第34話 ウィッシュ

『魔法で縛っているというなら、ギアスかクエストですね』


『そうだなモリー。この場合はおそらくクエストか。リムーブクエストなど我ら魔属は使えんぞ』


『……一つだけ手はあります。ウィッシュで解除するのです。ですが【可能性】をだいぶ消費してしまうかと。そこまでの価値があるのかどうか』


ふむう、魔法効果解除のウィッシュ程度であれば今はがんがん入ってきておる【可能性】で足りるとは思うが、確かにそこまでしてやるべきなのか?



とりあえず様子を見るか。ズーンを一時捕らえ、いや保護し、防御力が一番高い第二督戦隊に先行してガラテアに入ってもらうとするか。ヘオヅォルにそう言って、先行させた。



ふむ、一目でだめだと分かるな。第二督戦隊がガラテアに近づいただけでガラテア側の高所から矢を射掛けられておるわ。まあ第二督戦隊で今回先行したのは金属鎧に大きな盾を持った重装兵だったから、被害はないがいったん下がらせた。



マルコではないが、面倒だな。居残っている懲罰部隊なぞ殺しても構わんだろうと思いつつ、殺さずに捕らえたほうがいい気もする。



「マリウス、数名を引き連れてガラテアに侵入、敵首魁を捕らえることは出来るか?」


「出来なくはないですが、より今後を楽にするなら、連れて行くのはモリーかアリス様、そしてマルコも一緒がいいです」

『あと今の僕の持つ【可能性】では足りないので補助をお願いしたく……』



「そうか、ならばマルコとモリー、マリウスを手伝ってやってくれ」

『【可能性】は融通してやろう。お前のやりたいようにやるがよい』



「ヘオヅォルは陽動をしかけてやってくれ。ハノンは奇襲がないか気をつけよ」


「分かりました。ではアリス様はなにをなされるのですか?」



「分かっておらぬな、ハノン。我はここでふんぞり返っておるだけよ。場は整えた。長は座って待つのみよ」


「しかし先程アリス様でも良い、とマリウスさんはおっしゃっていましたが……?」



「ええい、うるさいわい。我のこの姿で敵首魁に侮られるわけにはいかんのだ。それよりヘオヅォルは命令に従ってすでに行動しておるぞ、我はハノンにも令を与えたよな?」


「確かに今お召のドレスは似合っておいでです。しかし僕もすでに部下に警戒するように指示していたのですよ。もう僕にやることはアリス様のお側で控えることだけです」


「……言うようになったの、ハノン」


「そのようになさったのはアリス様です」



「そうだったな。我は期待しておるのだ、ハノンにな」


「もったいなきお言葉。最初の出会いが信じられません。僕はただの行商人であったはずなのにいつの間にか一軍の長みたいなものです」



「どんなに高い可能性をもっていようと、それを見抜き取り立てる者と出会えなければ、宝の持ち腐れよ。ハノンも我も運が良かったのだ、とでも思っておくが良い」


「アリス様も、ですか?」



「ハノンと出会わなければ我がネソの村に向かうことはなかっただろう? そこからは成り行きよ。最初にきっかけを作ったのは、ハノン、お前だということだ。それは我にとって運が良かったと言えるだろう?」


「そうですね、モリー様の上がアリス様で良かったです」



ふむ……、我が魔王として君臨していた時、こんな心休まる時があっただろうか? 我のもとに腹心がいたという記憶もないしな。やはり【絶望】の属性では、こうはいかないよな。おそらくだが封印の効果によって我の属性は変異したのだろう。【希望】は持続するからな。


どちらが先なのだろうな。良い部下を得たから良い上司になるのか、良い上司だから良い部下を得れたのか。【希望】の属性は我という存在にも影響を与えているのだろうな……。



そう、しばらく戯れておっただけで事は済んだようだ。


マリウスは見事モリーとマルコを連れて、ガラテアへの潜入に成功し、そこの守護を命じられた首魁を部下ごと、【支配】した上で【魅了】をしてきたようだ。


さて、この首魁、怒りの形相である。確かに【熱狂】までしておるのに、我に従わん。予想した通り、クエストの魔法で呪われておるようだ。


マリウスによると、罪は軽微で裏切りの罪だそうな。裏切りで犯罪者落ちとは何をやらかしたのか気になったのでウィッシュを使うことにした。



「今から我が、貴様らにかかっておる呪いを解いてやる。だから我に従え?」



首魁の男は無言でこちらをちらと見ただけだった。まあ呪いの制限下なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る