第16話 一悶着
鏡騒動から数日後の休日の家
俺は帳くんとの約束を果たすために、勇気を振り絞り湊に話しかけた。
「おはよう、湊。」
「おはよう。」
湊は表情を変えずに答えた。
多分、不機嫌だ。
この家に来てからずっと喧嘩をしてしまっているため、湊の不機嫌が寝起きのせいなのか、俺との喧嘩のせいなのかわからない…。
「朝食を食べ終わったら、話したいことがあるんだけど。」
俺が恐る恐る言うと、湊はすぐに
「僕も話したいことがあるんだ。食べ終わったら僕の部屋に来て。」
と言った。
かなり食いつきが良かったので、湊もずっと話したかったんだろう…。
機嫌が悪いのは気がかりだが、素早く朝食を食べて湊の部屋に行った。
湊の部屋にはほとんどが真っ白だった。
壁紙も白、お布団も白、椅子やテーブルさえも白でまるでモノクロの世界のようだった。
その白いキャンバスのような部屋のおかげで、色鮮やかな本やゲーム機が目に入った。
「とりあえず、ここに座って。」
湊に言われた通りに椅子に座ると、湊はゆっくりと話し始めた。
「正直、最初に見た時からずっと変だと思っていた。これはきっと勘だったんだろうね。」
「隼人はずっと盲目的に彼女を信じていたみたいだけど、少しは目を覚ましてくれたのかな?」
彼女と言われて俺か気づいた。
湊は仲直りの話をしているんじゃない。
「星音さんはどこかおかしいよ。最近は隼人の周りに女性が寄りつかないように根回しをしているみたいなんだ。何か企んでると思う。」
「星音は普通だよ!何も変じゃない!」
俺がそう言うと、湊は少し目を見開いた。
そして、ため息をつくと俺の目をしっかりと見て話し始めた。
「隼人の前では普通に振る舞っているみたいだけど、段々と彼女の行動はおかしくなってきている。」
「少し前に女子トイレの鏡を割ったのも彼女だ。隼人は彼女から離れたほうがいいよ。」
湊にそう言われて俺の中の何かが切れた。
「湊は俺から大切なものを全部奪うんだね。家族も、星音も。どうしてそんなことをするんだ。俺の苦しむ顔でも見たいのかよ!」
湊は瞳の奥で動揺しているように見えた。
だが、それを表情に出さずに落ち着いた声で答えた。
「違うよ。僕は君が大切だから守りたいから君から危険なものを遠ざけているんだ。隼人の家族も君が勇者になることで家族に危険が及ぶかもと思ったから、星音さんは何か悪いことを企んでいる。だから、僕はわざと奪ったんだ。」
湊の冷静な態度が俺の怒りを加速させた。
「前もそうやって冷静に言ってきたよな。心から俺を大切に思ってやったって言うけど、本当に俺が大切なの?」
湊はようやく感情を見せた。
「ごめん。君が一番悲しいのに僕が悲しそうな顔をしてたら良くないって思ったんだ。だから、無理やりポーカーフェイスをしてただけだよ。」
「僕は本当に君が大切だよ。傷ついてほしくないんだよ。」
口だけで言われても俺は信じられなかった。
「俺は湊が信じられない。」
俺はそれだけ言って部屋を出た。
湊は追いかけてこなかった。
俺と湊の仲はより悪くなった。
それ以来、朝食や晩御飯の時間でも時間をずらされているのか湊と顔を合わなくなり、学校の昼食でも一緒に食べないようになった。
それから数日後
俺はさらに星音と仲良くなっていた。
今では、昼休みに一緒にお弁当を食べ、一緒に帰るようになった。
できるだけ湊といる時間を減らしたかったし、星音とも一緒にいれるから。
帳くんに一応、これから星音と一緒に帰ることを報告したが、特に反対はされなかった。
彼女は日焼けしたくないのか、帰り道ではいつも日傘をさしていた。
思い出してみれば、学校にいるときでも日を避けているようだった。
俺が気になって尋ねてみると
「若いうちから日焼けしないようにしないと、シミができるらしいから気をつけてるだけだよ。」
と微笑んで答えた。
シミというのは紫外線によって起こると聞いたことがあるのに、紫外線が多くても曇りの日はなぜか日傘をさしていなかった。
少し疑問を持ったが、彼女の可愛らしい笑顔や仕草によってそんなことはすぐに忘れてしまった。
ある日の帰り道には彼女とカフェに寄った。
下校する際のいつも通り道にあるカフェ。
毎日見ているといつかは入ってみたいと思うようになり、ようやく今日彼女を説得して入ることができた。
そのカフェはこじんまりとした落ち着いた雰囲気の店だった。
お客さんはほとんど入っていないようで、店員さんが暇そうにしていた。
俺たちは適当な席に座り、メニュー表を手にとった。
メニュー表は手書きで書かれたような可愛らしいものだった。
カフェと言えば定番のコーヒーやカフェラテなどの飲み物だけではなく、カレーやパスタ、パンケーキなどがあった。
「星音どれが食べたいとかある?」
「パンケーキとかかな?最近食べてなかったし、写真映えするから。でも、1人じゃ食べ切れそうにないし半分こしない?」
正直俺は、誰かと半分こするのは気が進まないが、星音ならいいと思い承諾した。
「うん。いいよ!」
俺たちはパンケーキと飲み物を注文した。
注文の品が出来上がるまで星音と雑談をした。
「ずっと気づかなかったけど、このカフェの反対側にもカフェがあるんだね。」
彼女に言われて窓の外を見てみると反対側にもカフェがあり、そこは行列ができていた。
「あっちは人気なんだね。」
「うん。調べてみたら反対側の店はネットでバズってるらしい。」
「あっちの店は元々うちと同じぐらい人気がなかったんですけどね…。映えるメニューを出すようになってから人気になってしまって…。」
パンケーキと飲み物を持ってきてくれた店員さんがそうこぼした。
「こっちの店もそういうメニューはやらないんですか?」
「うちにもプライドがあるんだ。祖父から継いできたこの店と料理を変えたくないんだよ。でも、何か手を打たないと赤字続きでやっていけなくなる。」
店員は暗い表情で反対側の店を眺めていた。
「せめてあっちの店がなくなれば少しはこっちにお客さんが来るのかもしれないな。爆弾を仕掛けたり、火事を起こさせたりして…。なんて…、そんな事をしたら俺はお縄だけどな。はぁ…。 」
そうため息をついて彼は店の奥に戻った。
「困ってるみたいだね。どうにかしてあげたいけど、俺にはこの店に通うぐらいしかできない…。」
「うーん。私の知り合いに何とかしてくれそうな人がいるから連絡してみる。」
「とりあえず、パンケーキ食べようか。」
「はい、あーん。」
星音は恋人にしかやらない思われる、あーんをしてきた。
「えっ!自分で食べられるよ。」
俺が困惑していると、星音はプクッとほっぺを膨らませた。
「いいじゃん。誰も見てないし。私がやりたいから付き合ってよ。」
不機嫌になったら困るし、やることにした。
俺が口を開くと、彼女はパンケーキを俺の口の中に入れた。
はちみつの甘い匂い、生地のもちもちの食感、とても美味しいパンケーキだし、目の前にはニコニコの星音がいる。
幸せだと感じだ。
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