第九章 価値観の衝突

一週間後、翔太から連絡が来た。


『話したいことがあります。会えませんか?』


美咲は迷ったが、最終的に会うことにした。待ち合わせ場所は、最初にデートしたカフェだった。


「美咲さん、お疲れさまです」


翔太は普段より控えめな様子だった。美咲はいつものジーンズとパーカー姿で現れた。


「この間は、僕が一方的でした」翔太が謝罪した。


「美咲さんの気持ちを考えずに、勝手なことを言って」


「...」


「でも、僕なりに考えました。美咲さんのことを、もっと理解したいんです」


美咲は黙って聞いていた。


「僕、最初に美咲さんに惹かれたのは、他の人とは違う考え方を持ってるからでした」


「でも、付き合ううちに...僕の価値観に合わせてもらおうとしてました」


翔太の言葉に、美咲は少し驚いた。


「翔太さん...」


「美咲さんにとって、本当に大切なものは何ですか?」


美咲は少し考えてから答えた。


「仕事に誇りを持つこと。自分らしくいること。嘘をつかないこと」


「僕にとって大切なのは...見た目を整えること、SNSでの評価、周りからの羨望...」


翔太は苦笑いを浮かべた。


「なんか、全然違いますね」


「そうですね」美咲も苦笑いした。


「でも、だからこそ惹かれ合ったのかもしれません」


翔太の言葉に、美咲は頷いた。


「でも、翔太さん。私は変わりたくないんです」


「...分かります」


「翔太さんも、私のために変わる必要はないと思います」


二人の間に、静かな理解が生まれた。


「じゃあ、僕たちは...」翔太が尋ねた。


「きっと、合わないんでしょうね」美咲が答えた。


「でも、お互いを尊重することはできますよね」


「はい」


二人は微笑み合った。それは、恋人としてではなく、一人の人間として相手を認め合う微笑みだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る