恥
白川津 中々
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土岐政長という槍の名手がいた。
その槍術は比類なく、一騎当千の呼び名に偽りない活躍であったが、政長は不器用な男であった。演舞にて槍を手元で回すと決まって足下に転がしてしまう不覚を働くのである。
しかし、政長はそれを笑われても怒るような事がないばかりか、彼自身も大きな口を開け一際愉快そうにするのだった。誰も彼も、それは政長の人徳だと持て囃していたが、実際には違う。戦場で数多の敵を討ち首級をあげたときも、同じように笑うのだ。それは、恥も道も知らぬからである。
「敵を殺せば皆喜ぶ」
政長は同輩にそう語っている。
戦の世である。敵を撃ち倒し名を上げる事に血を激らせるのは間違いではない。しかし政長の場合、功名や立身などではなく、他者の機嫌に喜憂を任せているのである。自身の骨身に気概が打ち込まれていないのだ。それは武人として致命的であった。
後年政長はとある戦場で討死ぬ。
その時、糞便を漏らしながら命乞いをする姿を件の同輩が目にしていた。
「人道を知り学べば無様を晒す事もなかったろうに」
彼は晩年、政長を思い出しそう語っている。
憐憫に満ちながら、蔑むように。
恥 白川津 中々 @taka1212384
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