第2話連絡先交換しない?
相変わらず眠い目を擦りながら、学校までの道をくたびれた姿勢で歩く俺。
昨日も徹夜でアニメを見て、朝方シャワーを浴びそのまま一睡もすることなく家を出てしまったのだ。
仕方あるまい、今期アニメが豊作すぎるのがいけないのだから。
そんな誰に向けたでもない他責をしつつ、足を前へ前へ動かしていく。
「あ、もっちーじゃん。おはよー」
後ろから馴れ馴れしく声をかけられた。
寝不足にはまぶしすぎるほどの美貌を備えたそいつは、昨日復学したばかりの神崎紗代だ。
「ああ、神崎か。おはよう・・・って、今俺のことなんて呼んだ?」
「ん?もっちーだけど」
「なんだよそれ...」
「望月だから、もっちー」
まあ、そう呼ばれたことが無いではないから由来は分かるけど......
「なんで、あだ名なんだよ?」
「こっちのが、響きかわいいじゃん」
「そうか...?」
「そうだよ~」
なぜかやたら上機嫌な神崎は、カバンにつけたキーホルダーをいじりながらそう言った。
「お、それ今やってるアニメのキャラだよな」
俺がぽつりと言うと、すばやく顔を上げた神崎は目を丸くして驚いたような表情をしていた。
「え!もっちー知ってるの!?」
「ああ、ちゃんと毎週リアタイしてるぞ。そのせいであまり眠れてないけどな」
俺は、すっかりあだ名で呼ばれていることには触れないことにした。
それと、間違いなく学年トップクラスの美少女と、流れで一緒に登校していることにも。
「へえ~!だからクマがひどいんだ」
「おい、事実だが、少々デリカシーが無いんじゃないか?」
「あはは、ごめんごめん」
「全く心がこもっていない、、、」
そんなことよりさ、と俺の言葉を一蹴して神崎が続ける。
「こんな共通点があったんだね。私、ちょっと嬉しいな」
神崎はにこり、と微笑んで言った。
「そうか?アニメ見てるやつなんて、クラスにもいっぱいいそうだけど」
「もっちーと一緒なのが、嬉しいんだよ」
「そ、そうかよ、、、」
すかした風に返事してみせたが、俺の心臓はバクバクだった。
顔がやけに良いせいで、2次元で目が肥えた俺ですらドキッとする。
俺はそれを顔に出さないよう気を付けながら、神崎と他愛もない世間話をして教室まで一緒に歩いた。
教室の自分の席に座ってから、俺はHRまでの十分間を睡眠に使うため、いつものように机に突っ伏していた。
「紗代ちゃんほんとに可愛いー!」
「肌きれいすぎだよ、普段どんなスキンケアしてるの?」
「んー、色々試したけど、お肌にはやっぱ睡眠が一番だよ!」
等々、俺の横の席でガールズトークがなされており、つい気になって耳を傾けてしまい結局、全然眠れなかった。
まあ、長らく不登校だった神崎が、復学直後にこれだけ友達ができたのは、良いことだ。
それに比べて、皆勤賞なのにちゃんと話せる友達がいない俺って......
それでも俺は前向きに生きていくことを、静かに決心した。
昼休み、いつも通り一人で弁当を食べていた俺に、神崎が声をかけてきた。
「もっちー。連絡先交換しない?」
「え?急すぎるだろ」
「まあまあ、そんなもんでしょ」
「でも、なんで俺と?」
「今日までに、もっちー以外のクラスメイトとは交換してるからさ」
「あともっちーだけなんだよ」
まあ、それなら自然か......俺が自意識過剰だったか?
「なるほどな。俺のでよければ」
「やったー!ありがと」
いちいち仕草がかわいいんだよなあ。
「にしても、連絡先交換なんて久しぶりだなー」
「もっちー、もうちょっと人と関わったほうがいいよ、、、」
若干引き気味で言われてしまった。ちくしょう。
「じゃあ、私戻るね。昼食中にごめんね」
「全然、大丈夫。どうせ動画見ながら黙々と食べてるだけだし」
「そっか。ごゆっくり~」
そう言うと神崎は、固まって飯を食っている女子グループへと戻っていった。
俺もスマホを横画面にして、ゲーム実況の続きを見始めた。
終礼の後、俺は帰る準備をしていたところ、ふとスマホの画面が光った。
ん?俺に通知とは珍しい......
そう思い通知画面をタップすると、神崎からメッセージが届いていた。
『また明日ね!今日こそちゃんと寝るんだよー』
「ーーーっておい、隣なんだから声に出せ」
俺は隣で席に座ってスマホをいじっている神崎に向かって言った。
「た、確かに!?」
「天然すぎるだろ」
「あ、あはははは、、、」
なぜかぎこちない様子で、神崎は苦笑した。
教室を出た俺は、神崎にメッセージを返した。
『またな。そっちこそ早く寝とけよ』
すると、一瞬で既読が付き、返信が来た。
『私は早寝だもん!』
メッセージに加えて、猫が怒っているようなスタンプも送信されてきた。
どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
申し訳程度に、謝っている犬のスタンプを送っておいた。
女子とのメッセージは難しい......
「あんな風に無理矢理ごまかしたけど、バレてたかなあ、、、」
私はどうしても望月くんの連絡先が欲しくて、クラス全員と交換したなんてウソを、つい言ってしまった。
こんな性格の悪い女子、好きになんてなってくれないよね......
しかも交換できたのが嬉しくて、同じ教室の中でメッセージ送っちゃったし。
「もー、ほんとうまくいかないなあ」
私は部屋のベッドの上で、ひとりごちた。
せっかく頑張ったのになー......
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