やぁ、そこの君、そう、君だ。

見ない顔だね、この王都に来たのは初めてかい？

そうか、世界を旅してるのか、傭兵かな？それとも冒険者かい？

私？ああ、私は学者さ。私も昔、旅をしてあちこちで知識を探求し、

今はこうして旅人などにこの世界の知識を語るのを趣味にしてるのさ。

おや？気になるかい？

勿論良いとも、ただ私が語る知識は日替わり、その日限りの一期一会、

そこだけ、ご了承いただきたく思う。

それでは……、

君は名前くらいなら聞いたことあるだろう、『マンドラゴラ』はどうだい？

そう、マンドラゴラ、引っこ抜けば泣いて叫び声をあげ、

聞いた者に死を招くだとか、軽度でも体調を崩してしまう、とか。

ああ、魔術師が営む薬屋でも実物を見ることが出来るかも知れない。

だが気になったことがないかい？何故マンドラゴラは泣き叫ぶのか、って。

私はその事を題材にいくつもの地域のマンドラゴラを研究し、1つの結論に至った。

それは『人間の赤ん坊と同じだから』だよ。

……言ってる事が分からない？だろうね、私の話を聞く人は皆、

君みたいな変な顔をまずするのさ。

では聞こう、君は何で人間の赤ん坊が泣くのか知ってるかな？

……そうだね、『不快だから』、そうだ、その通りだよ。

お腹空いた、おむつ変えて欲しい、だから赤ん坊は泣く。

実際はもっと深い理由があるかも知れない、だが今必要なのは

不快だから泣く、この全世界共通認識だけあればいい、

ではマンドラゴラに話を戻そう、うん、もう言うまでもないね。

マンドラゴラもまた、不快だから泣くんだよ、何故不快なのか、

それは勿論、『掘り起こされて不快』であり、

植物にとって掘り起こされるという事は『死に直結する行為である』からだ。

人間だって、部屋に引き篭もっていればある日突然知らない人がやってきて

無理やり外に出そうと引っ張ってきたら怖いし意味分からないし不快で

思わず泣きそうになる人がほとんどだろう。

マンドラゴラが泣き叫ぶのはきっと、そういう意図があるんだよ。

ん？この知識が冒険に何の役に立つのかって？

おやおや、私がいつ『役立つ知識』と言ったかな？

時間を無駄にして不快になったなら謝ろう、

でも、もし他の『無駄知識』を聞きたくなったらまたここに来るといい、

次はもしかすると、意外と『役に立つかも知れない知識』に会えるかもね。

はたまた、今日の知識もいつかどこかで『役に立つ知識』になるかもね。

無駄かも知れない知識、活かすも活かさないも君次第という訳だ、

それではご静聴、ありがとうございました。