友情
沢野
第1話 一方通行な好意
小学校のときに仲良くなった子達がいた。由香と菜奈と綾乃と花音。移動教室では一緒に移動して、休み時間には花音の教室に行ってくだらない話をして。互いのことをあだ名で呼び合うくらい仲が良かった。由香は「ゆんぽん」、菜奈は「ななやん」、綾乃は「やーのん」、私、光希は「みきのすけ」。案外呼びやすくて、みんなそれで呼び合った。
2年の歳月が経ち、私たちは中学生になった。部活動が始まると、みんなで女子バレーボール部に入部した。試合をするたびに更に絆は強くなっていった。たくさん遊びに行って、よく由香の家にお邪魔しに行って雑談とかちょっとした愚痴とかを話しあった。メッセージアプリでグループをつくって、学校で話せないときとかはここをよく使った。
私はこんな楽しい日常を、“あたりまえ”だと思っていた。愚かな勘違いだった。
中学生になってから初年越しをした後の学校の日、私は当然みんなで過ごすはずだと思っていた。
3時間目は理科で、移動教室だった。だから3人のところにいって声をかけようとした。
「ゆんぽーん、ななやーん、やーのーん、理科室行こー……」
でも、教室には3人はいなかった。
「あれ、先に行っちゃったのかな?」
仕方なくその日は1人で理科室に向かった。
それ以外はいつも通りで、話しかけたら話してくれたし、誘ったら一緒に教室に帰ってくれた。なんで先に行ったのか聞きたかったけど、偶々そうなったんだと自分に言い聞かせて誤魔化した。
「ななやーん、やーのん、次音楽だから行こ」
「いーよ」
「ちょ、待ってまだ準備できてない」
「もー、早くしてよー?やーのんいつも遅いんだから」
「ななやんも前準備できてなくて待ってって言ってただろーが」
「うるせー」
けらけらと笑う3人のなかに、私がいる場所はなかった。
日が過ぎていくにつれて、私と3人の関わりは薄くなっていった。私は本をよく読むようになり、1人の行動が多くなった。3人は更に仲良くなっていった。私はあだ名で呼ばれることは無くなった。「みきのすけ」は、元々なかったかのように記憶から消えていった。
そんなときにでも話せていた花音との接点もなくなっていって、花音を含めた5人のメッセージグループは、次第に動かなくなっていった。
いつしか、あの4人とは顔も合わせずに気まずい関係になっていき、話さなくなっていった。
ある日、メッセージグループに通知が入ってきた。
『なんかさぁ、幹ってちょっと無理だよね(笑)。ノリが掴めなくて扱いムズイっていうか、喋ってても楽しくない(笑)』
明らかな悪口が放り込まれた。「幹」と書いてあるが、そんな名前は聞いたことがないからおそらく名前を伏せて呼んでいるのだろう。そして、私が知っている人のなかで「み」、「き」が使われている名前は、私しか思い浮かばなかった。でも、絶対私だと決まった訳じゃない。でも、私の知らないところでわざわざ名前まで伏せて愚痴る理由は?私と仲がいい子の愚痴?でも、なんでここで言ったの?
そんなことを考えていたら、メッセージは削除された。誤送信だったのだろう。そして、僅かな希望を持っていたはずの私は大粒の涙が溢れた。
私はどこで間違えたんだろう、どうして悪口を言われるまで気がつかなかったんだろう。私は深い自己嫌悪に陥った。
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