第7話
どれほどの時間が経ったのだろうか。
男が去った後も、身体に残る痛みと痺れは消えなかった。
私は、全身の自由を奪われたまま、冷たい牢の中に一人残された。天井から吊るされた鎖が、私の手首を拘束している革の手枷がギリギリと食い込み、更に全身の重みがそれにのしかかると、両手の感覚が無くなってくる。
ブラジャーとキャミソールを剥ぎ取られ露わになった私の上半身に、牢の冷気が容赦なく突き刺さる。もう、恥ずかしさも、痛みも、寒さも、どうでもよかった。
「どうなっちゃうの…私…」
朦朧とした意識の中、ぼんやりと天井を見上げながら、私は考えた…
「このまま、私は死んじゃうのかな…」
もう、逃げ出すことも、助けを求めることもできない。遠い故郷の空を思い出し、涙が止まらなくなった。会社の先輩や同僚、家族の顔が次々と脳裏に浮かぶ。こんな形で、私の人生は終わってしまうのだろうか。後悔と絶望の感情が、私を深く深く沈めていく。
もう、誰にも助けなんて来ない。
私は一人、この異世界の牢獄で朽ちていくのだろうか…
絶望に打ちひしがれていると、隣の牢からかすかに物音が聞こえる。
「ねぇ、誰か…いるの?」
私はか細い声で尋ねた。
返事はない。だが、間違いなく人の気配がする。
この薄暗い牢獄に、私以外にも人がいる。
その事実に、私の心に小さな希望の光が灯った。
「あの…誰かいますか?」
もう一度、今度は少しだけ声を張って呼びかける。すると、隣の牢の壁の向こうから、弱々しい声が返ってきた。
「ああ、…ここに、いるよ」
その声は、私と同じようにひどく疲弊し、弱りきっていた。言葉が通じる。その事実に私は安堵した。もしかしたら、その人も私と同じように、別の世界から来たのかもしれない。
「あなたも…捕まってしまったんですか?」
私の問いかけに、隣の牢の人は少し沈黙した後、ゆっくりと答えた。
「もうずいぶん、ここから出ていない…」
声の主は、私と同じようにこの城の犠牲者なのだろう。私は、隣に人がいるというだけで、少しだけ心強くなった。
この牢獄で、私は一人ではない。
この出会いが、私の運命を変えるかもしれない。
私は隣の人物に自分の身の上を話し始めた。
現代の日本から来たいこと、営業中にエレベーターで異世界に来てしまったこと、そしてロレンスという薬師に助けられ、この城に侵入しようとして捕まったことを。全て話し終えると、隣の人物は静かに言った。
「…そうか。そなたも、異邦人だったか。私の名は…ヨシツネ」
ヨシツネ。
その名を聞いて、私の頭の中に何かが引っかかった。歴史の授業で習った、教科書で見たことがある名前。
源義経……まさか。
「あの…日本の…源義経…ですか?」
私の震える声に、隣の人物は「ほう、よく知っているな」と少し驚いたようだった。
「ああ。私は兄の追手をのがれ、遠く異国の地に渡り、歴史の表舞台から姿を消した。縁あってこの世界に来たのだが…それももう随分と昔の話だよ…」
にわかには信じられない話だ。目の前にいる(声だけだが)人物は、まさか日本の歴史上の人物だというのか?だが、この異世界でならあり得ることなのかもしれない。私は、新たな希望を見出したような気がした。
日本の歴史上の人物が、なぜこの世界に?
そして、彼はなぜ牢獄に閉じ込められているのか?
ヨシツネという存在は、この世界で生きていく上で、そして元の世界に帰る上で、大きな鍵となるかもしれない。
OLトモミの異世界生活 もこともこ @mokotomoko
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