不登校だった神崎さんは、

しん

第1話いや、初対面だろ?

朝、始業前の教室。


「おはよう、望月もちづきくん」


横から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


が、徹夜明けで登校するや否や机に突っ伏したままの俺は顔を上げる気力もない。


そもそも、この教室で俺に挨拶をしてくるような物好きな人間は1人もいない。


うん、聞き間違いだろう。俺は顔を上げるのをやめた。


「ーーーねえ、望月くんったら。顔くらいこっち向けてよ」


どうやら俺らしい。仕方なく顔を上げる。


「え、お前、誰?」

見覚えのない人間が俺の隣の席に座っているではないか。

確か隣のやつは、病気やらで不登校中の、地味な印象の女だったはずだ。


だが今隣に座ってるその子は、芸能人や女優と並んでも遜色ない、街中ですれ違う全員が認めるであろう黒髪の似合う美少女だ。


「ひどい、覚えてないの!?」


「いや、初対面だろ?」


「違うよ!今日から復学したの!」


「ああ、神崎、だっけ...」


「そう!神崎かんざき紗代さよ!」


「え?俺の知ってる神崎は、もっと地味な女なんだが」


「ちょ、最低!確かに、ちょっと見た目は変わったかもだけど、、、」


いやいやいや、ちょっとというレベルでは済まされないぞ......

もしこの女が本当にあの神崎なら、俺のボキャブラリーでは形容できる言葉が見当たらないくらいの変貌っぷりだ。


「お前、本当に神崎かよ?」


「あっ、疑ってるね?ほら、これ見てよ」

隣の美少女が指差したのは、『神崎紗代』と書かれた学生証だ。


「本当に神崎なのか...学生証の写真と全然違うじゃないか」


「やっと信じてくれたか。私、休学中、メイクとか頑張ってたから」

メイクってこんなに人を変えられるんだな......女子ってすごい。


「そんなことしてたんだな...病気だって聞いてんだが、治ったのか?」


「それはもうばっちり!ーーーと言いたいところだけど、まだ薬は定期的に飲んでるよ」


「そうか。まあ、学校来れてるなら良かった」


「というわけで、これからよろしくね、お隣さん!」


「お、おお、よろしくな」


俺は気づいている。先程から痛いほど突き刺さっている男子からの嫉妬の視線に。

男子どころか、女子含めたクラス中の人間の「なんであいつと?」という疑いの目。


「これからどうなることやら、、、」


「ん?なんか言った?」


あなたのことですよ、神崎さん......




それから終業までの1日は、言うまでもなく最悪だった。

別に神崎が学校に来なくなる前も特に仲良くはなかったのに、やたら俺に話しかけてくるのだ。

その度に感じる周囲の視線に、初日にして既に俺は耐えられなくなっていた。


帰りのHR後、カバンに教科書をしまう神崎に俺は言った。


「なあ、クラスから浮いてるぼっち陰キャの俺に、あまり話しかけてこない方が身の為だぞ」


神崎は少しムッとした顔をした。


「自分をそんな風に卑下するのは良くないよ」


それに、と続ける。


「私は、好きで君に話しかけてるから」


優しい表情で、穏やかに神崎は言った。


「そ、そうか。物好きなやつもいるもんだな」


「へへへ、そうかな?」


褒めてはないんだが......まあ、いいか。

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