歓喜のアンセム: ベートーヴェン、EDMと出会う。

伽墨

第1話 沈黙の部屋

冬のウィーンは、灰色の絹で部屋を包むように静かだ。

窓辺の結露が指先でなぞった譜線みたいに流れ落ち、かすかな水音は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの耳には届かない。彼は鍵盤の上に額を預け、まるでピアノという棺に身を横たえる亡霊のように動かなかった。


かつて音は彼に群がり、争うように自分を選んでほしいと懇願した。旋律は鳩のように肩へ止まり、和声は焚き火のように手を温めた。今は——遠い。扉の向こうに置き忘れてきた荷物みたいだ。手を伸ばしても届かない。伸ばせば伸ばすほど、腕の関節が軋み、痛むだけだ。


「神よ、なぜ私から音を奪ったのだ……」


声を出したつもりなのに、自分の声が自分の耳に来ないというのは、不思議なことだ。まるで、暗闇の中で自分に手紙を書いて、投函口がどこにあるのか分からなくなってしまったみたいである。


机の上には未完の楽譜が積み上がり、音符たちは氷の下でじっとしている魚の群れのように動かない。時折、遠雷が胸の奥で鳴る。あれは心臓か、それとも絶望の車輪か——。


「先生……」と、背後で弟子の声が諦めきれない希望みたいに揺れた。「少し、外の空気でも吸いませんか」


ベートーヴェンは、鍵盤から額をゆっくり離した。木目の跡が額に縞模様を残している。彼はコートをつかみ取り、部屋の冷たい空気ごと、重い扉を押し開けた。


階段を降りると、石の一段ごとに、古い音楽の亡霊が足元でパリパリと砕ける気がした。通りに出ると、冬の夜が口を開け、肺に噛みついた。寒さは残酷だが、公平でもある。ひとしく誰の鼓膜も凍らせる。しかし、寒さの中でさえ、世界は鳴っているはずだった。馬車の車輪、遠くの笑い声、道端の犬の吠え……それらは今、彼の世界からふるい落とされた砂金のように、沈黙の底へ消えていた。


——そのときだ。

彼は足を止めた。胸の中の水面に、輪が広がる。ひとつ、ふたつ。規則正しい円が、遠くからやってくる。


「先生?」と弟子が覗き込む。


ベートーヴェンは返事をしない。代わりに、足裏を石畳へ押し付けてみた。石は震えている。いや、石だけではない。空気も、建物も、心臓も、何かの見えない鼓動に合わせて、わずかに上下しているのだ。


四つ。四つ。さらに四つ。

石畳の奥で巨大な心臓が跳ねているような、無遠慮で健康的な脈動。大地のどこかで、誰かが巨大な太鼓を叩いている。いや、太鼓にしては……深すぎる。地面の下の洞窟が笑っているみたいだ。


「……感じるか?」ベートーヴェンは囁いた。自分の囁きが、自分の胸郭の内側で反響した。「床が、鼓動しておる」


弟子は目を丸くして、彼の靴先から石畳へと視線を落とす。「——確かに、なんだか……震えていますね」


震えは、遠雷ではなかった。統率された軍隊の行進のように、迷いなくこちらへ近づいてくる。四つ。四つ。四つ。

世界が巨大な拍子記号を掲げて行進してくる。4/4。

音は聞こえない。だが、音楽はある。腹の底で、背骨で、歯の根で。


ベートーヴェンは、吸い寄せられるように歩き出した。脈打つの川を遡る鮭のように、身体のどこか古い部分が進むべき方向を知っている。弟子は慌てて後を追う。


夜気は冷たい。しかし、角を曲がるごとに、冷気の中へ薄い熱が混ざる。鉄が打ち延ばされる匂い、汗、ぎらついた灯りの残り香。遠目に、教会の影が息をしているのが見えた。吐く息が真っ白に広がって、鐘楼の輪郭に絡みつく。


——教会だ。

神の家。沈黙の館。

そこから、世界の心臓が鳴っている。


ベートーヴェンは口の端で笑った。長い間忘れていた種類の笑いだった。期待と恐れの中間にある、小さな悪戯心。

「神よ、もしあなたの家で何かが起きているのなら——わたしも混ぜてくれ」


彼は扉へ向かった。重い木戸は、彼の手の中で意外なほど軽かった。

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