◇


デューラーさんは少しも揺るがず、静かに言った。

『このコウ殿は〈絶対権〉を保有しておられる』


『『『なんと?!』』』


伯爵とギンパチが同時に叫び、周囲の野次馬までもが驚愕の声を上げた。


……え、ナニソレ??


デューラーさんが補足する。

『聞き慣れぬ者もいるようなので説明しよう。コウ殿の身分は国家が保証しており、その権威は王をも上回る。王の盾にして、法の外に立つ存在だ』


『『は?』』


僕と仲間たちは思わず同時に声を漏らした。

王様より偉いって、どういうこと? なんで??


伯爵はなおも食い下がる。

『そんな馬鹿な話があるか! 根拠はどこにある! 証拠を見せよ!』


デューラーさんが僕に手を差し伸べた。

『コウ殿、証明書をお貸し下され』


なるほど……。これに書いてあったんだね。


◇


デューラーさんが証書を開き、朗々と読み上げた。


【コウ殿の身分を絶対権とする。些細なことも赦さぬ。何人たりとも絶対に仇なすこと無かれ。王の盾として命ずる。仇なす者の身分を剥奪し、全て拘束せよ。――エドワード侯爵】


『『『………』』』


沈黙が落ちた。

伯爵は口をパクパクさせるが、声が出ない。

ケイン君は肩を落とし、完全に諦めた表情。

ランスロット君は剣を下ろし、難しい顔で何かを考え込んでいた。


◇


デューラーさんはゆっくりと伯爵を見据え、宣言した。

『それでは――〈元〉キーン伯爵。お越し頂こうか』


短く、しかし確定的な言葉。

兵士たちが動き、伯爵、ケイン、そしてランスロットの三人は静かに連行されていった。


観衆からは驚嘆と安堵のため息。

七王国の面々も肩を竦めながら、「やれやれ」と視線を交わす。


◇


僕は両手を軽く叩いて宣言した。

『じゃ、一件落着だね♪』


……周囲のみんなは、何か言いかけて口を閉じた。

安堵なのか呆れなのか――微妙な空気を孕んだまま、事件は幕を下ろした。

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