最強プロゲーマー、勉強とゲームが逆転した世界で初心者スタート!?

マイクなうさぎ人間

ジャンル違いの帝王のチュートリアル

プロローグ 最強のFPSゲーマー

 俺の名前は保川 哲也。

 ゲームをこよなく愛するゲーマーで、FPSにだけは自信がある、ただの社会不適合者のFPS廃人だ。

 家に引きこもり、モニターと向き合う毎日。

 でも、それが幸せなのだ。

 

 モニターを見て、マウスを握り、キーボードを叩いて、画面に広がる戦場を駆ける。

 音楽はなく、聞こえるのは耳をつんざく銃声と、かすかに聞こえる足音。

 硝煙の匂いもなく、28インチのモニターに映るのは精巧な3Dグラフィックで作られた偽りの世界。

 そこは、4対4で競う、ただのゲームではない競技の世界。

 俺の生きる場所で、この世で一番愛する世界なのだ。

 

 ここだけは現実を見なくても良い。

 陰口も、すれ違いざまに肩をぶつけられたあの衝撃も、ここにはない。

 クラスのリーダ格だった伊藤に、こんなのも分からないのかと小ばかにされ、クラス中から笑われる事もない。

 誰もがチートだと疑うAIM、奇襲をねじ伏せられる反射神経、銃弾をよけるキャラコン、それがこの世界で俺を最強という存在にしてくれる。

 小賢しい戦略も、陰謀もここでは必要ない。

 初めて出た大会に優勝した時も、たった一人で4人を相手に逆転した時も、そんなものは必要なかった。


 自分の力で世界大会に出て、世界の頂を奪う。

 賞金も手に入って、みじめな承認欲求も満たせる。

 それで十分なのだ。


 いくら頑張っても報われない現実の事など、どうだっていい。

 どうせ、つまらないのだから。

 そんな風に思っていたのに。


 「いつまでも引きこもっているつもりだ!」


 声を荒らげて部屋に入ってきた親父が手にしていたのは、野球用の金属バットだった。

 ただ事ではない。


 「どうしたんだ、親父」

 「見たぞあの成績表を! 一度も高校に行かずに何をしていたんだ!」

 「ゲームだよ、それ以外に何もないよ」

 「どうしてだ! 安くない学費を払って一度も行かない奴なんていない!」

 「どうせ辞める。あんな場所にもう二度と行きたくはない」

 

 その言葉に激高したのか、親父はバットを振り回す。

 

 「お前はやれば出来るんだ。学校で起きた程度の失敗で何を挫けているんだ!」


 きっと親父には、誰も味方がいない世界の怖さも、頑張りが報われない虚しさも、分かるはずがないのだろう。

 だからそんなことを言えるのだ。

 

 ふと親父の方を見ると目が血走って、黒ずんだ手は震えていた。

 そんな親父が、ゆっくりとこちらに向かってくる。

 親父がやろうとする事は明らかだった。


 「やめろ」

 

 止めようと立ち上がったけど、もう遅かった。

 親父が振りかぶったバットは、容赦なくPCを叩き割った。

 

 「ゲームなんてしているからこんな人間になるんだ。真人間になれ! それまでお前にゲームなどさせん!」


 そう言い残して、親父は部屋から出ていった。

 

 全てが粉々になっていた。

 パソコンはもう一度、買えばいい。

 アカウントの復帰もそんなに時間はかからない。

 その気になったら一人で暮らせるくらいの賞金は貰っていたはずだ。


 復帰するだけなら、時間はかかっても出来る。

 でも、どうせまたこんな目に遭うのだ。

 ゲームの世界に居場所はあっても、現実の居場所なんてどこにもないんだ。

 

 もう終わらせてしまった方が良いのかもしれない。

 俺を望む人間はいても、それは俺の現実にはいないのだ。


「みじめだな」


 最強の称号も、現実の前には意味をなさない。

 現実は、銃撃で敵を倒せるわけでも、キャラコンで不幸から逃れられるわけでもない。

 おわり、ゲームオーバーといったところだ。


 暗い夜の街を照らす光に見とれながら、つまらないこの世界に別れを告げようかと悩んでいた、そのときだった。


「あなたもそうだったのね?」


 その幼い女の子の声が聞こえた瞬間、俺は意識を失った。

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