こだわり

Zamta_Dall_yegna

こだわり

 今野マコトは、アニメ制作が趣味の大学生だ。友人と2人で役割分担して制作している。主に、友人は音楽と編集の担当で、マコトはキャラクターやシナリオの担当をしている。最初はただ作っているだけだったが、段々と公表したいと思い始めた。そこで、作品が万人受けしそうかどうかを、友人に聞いた。

 「俺らのアニメにコメントが欲しいんだけどさ、家族に見せるわけにはいかないし、いい人知らない?」

 それを聞くと、友人は「おっ、いいね」と言ってのってきた。

 「そういうことは仲原が詳しいよ。同じ学部の仲原ね。お前と同じ、映像編集の授業とってるから、接点あるんじゃないか?あいつはアニメ好きでね。性格はアレだし辛口だが、ちゃんとコメントはくれるから、頼んで損はしない」

 「おお、詳しい」

 「ほかにもアイツに見てもらってる奴が結構いるんだよ。なんでも、アイツがOK出せば凄い閲覧数稼げるから、彼らの間では登竜門って呼ばれてる。…俺が聞こうか?」

 「いや、いい。聞きたいことが色々あるからさ。自分で聞くよ」

 マコトは思わぬ収穫に喜びを隠せなかった。

 ―仲原に認められれば、自分たちの作品は売れたも同然じゃないか!―


 手帳には、翌日の3時限目に『映像編集』と書かれている。仲原が欠席しない限り、マコトは彼に会うことができるだろう。

 「仲原か。見た目はどんな感じ?」

 「黒髪で、前髪が目にぶっ刺さってそうな長さで、黒縁眼鏡付けてる。背は高めかな。服はいつもチェック柄のシャツ着てる。デカいリュック背負ってて、体格もそこそこいいから、見れば分かるんじゃないか?」

 「OK。見つけられそうな気がする!」

 

 翌日、昼過ぎにマコトは教室に着いていた。三時限目の授業開始まで15分はある。彼は仲原を探すのに、今になって緊張し始めていたのだ。

 ―見れば分かるだろうけど、ヤバいヤツだったらどうしよう。アイツの紹介だから大丈夫だと思うけど…―

 彼が考え込んでいる間に、教室は人で埋まっていった。チャイムがなってようやく、マコトは現実に戻ってきた。


 教授がプロジェクターを操作している間、マコトは教室を見回していた。前髪が長い黒縁眼鏡だけでも、候補が絞られていく。彼は自分の中で候補を絞っていき、ついに仲原らしき人物を見つけた。

 ―アイツが仲原か?黒髪で前髪長くて…条件は揃ってんだけど、太ってないんだよな。むしろ筋肉隆々じゃないか…―

 思わぬ見た目に、マコトはため息をついた。


 彼の目の前には、問題の書かれたプリントが置いてある。彼は二問目で手が止まっていた。時間制限である5分の間、教室はペンの音だけしかしなかった。


 「では、この問題の答えがわかった人、手を挙げて下さい」

 教室の6割が手を挙げる。マコトはその中にはいなかった。文章が全然頭に入ってこなかったからだ。教授がその中の1人を指名した。当てられたのは、仲原だ。見ると、彼はマコトの予想した通りの人物だった。


 授業が終わった頃、マコトは仲原に声をかけた。

 「あのー仲原さんですよね。俺、今野っていうんですけど、俺、友達とアニメを作ったんです。それの評価してくれませんか?」

 仲原は席に座って、マコトの方を見た。

 「うん。評価してもいいけど、萌え絵なら見ないから」

 マコトはギクリとした。作ったアニメは萌え絵っぽく描かれたキャラクターが出てくるからだ。が、彼は食い下がった。

 「萌え絵が嫌なら、プロットだけでも見てください」

 「プロット…ねぇ。分かった。見るよ」

 マコトは早速喜んで、彼にプロットを渡した。

 「オレ、次も授業あるから続きは後で話すよ。終わったら図書館に行くから、来てくれない?」

 「はい!」

 マコトは事が上手く運んだと、歓喜した。


 蒸し暑い風が吹き付けている。空は青から赤へグラデーションを作っていた。マコトは1人、図書館へ向かっていた。中に入ると、人がそこそこいて、席が埋まっていた。彼はその中から、仲原を探し歩く。

 ―アニメ好きだし、画像・動画系の本棚の近くにいんのかな―

 マコトは早速、その本棚の方へ向かう。すると、近くの椅子に仲原が座っているのを見つけた。

 「やあ、来たね。談話室に移動しようか」

 仲原の案内で、2人は談話室に移動した。


 談話室は換気の効いた、白を基調とした無機質な部屋だった。透明な仕切りがいくつか設置されており、頑丈そうなデスクが並んでいる。


 その中の一つを選んで、2人は対面するように座った。

 「プロット。見たよ」

 仲原はそう言うと、デスクの上にプロットの書かれた紙を置いた。

 「悪いけど、字が読めないところがあって、読みきれてない。良ければ、内容を説明してくれないか?」

 ―さっきから思ってたけど、偉そうだな。本当なら、見てもらったほうが早いし。ま、評価してもらえんならいいけどさ―

 マコトは内心モヤつきつつ、説明をすることにした。

 「普段は地味で目立たない平凡な主人公が、道で転んだら異世界に行ってしまうんです。そこは中世ヨーロッパみたいな世界で、不便極まりないところなんです。で、主人公は元いた世界の知識を使って、文明を発達させて便利な世界を作っていく話です。あ、仲間もいるんですけど、ツンデレ美少女騎士に天然な魔女、獣耳美女がいて、ハーレム要素もあるんですよ!」

 マコトが説明している間、仲原は黙ってプロットを見つめていた。話終えたことを確認すると、彼はマコトの方を見て軽く息を吐いた。

 「要するに、主人公が現代知識で異世界を開拓する話ってことか?」

 「ええ。分かって貰えました?」

 マコトはこのアニメにかなり自信があるらしく、目を輝かせながら仲原の方を見た。対する仲原は、アニメの内容を理解するのに必死だった。

 「で、主人公は異世界の言葉が分かるの?」

 「話が始まりませんし、なんか前置きが長いと、受けが悪いと思ったんですよね。後、俺たち設定作るより、絵を描いたり作るほうが好きなんで。」

 「へぇ。じゃあさ。その美少女たちは、なんで主人公の仲間になったの?」

 「主人公が奴隷だった彼女たちを救ったからなんですよ。ここで、正義感やヒーローらしさを演出してるんですよ」

 マコトは質問にハキハキと答えていった。


 「正直にいうと、よく分からない。君はこのアニメで何を伝えたいの?」

 マコトは驚いた。受けがいい悪いという話ではなかったからだ。彼は世間で人気のある漫画を元にして、作品を作っていた。すなわち、人気取りを中心として考えていた故に、そういう意図というのは何もなかったのだ。

 「そういうのって、需要ありますかね。今の時代、いかに受けがいいか格好良い演出が出来るかとかが大事に思うんですけど」

 「最近は同じような設定、同じような話、お涙頂戴展開が多くてね。そういう話はもうお腹いっぱいなんだよ。だから、長続きしないと思うよ。シナリオ変えたくないなら、独自設定を作るか、映像美やシチュエーションにこだわったら?」

 マコトは泣きそうだった。辛口とは聞いていたものの、ここまで批評されるとは思っていなかったのだ。

 「俺個人としては、セリフにこだわったんですけど…」

 彼は少しでもプライドを保とうとした。『こだわりが違うなら、仕方ない』と言われるかも知れない、と期待してのことだった。


 仲原はそんな彼を見て、軽くため息をついた。

 「キャラクターと本人が似るって本当なんだね。色々なアニメを見てきたオレとしては、属性が分かりやすいキャラ付けやその場限りの決めゼリフとかはキャラものでは王道だと思う。だけど、キャラと関係しない決めゼリフや、長々とした主張とかは…」

 彼の長ったらしい主張にマコトは段々と苛ついて、言葉を遮った。

 「あのー、何が言いたいんですか?」

 「そういうことだよ」


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