第33話 使者
タラッサを【熱狂】で沈めて二日後、タラッサを三ギルドマスターに任せて、鉱山都市ガラテア平定へ我らは向かった。
その二日で、荷止めでタラッサに残っておった他領や他国から運ばれてきた犯罪者を吸収し、また冒険者ギルド経由で我らに参加したいというものも吸収した。
もちろん加える前にマリウスに見させた。罪が重く反省の色後悔の色がない犯罪者どもは人知れず生贄に捧げた。我のところで悪さされたら困ったことになりかねんからな。
使える犯罪者どもは督戦隊に率いられる懲罰部隊なようなものに加えた。使い潰すつもりはないが、損な役回りになるやもしれんな。レッサーデビルたちもそこにいるのでまあ滅多なことにはならんだろう。
元町人や船員、冒険者などはハノンの元においた。人の上にも立たせて鍛えなければ。ヘオヅォルには前線で指揮をとってもらいたいから、ハノンは守備中心で頼むつもりだ。素人同然も多いしな。
ガラテアにあともう少し、というところで、念話を受けた。アロンとサムソンからだ。預けてあるゾンビラットを通じてである。
『アリス様、遅くなりましたがハーシェル領の領主ハインド様との面会の約束を取り付けることに成功しました。今そちらはどうなっているのでしょうか? 何をハインド様にお伝えすればよいでしょうか?』
ふむ、確かハーシェル領はブヴァードと仲が悪かったな。同じ貴族じゃし、こっちの手助けをさせることは出来るだろうか?
『こちらは進展しておる。ブヴァード領主は領民の反感を買いすぎて、現在反乱を起こされておる。排斥するのは今だと伝えよ。反乱の勢いは強く、周辺、もしかすると王国にも飛び火しかねない、とな。ネソの村はもう完全に安全だから援軍はいらぬ』
『そ、そんな大事になっておるのですか! 村はもう安全なのですね、安心しました』
『村の帰属先を改めるにしろ、今はブヴァードの存続が危ういからな。逆にハーシェルにとってはチャンスであろう。ハーシェル領主にブヴァードをなんとかしたいなら今がチャンスだと、伝えるが良い』
『そのようですね。アリス様、村をお救いいただきありがとうございます。それに報いられるよう努力いたします』
『うむ、事が終わったら村へ戻るが良い。皆待っておるであろう』
『はい、ありがとうございます』
そのつもりはなかったが、アロンとサムソンをあちらに向かわせたのは正解だったかもしれんな。どう考えてもブヴァード領主はやりすぎて王国としてもガンとなっておるからな。貴族同士の足の引っ張り合いに巻き込めば、完全に潰せるかもしれぬ。
念話でやり取りしておるうちにガラテアを射程に収めたようだ。さて、どうしてくれようか。
と考えておったら、ガラテアからの使者とやらがこちらに来た。ガラテアには第三督戦隊と懲罰部隊、そして懲罰鉱夫がたくさんいたはずだが。
その使者とやらはどう見ても鉱夫。鉱夫が使者? 何が起こっておるのかのう。
「我がこれらを率いておる長、アリスである。貴様は何者か? ガラテアから来たと言っておるそうだが、督戦隊はどうした?」
周りにゴーティアやヘオヅォル、ハノンをおいて、尊大に聞いてやった。これだけの者たちを配下に持っておるのが分かれば、如何に見た目がどこぞの貴族の子女にしか見えなくても侮られはせんだろ。
「は、はい。俺……わ、わたしはガラテアで鉱石を掘っていた懲罰鉱夫だったズーンといいます。ガラテアは現在、第三督戦隊が逃げ出して、鉱夫と懲罰部隊が争っております。わ、わたしは鉱夫の方ですが、わたしは懲罰部隊と争う理由はないと思っています。同じように考えた俺らのリーダーが、お、わたしをここに送りました」
「懲罰鉱夫? ああ懲罰部隊と同じく鉱山に送り込まれた元犯罪者か。ふむ? すなわち我らに調停しろ、とでも?」
「はい、タラッサが反乱により、ガラテアに軍勢を送ったという話はすぐにこちらにも流れました。あ、貴方様にはそのままガラテアに入っていただくだけで良かったんですが、第三が逃げるのが早すぎたんです。ですから誰がガラテアを占めるのか、を争うことになってしまいまして。懲罰部隊はガラテアを死守するように厳命されたようですが、そんなのもう聞く必要ないですよね。なのに……」
「お前たち、なにか分かるか?」
「俺は分かりません。逆らう者は全部斬ればいいんじゃないですかね?」
「わたくしもちょっと分かりかねます」
『このズーンとやらはただの小悪党で、すでにすっかり反省、というか懲りておりますので言は信用できるかと』
「第三督戦隊の隊長は魔法使いです。ですから何かの魔法で懲罰部隊を縛っている可能性があると思われます」
マリウスの念話とヘオヅォルの発言が役に立つな。
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